※アイキャッチ画像 Gemini AI
※注意:実在の団体、事件とは一切関係ありません
Prologue
一瞬一瞬の、この神聖な時間を大切にしていきたい。
祈りをささげるだけなのに、イヤな感じはまったくない。
牧師服を身にまとい首元には銀色のロザリオネックレスがキラリと輝く。
時刻は今、午前十一時半、まだお昼にもなっていない。
静かなこの教会でただ一人、私は祈りを捧げていた。
風の音だけが、扉からすーっと。
天職なのではないかと幼い頃から思っていた今日この頃。
ただ一つの革靴のような。
こつん、こつんと歩く足音がこちらに近づいている。
私は祈りを捧げるのをやめ、一礼して背後をゆっくりと振り向いた。
誰もいない。
「おかしいわね、先ほど誰かの気配がしたような気がしましたのに」
もしもイタズラなら・・・・・・なんて下品な考えはよろしくない。
しかし、どこからか走ってくる音が聞こえてきたとき。
他のシスターたちが次々と現れる。
「まあ、みなさま。祈りはもう終わりました。次のお仕事は」
わたしが提案をしたその時だった。
背後から背筋が凍るような寒気が襲ってきた。
鉄の焦げた匂いも。
「あなた・・・・・自分が何をしているのかわかっていらして?」
「嘘でしょう?本当に何もしていないのですの?」
「ご自分の身分ぐらい、しっかりしたらどうなの?」
「はっきり言うわ、あなた、恋人ができたなら今すぐここから出ていきなさい」
シスターたちが、何やらひそひそと話している。
いったい何の冗談を言っているおつもりなのか。
わたしは正直に話す。
「冗談を言わないで、男性など連れてきてはいません。何かの見間違いよ」
シスターたちが正気を疑うような目でわたしを見つめた。
それも赤い目で。
「そう・・・・・もしわたしの背後に誰かいらっしゃるなら、みなさん謝りなさいな」
当然ながら恋人などいない、シスターには不要。
生暖かい息が首筋から伝わってくる、それも付きまとうように。
違和感を感じた。
「ほら、ごらんなさい。誰もいないでしょう?」
少なくともわたしは嘘を言ってない。
次の発言で気づかれるまでは。
『彼女たちは既に喰らった、次は貴様の番だ』
それ以来、わたしに教会から仕事が来ることはなかった。
天使像は壊れたまま、誰も助けてはくれない。
祈りはもう届かない。

ACT1:目覚める天使
「はぁ・・・・・また夢?」
ベッドから起きあがったシャロンは時計を見る。
時刻は午前五時四十分、早朝だった。
金髪のブロンドロングヘアーにキレイな水色の瞳。
今はもう、シスターではない。
信じられない話かもしれないが、シャロンは天使なのだ。
いわゆる異世界から転生、してきたのではなく。
彼女は教会にあった天使像で目覚めた美女。
簡単に言ってしまえば、【怪異もどき】だ。
現在は聖咲(ひじりさき)家のお屋敷で暮らしている。
シャロンが目覚めた時には既に天使像は壊れていて、大騒ぎになっていた。
その時、聖咲栄進(えいしん)というお屋敷の主が彼女を引き取った。
栄進は「天使像に閉じ込められたシスターを助けた」と言って教会を去った。
当然、他の人はそんなフシギな話を信じることはない。
シャロンは修道院姿のまま目覚めた【怪異もどき】。
人間離れした力を持ち、天使に変身できる力を持つ。
毎回祈りを捧げていたシスターたちの想いが具現化した者。
栄進は教会の管理人の仕事をしていた為、シャロンを恐れなかった。
「人でもあり天使でもある、どちらでもいいじゃないか」
栄進の言葉のおかげで、シャロンは生きる意味が見つかった。
自分の名前だけを覚えていて、この先どうしたらいいか。
栄進は家族のような暖かい人間だった。
まさか天使像の中で眠っていたなんて、フシギ過ぎる。
「わたしは、わたし。聖咲シャロンなのだから」
聖咲シャロンとして生きる、天使になるときは誰かを助ける時だけ。
栄進との約束を守りながら今日もお嬢様らしく過ごす。
「おじいさま、わたしは必ず約束を守ります。誰かを助けて思いやりのある人間になることを」
銀色のロザリオネックレスをぎゅっと握りしめ、首元にかける。
すると玄関のチャイムがリンリンと鳴る。
「はい、今行きますわ」
シャロンが玄関前まで走りドアを開ける。
「こんにちは、聖咲さん。今、お時間よろしいでしょうか?」
スーツ姿の顔立ちの良い青年が現れた。
シャロンは二コリと微笑み、うなずいた。
「おじいさまは、今いらっしゃらないのです。それでもよろしければお茶でもいかかです?」
「構いませんよ。お話ししたいのは、君の方ですから」
シャロンはきょとんと首をかしげるが、すぐに青年をお屋敷に招いた。
続く