※アイキャッチ画像 Gemini AI
※注意:実在の団体、事件とは一切関係ありません
ACT2:シャロンの運命
「失礼、自分はこういう者でして」
青年が名刺を渡し、シャロンは困惑してしまう。
「すみません、わたし。日本語を読むのを勉強中でしてこういった経験があまり・・・・・」
「栄進様からお話は聞いていますよ。お嬢様は世間知らずだが学びたい気持ちはあると」
彼は桐生大輝(きりゅう・ダイキ)、教育委員会のエリートだ。
シャロンも失礼のないように自己紹介をする。
「シャロンと言います。ダイキ様は【お偉いさん】というお方なのですよね?」
「もしかして君、失礼じゃなければ学生さんかな?」
「いえ、成人しています。これでも前はシスターをしていましたから」
「ならフランクに話させてもらおうかな。シャロンは面白い子だね。お堅い奴だったらどうしようかと思ったよ」
こんな厳しそうな見た目をしているのに話をしてみると意外といい人かも。
今まで男性に出会ってきたことは少ないのでちょっと新鮮な気持ちだ。
「そんな、わたしなんてまだまだです。外国にいた頃はもっとヤンチャでしたもの」
「あんまり想像つかないな、おっと肝心なことを今日は伝えるんだった」
大輝は慌てて黒い鞄からガサゴソと何かを取り出すしぐさをはじめた。
黒いバインダーのようなものだ。
シャロンは興味津々にそのバインダーを見つめる。
「まあ、これはいったい?」
「こいつは、出席簿って言って学校の生徒たちの名前が書いてある資料をしまうバインダーだ。でもただの出席簿じゃないんだなこれが」

「と言いますと?」
大輝はニヤリと妖しく笑うと、中身をシャロンに見せた。
出てきたのは、様々な子どもたちの写真というより履歴書のようなものだった。
「これから話すのは君にとっても重要な役割だ、外の世界を知らない君でも誰かを導いてあげたいと栄進様から話を聞いているぜ。だからよーく俺の話を聞くんだ。今から語るのは【極秘】だからな」
「おじいさまが言っていたの?わたしはもうお仕事をする気はないと・・・・・」
シャロンがオドオドと手を横にふるが、大輝は真剣な眼差しで「黙って聞け」と言わんばかり。
だけど栄進の頼みならば断ることはできない。
約束したのだ、必ず栄進に頼ると。
「わかりました、お話を聞かせてください」
「よかった。そいじゃ話すぜ」
大輝はバインダーをシャロンの方に見せて、顔を見つめながら言った。
「シャロン、君は今日から教師として活動してもらう」
ACT3:グレーリスト
ちょっとだけ話はさかのぼり、シャロンは大輝の説明を聞いていた。
このバインダーは【グレーリスト】と呼ばれる出席簿。
様々な学校で【問題児】として取り上げられている生徒たちをリストアップ。
ここに載っている生徒たちは癖のある厄介な【問題児】ばかり。
不登校、いじめ、人間関係、成績の低い者・・・・・・いやそれ以前の問題。
当然ながら、彼らの顔写真は親御さんの許可を事前にとっておりプライバシーも守られている。
最終的には【グレーリスト】に載っている生徒たちは【結縁学園】という場所に転校することになる。
大輝は【結縁(ゆいえにし)学園】の校長先生から指令を受けている。
「・・・・・・と言うことだ、まぁ簡単に言えば君は教師になって彼等を助ける仕事をしてほしいってことさ」
「大体の事情はわかりました、ですがどうしてそんな大変なお仕事をわたしに?」
「本来であれば、教師のプロに任せるのが仕事。だがこのご時世、教師の数は少なくなっている。栄進様は引き受けてくれるそうだぞ」
「おじいさま・・・・・出かけてくるという理由はもしかしてこのこと?」
シャロンは今の説明を聞いて彼らを助けてあげたい気持ちになった。
しかし、教師としては見習い。
シスター時代は子どもたちや迷える人間の悩みをいくつも聞いてきた。
当然ながら、大輝はシャロンが天使だと言う事は知らない。
天才お嬢様と栄進は言ったのだろう。
「ダイキ様、わたしは子どもたちを助けてあげたいと思いますわ。しかし、そんな大役がわたしに勤まるか・・・・・」
「だよな、最初は戸惑うよな。そんなことだろうと思いもうひとつ彼等には重要な共通点があるんだ」
「重要な共通点?」
顔写真に写っている生徒はみんな、傷痕があるとか病気だという痕跡がない。
不登校、いじめ、人間関係、成績の低い者・・・・・・いやそれ以前の問題。
【問題児】と呼ばれていてなんとかしてほしい。
シャロンにはチンプンカンプンだ。
「君がシスターなら信じてくれるだろう、彼等には【怪異が取り憑いている】んだ」
「怪異が?この子たちに?」
「写真では解らないかもしれないが、【凡人の考えでは通用しないくらいヤバイ怪異なんだ】と。俺が知る限りは、君はそれに関しては専門分野らしいな?」
シャロンは力強くうなずいた。
教会で怪異絡みなど日常茶飯事。
他のシスターがたとえ見えなくても、子どもたちが異変を感じていればそれは彼らの仕業。
だが子どもたちに怪異が取り憑いているのは話は別。
(もしも、彼らに悪気がなくても悪影響を与えているのであれば黙っていられませんわ。おじいさまは、きっとわたしのためにお仕事を探してきていたのね)
人間として、時には天使として自分にできることがあるのなら。
グレーリストなど大したことはない。
「あの、ダイキ様。わたし実は・・・・・怪異もどきなのですが」
「マジか⁉ いったいどんな系統の奴だ」
シャロンは二コリと微笑み、スカートの裾をあげる。
「わたしは、天使に変身できるのです。決めました。迷える子どもたちを導くために教師になることをここに誓います。そう、エンジェル・プロフェッサーとして!」
続く