※アイキャッチ画像など Gemini
※注意:実在の団体、事件とは一切関係ありません
EP1、アオイの憂鬱
ロリータ制服衣装に身を包み、優雅に歩くその姿は百合の花。
聖咲シャロンは、教師としてグレーリストに載っている問題児を助ける。
正しい道に導くために、暖かい光に包み込むような。
はたから見たら美人なシャロン。
今回向かった学校は、羽川中学校。
緑色の制服が特徴でスクールバッグもおしゃれな革製。
運動部と文化部で多くの賞を取っている。
その中で、シャロンが担当するクラスは。
二年C組。
教壇に立つ生徒指導の若道先生が廊下にいるシャロンにアイコンタクトする。
「みなさん、おはようございます」
『おはようございまーす!』
生徒指導が来たからか生徒たちは驚いて真面目に挨拶。
若道先生が詳しく説明する。
「今日から二週間、臨時として君達のクラスに担任が入ってくる。さぁ、どうぞ」
シャロンは背筋を伸ばし教室へと入る。
キラキラと輝く白い光に生徒たちは驚きの声をあげていた。
「めちゃくちゃ美人じゃん!」
「マジかよ!外国人だ」
「えーかわいいっ」
シャロンが教団の上に立ち黒板の白いチョークで名前をかいた。
「聖咲シャロン先生、担当教科はコミュニケーション英語だ」
「はじめまして、わたしはシャロン・ヒジリサキと言います。二週間という短い期間ではありますが、どうぞよろしくお願いします。もちろん日本語も話せますのでどうかよろしくね」
シャロンがお辞儀すると男女問わずみんな黄色い声をあげて拍手した。
若道先生は空気を読み教室から去り、シャロンだけの独壇場になった。
(頼みましたよ、聖咲先生)
(お任せくださいな)
ここからはいわゆる質問コーナー的になった。
「シャロン先生、質問です!どこから来たんですか?」
「イギリスから来ました。生まれは日本ですが」
「先生の好きなアニメとかあれば教えてください!」
「そうですね・・・・・・あまり観てはいないのですが最近観たのは【君に恋してる】です」
「はいはいはーい!シャロン先生って、好きな人いるんですかー?」
「こらっ!そんなことは聞いてはいけません。次にそんな質問をしたら宿題を多めにしますから。いませんからね!」
クラスにどっと笑いがおこる。
しかし、そのクラスの中で一人だけ場に馴染めていない子がいた。
うつ伏せで机の上で寝ている女子。
彼女こそが今回の問題児だ。
シャロンは彼女に気づき声をかける。
「おはようございます、起きてください」
「・・・・・・・ん?あ?いけね、もうこんな時間か・・・・・」
男勝りな口調で話す不良系の女子生徒。
NO1.矢沢葵(ヤザワ・アオイ)。
見た目は長い黒髪に鋭い瞳、制服は少しいじっているよう。
シャロンは彼女を導くことが使命だった。
「何見てんだよ、なんか文句でもあるのか?」
「わたしは聖咲シャロンと言います、葵さん、今日からここの担任になりました。今日からよろしくお願いしますね」
シャロンが二コリと微笑むと、葵は無愛想な表情で見下してきた。
「アンタが先生かよ?はっ、こんな外国人に何ができるって言うんだよ馬鹿が。ケンカ売るなら外でやってくれ」
「やめろよ矢沢!先生が困ってるじゃないか」
「元はと言えばお前が寝てたのが悪いんだろ、自業自得じゃね?」
「新しい担任が来るからって調子にのるなんてダサすぎ。マジ、ありえないんだけど」
クラスメートたちのガヤが激しくなる。
葵は中学一の不良ではあるが、どんな教師や生徒に対してもこの対応をする。
成績は平凡でもここまでヒドイとは思わなかった。
シャロンはそんな問題児にどう接するのか。
「みなさん静かに!次は移動教室でしょう?準備をしなさい。葵さんは後でお話しましょう。さあ、急いで急いで!」
チャイムが鳴り、生徒たちは教科書やノートを持ってそれぞれの場所に移動していく。
葵は面白くない表情で舌打ちをし、席から立ち上がる。
「葵さん!どこに行くんですか?授業は?」
「構うな、俺は自習に行くんだよ」
すると、シャロンは何か違和感に気が付いた。
じっと葵の首元を見つめる。
(これは・・・・・葵さんに憑いている怪異はきっと執着が強い者ね)
シャロンの目的は変わらず、葵の様子をみることにした。
EP2:教師として
放課後になり、溜息をつく。
教師としての初仕事は思ったより厄介ね。
シスター時代に比べられればマシだが、疲労がたまるみたい。
C組の担当を任され、結局相手にされなかった。
本来の意味で役にたってないなと思った。
その時。
「シャロン先生、どうしたの?顔色悪いけど?」
「あなたは・・・・・」
ホームルームの中で一番目立っていた女子生徒。
「佐伯みゆ。もしかして、矢沢の事が気になっているとか?」
「まぁ、そうね。教師としてほおっておけなくて。見苦しいところを見せてしまったわね」
「シャロン先生は何も悪くないって。あの子、入学した時はめちゃくちゃ大人しかったよ?」
みゆから驚きの事実を言われてわたしは目を輝かせた。
「その話、詳しく聞かせてもらえないかしら?」
きょとんとする、みゆだったがわたしの真剣な眼差しを見てうなずいた。
夕日が差し込む、窓際を見つめながら。
「これはウワサでもあるんだけど、矢沢って小学生の時から男子としてふるまっていたの。その理由がちょっとだけな訳アリでさ。矢沢には、許嫁が既にいてその人と結婚しなきゃいけないらしいんだ。だから恋もできないし、友達もつくれない。おかしくなったのは最近でさ、その許嫁が突然病気で倒れちゃって入院したの」
「みゆさん待って。葵さんはどうしてそんな厳しい環境にいるの?普通なら、許嫁なんて昔の話よ?」
わたしが想う時代や価値観にはとてもうるさい。
いくら怪異もどきとはいえ、決められた結婚や男装などありえないわ。
「アタシもおかしいな、って思ったの。でも矢沢があんな風になったのはきっと誰も・・・・・大人を信じられなくなったからだと思う。裏では反省しているよ」
「優しいのね、みゆさんは。許嫁は葵さんの親御さんからは何も・・・・・」
「だからウワサだってば、簡単に信じないで。アタシも矢沢の事ちょっと心配なんだ。帰る時いつも苦しそうに教室を出るからさ。みんな矢沢の事がコワいんだよ」
グレーリストを開き、矢沢葵の詳細をよく読んでみた。
【彼女は中学生としてはまだ子どもっぽいところがある、箱入り娘】
この感じだと葵はお嬢様で裕福な家庭だということがわかる。
コメントを書いた依頼者は父親の矢沢九朗だ。
一度試してみてもいいかもしれない。
「教えてくれてありがとう、ねえ。みゆさん葵さんは今どこにいるの?」
「矢沢なら・・・・・今日はどうだろ。部活には入ってないから空き教室で黄昏ているのかも」
その情報だけでも充分だ。
矢沢葵を救えるのは、やっぱりわたししかいない。
ちゃんと話をしよう、教師として。
【空き教室】
俺にはもう時間がない、それはいつまで家系に縛られるかだ。
口調や私服がメンズに変わったのも仕方のないこと。
女の子が憧れるメイクやワンピースさえも着せてくれなかった。
許嫁が入院したときは運が良いと思った。
勝手に未来を決められるくらいなら、いっそ消えてしまえばいい。
あんな態度をとっておいて教師たちも歯が立たないのもムリはない。
だけど、ひとつだけ気になることがあるとすれば。
「あの親父、急に優しくなりやがった。今までは俺がイイ子にしていたからなんとかなったがなぜ今更だ?俺は何に願ったんだ?」
大きな疑問だけが心の奥で沸き上がる。
母親が他界し、厳しかった父は急に優しくなる。
箱入り娘なんて所詮、仮面をつけたニセモノにすぎなかった。
「臨時教師もたいしたことないな!どうせまた、俺にやられるだけなんだ。全ては計画どおり」
「あらあら、こんな所にいたのね。葵さん」
この透き通るソプラノ声は、聖咲シャロンか。
ロリータ制服衣装が似合う金髪のブロンド髪にキレイな水色の瞳。
こんな時間にどうしたのか。
「シャロン先生じゃないか、俺に何か用か?」
「少しあなたとお話がしたくて、今日は特別授業なの」
「はっ!大方、親父の命令でこの学校に来たのだろう?わざわざご苦労なこった」
イヤな空気と背筋が凍るほどの寒気。
タイマンか、上等だぜ。
「それでは、授業をはじめます。わたしは、エンジェル・プロフェッサーよ!」
EP3:正体
白いカーテンがそよ風でふわりと宙に浮く。
それと同時に、シャロンは両目をつぶり祈りを捧げるしぐさをはじめた。
空き教室がフシギな空間へと変化していた。
いわゆる結界というもの、普通の人は入ってこれない。
そしてまばゆい光に包み込まれ、首元のロザリオネックレスがふわりと浮く。
「ま、まぶしいっ!」
葵が目を覚ますと、目の前にいたのは美しい白い羽が生えた天使。
「あなたは怪異に憑かれていますね。今朝の態度を見て私は気づきました。姿を現しなさい!」
葵が突然苦しいうめき声をあげて、口の中から黒い霧が出てきた。
声がかすれバタンと倒れる葵。
すると、葵の姿が変化し制服を着たウルフカットの黒髪の姿になっていた。
『その声は天使か。もう少しこの女で遊んでやろうかと思っていたのに』
黒い霧が人型へと変わり、背の高い燕尾服姿の美男が立っていた。

シャロンは、彼を睨む。
「なぜ彼女にこんなことをさせたの?乙女の生き血をすする怪異(あなた)が」
『彼女が望んで出した問いだ。俺はその手助けをしてあげただけに過ぎん』
いわゆる吸血鬼、真祖だ。
葵に憑いていたのは、美しくも恐ろしい怪異。
「彼女は本当は心優しい子だと信じています。なぜあなたが彼女に執着しているのかがわかりません」
『そうだろうな。俺は葵の欲望を具現化し姿も変えてあげた。なのにお前が元に戻した』
幻想の『矢沢葵』を見せ復讐だけがしたかった、しかしそんな簡単にはうまくいかない。
すると、葵が目を覚まし二人を見る。
「う・・・・・?【僕】はいったい何を?シャロン先生?」
シャロンは優しくうなずき、葵の頭を優しく撫でた。
葵の瞳から涙がボロボロと落ちてくる。
「ああ・・・・・思い出した。僕は先生にヒドイことをしてきたんだ。だからこんなバケモノが僕を変えて・・・・・ううっ」
「人を呪わば穴二つ。アオイさんはただ寂しくてみんなの期待に応えたかっただけなのね」
葵には今日まで憑かれていたという自分が行動した記憶がない。
まるでもう一人の自分が悪さするように。
「先生・・・・・僕は、どうしたらいいんだ。罪を償ったって誰も許してもらえない・・・・・・
あんなヒドイことを」
葵は泣きじゃくり嗚咽を吐き出しながら、言う。
「大丈夫よ、あなたはもう一人じゃないわ。アオイさんは、クラスのみなさんに謝るべきですわ。わたしは次のホームルームで全てをお話します」
「僕は・・・・・これから。どうしたらいいんだ?」
『葵は俺のモノだ、天使に全てを捧げてはいけない』
シャロンは葵の背後をきっと睨みつけると、銀色のロザリオネックレスを掲げた。
葵の瞳を優しく見つめながら。
「主よ。どうかこの者に正しき光を。乙女の悲しみに取り憑く魔物よ。離れなさい!」
黒い霧に変化した真祖は、シャロンの方に向かう。
「先生っ!ダメだぁ!」
葵はただ叫ぶことしかできなかった。
シャロンの辺りに、美しき男の姿に戻る真祖。
彼は二度目はないぞと言わんばかりに赤く鋭い目つきでシャロンを睨む。
その時だった。
「ちょっと!うちの矢沢になんてことしてくれんのよ!」
鈴が転がるような可愛らしい声、それも聞いたことあるような。
シャロンはその人物を見つめた。
「あなた、佐伯みう・・・・・さん?」
「シャロン先生、探したんだよ!?急にいなくなるからイヤな予感がして。やっぱり・・・・・」
佐伯みうが焦っている眼差しで葵を見つめていた。
おかしい・・・・・普通の人間ならこの結界の空間の中に入ることは不可能。
葵は彼女の姿を見て叫んだ。
「さ、佐伯みう?なんで【事故にあったお前がここにいる】んだよ・・・・・・!」
「先生、あとはアタシに任せて。矢沢はなんとかするから」
シャロンはみうの姿を見て霊だと気づいた。
とにかく今は目の前の怪異と話をしなければいけない。
でも、時間がない。
もうすぐここの結界が壊れてしまう。
「やむを得ないわね。葵さんに付きまとうのはもうやめなさい。あるべき場所へと帰りなさい。クロス・ハート!」
『ぐぁあああああああ!おのれ、天使め・・・・・・』
真祖が白い光に包まれると霧は小さくなり消えてしまった。
シャロンが深く深呼吸をして安堵する。
すると、葵がシャロンに抱き着いてきた。
「先生・・・・・僕は・・・・・」
「誰だってやり直せるわ。わたしが天使なのは秘密よ?」
葵は泣きじゃくりながらうなずいた。
Epilogue
その後、怪異が葵から消えてからクラスの雰囲気が良くなった。
葵は正直に生徒たちに謝り、罪を償うために。
カツアゲしていた生徒たちに、お金を返し、新品の教科書を渡し、弁償もした。
シャロンは【矢沢葵の本当の姿】を実感していた。
幻想の葵が行った問題を全て自分が解決して、さらには。
放課後のことだった。
「ありがとう、シャロン先生。僕はうまれ変わったような気がするよ」
「わかってくれたのならいいわ。さぁ、あなたはこれから新しい学校に転校しそこで学ぶの。そこで罪を償いなさい」
「転校?僕が?なぜ?」
「あなたのお父様からの伝言よ。問題児を助けて結縁学園で学びなおすの」
「そっか・・・・・僕はこれから罪を償うのか」
当然のことながら、矢沢葵が転校するというのは他の生徒は知らない。
なぜならシャロンの能力で生徒たちの記憶を消すから。
それでも一人、忘れていない生徒がいた。
「ありがとう、佐伯みう。君のおかげで僕は危うく危ない道に進むところだったよ」
もう彼女の姿はどこにもいない。
一人の生徒を助けたことによって役目を果たしたようだ。
シャロンは次の生徒を助けるために、ぎゅっと黒いバインダーをにぎりしめる。
「さぁ行きましょうか、車を出したから」
ふたりは笑いあいながら学び舎を後にした。
次は貴方の学校にエンジェル・プロフェッサーが現れるかも?
終幕