
第六章「ノエルのおばあちゃんの秘密」
「よし!ノエル!ショーの練習しようか!」
「ああ!今日は苦手なところも頑張るぜ!」と今日も茉莉華とノエルは開館前の朝に、シャチショーの練習をしていた。すると、ノエルが泳いでいる水槽に珍しい色のシャチが二人の近くを泳いでいた。色はシャチにない藍色で、透き通った鳴き声をしていた。
「あれ?こんな色のシャチ、この水族館にいたっけ?」と茉莉華は首を傾げていた。ノエルは、藍色のシャチを見て、指をさして言った。
「ば、婆ちゃん!?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?この藍色のシャチが、ノエルのお婆ちゃん!?」茉莉華は目を丸くしてびっくりしていた。
「いつも私の孫をお世話してくれてありがとね。」とノエルのお婆ちゃんがシャチの姿のまま喋ると、突然眩しい光がピカーッとノエルのお婆ちゃんを包みだした。
「うわっ!眩しっ⋯!いったい何がっ⋯!」と茉莉華が言うと、光は消え、正面を見上げるとそこには、人間の姿になったノエルのお婆ちゃんが茉莉華の目の前に立っていた。

「ノエルと同じ、人間の姿になってる・・・!これが前に和也叔父さんとノエルが喋っていた美人で噂の・・・・!」茉莉華はあまりの出来事に呆然としていた。
「あなたが新しく入ってきた飼育員の茉莉華ちゃんね。和也さんやノエルから聞いてるわよ。」
「は、はい!私、浦海 茉莉華といいます!まだまだ新米飼育員ですが、よろしくお願いします!」と茉莉華は自己紹介をし、ペコリとお辞儀をした。
「あらあら、そんなにかしこまらなくていいのよ。顔を上げて。」とノエルのお婆ちゃんは、茉莉華に優しく接した。
「私は、ノエルの祖母の浦海トワ。この水族館のシャチの中では、最年長よ。見た目はお婆ちゃんのように見えないかもしれないけど、よろしくね。いつも息子がお世話になっているわ。」
「こちらこそ、よ、よろしくお願いします!ノエルとはお付き合いをさせてもらってます!」と茉莉華は少し緊張気味だった。確かにノエルの祖母のトワの見た目を見ると、20代くらいの美人で肌にも張りがあり、髪も絹糸のようにサラサラだった。

「婆ちゃん、他の水族館に移動になったんじゃ・・・・。」
「それが、撤回して話がなくなったから、ここにずっといていいって事になったのよ。」そう。本当はノエルのお婆ちゃんは、神奈川にある水族館へ移動となるはずが、訳があって移動は中止となったのだ。
「そっか、環境が慣れないと不安だしな。」
「うんうん。緊張とかでストレスが溜まりやすくなるしね。」と茉莉華とノエルの二人はトワの話を一生懸命聞いていた。すると観客席のところから、和也叔父さんが様子を見に来た。
「お!トワさんは今日もいきいきとしてますね~。僕もトワさんを見習わないとな~。」
「和也さんは、今でも若くて健康ですよ〜♡」と和也叔父さんとノエルのお婆ちゃんが会話しながら笑ってた。
「ねぇ、和也叔父さん、ノエルやトワさんとはいつ出会ったの?」と茉莉華が和也叔父さんに質問した。茉莉華が質問すると、和也叔父さんは答えてノエルとトワに出会った頃を語った。ノエルも人の姿になって和也叔父さんの話を聞いた。
「それはね、前の頃になるかな・・・。まず最初にトワさんに初めて会ったのは、僕がまだ25歳の頃。仕事が休みの日に僕は釣りが趣味でよく海に来ていた。その日もいつも通りカレイや鯛などいろんな魚を釣っていたんだ。少し疲れて昼食を食べていたら、浜辺で倒れているシャチが「キュウゥッ・・・。」と元気のなさそうな声で鳴いていたんだ。これは大変だと思って僕は、すぐに倒れているシャチのところに駆けつけた。」
「浜辺で倒れてたんですか!?もしかして、漁師さんとかが網などを引っ掛けたとか⋯?」と茉莉華は和也叔父さんとトワとの出会いに驚いていた。ノエルも驚いていた。
「よくあるよな~・・・。漁師の網などの罠に引っかかること。」

「それで僕は倒れているシャチのところに駆けつけて、すぐに引っかかっている網を外したんだ。傷もついていたから、手当もしたよ。その後は数人でシャチを持ち上げて、海に返してあげたよ。」と和也叔父さんは次から次へと出来事を話し続けた。
「その日があってからの数日後はいつも通り、僕は水族館に出勤して、家に帰ってきた時のことだった。突然インターホンが鳴って、ドアを開けたら、そこには見たことのない美人が立っていたんだ。それが今目の前にいる、トワさんだった。その時は、人間の姿になっていたから、びっくりして腰も抜けたよ。するとトワさんは高級そうな魚を沢山くれたんだ。「助けたお礼です。」とね。」
「まるで、鶴の恩返しみたい・・・・!」
「鶴ならぬ、シャチの恩返し・・・。」と二人はゴクリと唾を飲みながらさらに興味津々に聞いていた。
「その後もトワさんは何回も僕のところに訪ねて来たから、僕はトワさんを水族館で飼うことにしたんだ。それからは、いつも通り、水槽の中で泳いだり、ショーもしたよ。ショーでは、人の姿の方もお披露目したんだ。観ているお客さんも口を大きく開けるくらい驚いていたよ。ショーをした次の日からは、世界中に有名になって、ギネスにも登録されたんだ。」漫画のようなトワとの出会いから水族館で飼うことになった経緯を和也叔父さんは話した。
「それで、今に至るんだね・・・。凄い・・・。」
「そして母さんも生まれて、姉ちゃん達も生まれて、俺も生まれて、ここにいるんだな・・・・。」茉莉華とノエルはあまりの出会いの凄さに口をぽかんと開いていた。
「そうね。あの時、和也さんが助けてくれなかったら、きっと私は今頃⋯、やばかったかもしれないわね。和也さんのおかげで、病気もなく、安全に暮らせたわ。今でも健康だし。」とトワは、和也叔父さんとの思い出を思い返していた。
「トワさん・・・・。」
「婆ちゃん・・・。」
「うんうん。健康が一番だからね。」和也叔父さんは頷きながら、ニコニコしていた。するとトワが茉莉華の手を包むようにギュッと握った。
「トワ・・・・さん?」茉莉華は少し驚いていた。

「茉莉華ちゃん、いつもノエルに優しくしてくれて、遊んでくれてありがとう。「茉莉華がノエルと恋人関係になった」って和也叔父さんから聞いてるし、ノエルも茉莉華と恋人になれたことを喜びながら伝えてくれたわ。これからもノエルをよろしく頼むわね。」
「・・・はい!これからもノエルの彼女、飼育員として頑張っていきます!」と茉莉華はハキハキな声でトワに答えた。次にトワはノエルの方へ向き、こう言った。
「ノエルもお婆ちゃんの遺伝子が移っているから、人の姿の時もシャチの時も男らしく、真っ直ぐに、凛々しくね!茉莉華ちゃんを泣かさず、大切に守っていくんだよ。」トワは、孫であるノエルの手も優しくギュッと握る。
「はい!婆ちゃん!俺もオスとして、人間の男として、茉莉華を守っていきます!」とノエルもハキハキと答えた。
「ところで和也叔父さん、トワさん。ノエルは小さい頃、どんな子だったんですか?」と茉莉華は和也叔父さんとトワに質問した。ノエルの小さい頃が気になっているようだ。
「そうねぇ~。ノエルがまだ赤ちゃんくらいの頃は、和也さんやお母さんに甘えてたわね♡「なでなでしてぇ~。」とか、「抱っこ~」とかね♡今と相変わらず食いしん坊だったし、やんちゃだったわね♡」
「そうだね。ノエル君が小さい頃は、飼育員にバシャッと水槽の水をしょっちゅうかけたりしてたな~w」とトワと和也叔父さんがノエルの小さい頃を思い出しながら話していた。
「お、おい!やめろよ!小さい頃のエピソードは!恥ずかしい!」とノエルは顔が真っ赤になっていた。
「ふふふっ♡ノエルにも可愛い時期があったんだねぇ~www」と茉莉華はくすくすと笑った。ノエルは恥ずかしさMAXになった。
「う、うるせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!もう俺の小さい頃の話はやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」その後も茉莉華はトワや和也叔父さん、ノエルと思い出話で盛り上がった。
-続くー