
「今日も疲れた~」
彼女は仕事帰りの途中にぽつりと呟いた。
他人が見たら明らかに疲れていると確実に答えるくらいに彼女は疲れ切っていた。
幸い人が誰もおらず、呟いた言葉は誰にでも聞かれることはなく消えていった。
ニャウ
しばらく彼女が歩いていると、猫の鳴き声が聞こえてきた。
「猫……?」
彼女は鳴き声の主を探すために当たりを見回す。
ニャ
まるで挨拶をするかの様に、三毛猫の姿がそこにあった。
「こんなところで、何をしているの?」
──猫を驚かさないように彼女は猫に近づいてしゃがみこんだ。
三毛猫は人に慣れているらしく、逃げることもせずにコロリと横になった。
ニャー
撫でることを要求するように三毛猫は鳴いた。
猫はしばらく彼女に撫でられ、気持ちよさそうにのどを鳴らして目を細めたのだった。
──数分後。猫は何事もなかったかのように起き上がり、彼女のそばを離れた。
適度な距離感を保ち、時折ちらりと後ろを見て様子を見ている。
まるで、猫が彼女についてきてと言っているかのように。
──彼女は猫についていくように歩きはじめた。
「なんでこんなところを……?」
道なき道を通り彼女は猫についていくと、見えてきたのはどこか懐かしい雰囲気がある喫茶店が見えてきた。
三毛猫は、躊躇なく喫茶店に入っていった。
「喫茶店の猫ちゃんだったのかな?」
彼女は、少し緊張しながら喫茶店のドアを開ける。
「いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ」
──彼女が店内に入ると、出迎えたのは二足歩行をしてしゃべる猫だった。
彼女は、驚きのあまり言葉が出てこなかった。否、『考えるのをやめた』のほうが近いのかもしれない。
空いているテーブル席に座り、一息をつく。
「──ご注文がお決まりになりましたら、お呼びくださいませ」
猫はぺこりと一礼をして彼女のいた席から離れていった。