四季折々の日常を「1話 中編2」 

「あ!依桜ちゃーん!」
「結ちゃん!」

雑談を交わしながら校門に着くと、一番の友達である雨夜結が手を振っていた。わざわざ依桜を待っていてくれたらしい。手を振り返し、海統を見上げる。

「海くん、送ってくれてありがとう。クラス発表は結ちゃんといっしょに見てくる!」
「うん。やっぱり心配しなくても大丈夫だよ」

力強い声に頷く。海統と結のおかげで、暗い気持ちはすっかり晴れていた。すると、海統があっと声を上げる。

「そうだ、今日の夕飯はハンバーグだって唯月さんが言ってたよ」
「え!ほんとうっ!?」

更に嬉しいニュースを聞き、依桜はぱぁっと表情を明るくした。

唯月というのは、依桜と海統と共に暮らしている人物の一人で、主に毎日の食事を担当してくれている穏やかな男性だ。依桜が持っているお弁当も彼のお手製のもの。
一級品の腕前を誇る唯月の料理はどれも絶品だが、中でも彼の作るハンバーグは依桜の大好物だった。

「よし。いってらっしゃい、依桜ちゃん」
「いってきます、海くん!」

結の元に走ると、結は興奮を露わに拳を握って目を輝かせた。毎年恒例の仕草に、察する時間もなく口が開かれる。

「今日も海統くんはカッコイイね!」
「うん!」

事実なので反射的に肯定してしまった。同意を受けて勢いを増した結は、とにかく海統の容姿を褒め称えた。どうやら彼女が大好きな男性アイドルグループにも引けを取らないらしい。

「それに昨日ね!今大人気のイケメン俳優、藤本昂芽がテレビに出てたんだけど、ぜったい海統くんの方がカッコイイよ!…そうだ!むしろ、海統くんがデビューしたら藤本昂芽より人気になるかも!」
「ふじもと、こうが…??」

依桜は普段テレビを全く見ないので、あまり芸能人に詳しくない。海統と他人を比べたこともないので、よく分からないまま聞き役に徹する。

だが腑に落ちない。確かに明るい赤茶でありながら毛先にだけ特徴的な青が混ざった髪も、優しさに緩む真紅の瞳も海統の良いところではあるが、海統の良さは見た目だけではないのだ。少しだけムッとしてしまう。

──ここは、わたしが伝えなくちゃ。

「海くんはわたしが不安な時にいつも側にいてくれるし、とっても優しいし、何でも知ってるし、だから、ええっと…」
「うんうん!まさに完璧だよね!」
「っそう!中身も完璧なのが海くんなの!」

着地点を見失い掛けたものの、結による助け舟で無事に結論まで辿り着く。

依桜が最も辛かった時に側にいてくれて、手を差し伸べ救ってくれた恩人で、世界で一番好きな人だ。だから世界中の人に、海統の魅力を、全部余す事なく知っていてほしい。
そう熱弁すれば、結は全力で同意してくれた。嬉しくてニコニコしていると、結がハッと何かに気付いたように依桜の手を取り、走り出す。

「まずいよ依桜ちゃん!早くクラス確認しないと!」
「あっ、そうだった…!わたしたちいっしょになれたかな?」
「なれるよきっと!あと絵馬ちゃんと和奏ちゃんもね!」

パタパタと駆けて昇降口の前に辿り着くと、もう殆どの生徒は教室へ向かったようで、表の前には数人が疎らに立っているだけだ。
おかげで見やすく、すぐに自分の名前を発見できた。どうやら3組のようだ。そもそも天春なので一番上を見ていけば簡単にたどり着く。問題はその下に並ぶ名前に、結や絵馬、和奏といった仲良しの名前があるかどうかだ。

「……あっ、結ちゃんはいっしょだ!絵馬ちゃんも!」
「和奏ちゃんはとなりのクラスみたいだよ!ちょっと残念だけど、私たちは同じでよかったね」
「うん。それに和奏ちゃんはみんなと仲いいから、休み時間に遊べるか逆に不安かも」
「ふふ、たしかに!」

ひとまず一人ぼっちにならなかった安心感が全身を襲う。ただ、最初は名字ごとに席が並んでいるはずだ。依桜は一番前だし、結も絵馬も遠い。隣や後ろの席は誰になるだろう。打ち解けられたらいいな。

依桜は緊張感を胸に、教室へと踏み出した。

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苳水

苳水(とうすい)と申します。 小説、イラストの制作が趣味です。

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