
──彼女は、疲れからきている幻覚を見ているに違いないと思いながら、
恐る恐るメニュー表を開いた。可愛らしい絵とともにメニューの説明が載っている。
彼女は一通りメニュー表を見終えると、注文をするために猫の店員さんを呼んだ。
「すみません、注文をお願いします」
「ご注文を繰り返しいたします。──でよろしいでしょうか」
猫の店員さんは、注文を確認すると一礼をしてその場を離れたのだった。
「──大変お待たせいたしました。『夕焼け色のクリームソーダ』です」
数分後。彼女の目の前には、夕焼け色を思わせるような、オレンジ色のクリームソーダが現れた。
猫の店員さんは、商品の説明を丁寧に話し終えると、一礼をしてその場を離れる。
──次の注文を取りに別の席へと移動したのだった。
店員さんが席を離れるのを見送った後、彼女はクリームソーダに目を向ける。
──まずは、ソーダの部分をストローで一口飲んでみる。
シュワっとした炭酸の後に、オレンジの香りがふわりと漂う。
「……おいしい」
そして、アイスクリームの部分を一口食べる。
バニラアイスの冷たさが口の中に広がると同時に、懐かしい風景が彼女の目の前に現れた。
まるでビデオカメラを再生しているようにそのまま映像が進む。
──ただいまー。
ランドセルを背負った小さな女の子が、嬉しそうに家の中に入ってくる。
しばらくすると、ランドセルを置いた女の子が、カップに入ったアイスを食べている。
……あの頃の私だ。カップに入ったアイスクリームをおいしそうに食べている。
にゃーん
女の子が、近づいてきた猫にスプーン一杯にも満たないアイスを猫用の器に分けているところで、
映像が終わった。
クリームソーダを食べ終わり、お会計を済ませる。
「みいちゃん……、なの……?」
「なぁに。──××ちゃん」
猫の店員さん──みいちゃんがにっこりと笑うと、
「身体に気を付けてね?」
みいちゃんがカフェのドアを開けると、私の身体はカフェの外に出ようとしている。
「みいちゃん!!」
「ご来店ありがとうございました」
カフェのドアを一歩踏み出した瞬間、彼女が振り返るとカフェのあった形跡はなかった。
「……夢、だったの?」
彼女は、カフェのあった場所を狐につままれたような顔でしばらく眺めた後、ゆっくりと家路に辿って行ったのだった。