半夏生 終章

「神田~!こないだのイラストの締め切り今日だけどどうなった~?」
「あ、はい!あと、3ページで完成します!今、最後のペン入れして色を付けているんで!」
「おう。急いでやれよ~。編集長、締め切りにはめっちゃ厳しいからな。遅れたらお説教だぞ~w」
「それだけは勘弁です~!」

 高校2年生の冬休みにみつけた「おれの得意なことや好きなことを活かせること」は、イラストレーターになることだった。
 イラストを通して、自分を表現できる気がして、おれは残りの1年間、夜城と一緒に高校の勉強を頑張り、夏休みにはオープンキャンパスにも行ってみた。

 夜城は東北大学に進学することを決め、毎日参考書を読んだり、過去問を解いたりして日々を過ごしていた。
 一方おれは、山形の芸術工科大学に的を当て、進路の先生に相談したところ、あともう少しの頑張りでAO入試(現在は総合型選抜っていうらしい)に到達できる成績とのことで、勉強は夜城に訊きつつ(もちろん夜城の時間のあるときだけど)頑張ってみた。

 そしたら、その頑張りが実を結んだのか、おれは芸工大のAO入試のワクをもらえて、試験に臨むことができた。

 正直、試験は小論文なんかもあって大変だったけど、夜城からもらったお守りのおかげで、なんとか最後までやり遂げることができた。

 そして、運命の合格発表の日。

 おれの番号の、11573番はあった!!

 おれは無事に芸工大に受かることができた。

 夜城もそれをとても喜んでくれたし、その夜城も東北大学に合格した。

 合格の後、おれは夜城を誘って、イオンモールのビュッフェに繰り出し、いっしょにフィーバーして合格を祝いあった。

 おれは大学が山形なため、一人暮らしをするためアパートを探していたら、ちょうど芸工大に近いところにおばさんが住んでいて「ぜひ、うちにいらっしゃい」とのことで、そこに住まわせてもらうことになった。

 夜城はというと、仙台でアパートが借りられたとのことだった。

 それからおれは、大学生活のうちにイラストのことを4年間じっくりみっちり勉強し、卒業した後は仙台に戻って、パンフレットを主としたイラストの会社に就職した。

 そして、今おれは植物をイメージしたイラストを描いていて、その植物は半夏生だ。

 いつだったか夜城が教えてくれた植物を、この手で描いてみたかった。

 おれは机でそのイラストを描いている。
 パソコンで絵を描く技術は大学の時に習得して、おれにとっていろんな絵を描く幅が一気に広がった。

 3枚目のイラストのペン入れを終えて色を付け終わると、コピーして編集長のところへ持っていく。

 編集長は、興味深そうに訊いてくる。

「これは、なにをイメージして描いたのかな?」
「はい。もうすぐ夏ですから、半夏生という植物をイメージして描きました。半夏生は高校の時に友達から聞いて、おれの中で印象に残っている植物で」
「半夏生か。夏といえば朝顔やヒマワリが多いところだが、半夏生とはねぇ……」
「ダメ、ですか……?」
「よし、これでやってみなさい。だけど、ここにえんじ色と黄色を少し足すともっと良くなるよ」

 編集長の言った箇所に修正を加えると……うん、さらに良くなったな。

 すると、編集長が思い出したように言ってきた。

「あぁ、そうだ。神田君。今度、カフェのガイドに載せるイラストなんだけどね。それを神田君にお願いできるかな?」
「えっ!おれがガイドのイラストを!?」
「そうそう。初めての大仕事だからまだ早いかとも思ったんだが、ここいらへんでちょっと冒険してみないかい?」
「冒険します!」
「そりゃよかった」
「ちなみになんですけど、そのガイドの著者ってどなたなんですか?」
「今、とても人気があって注目を集めている___」



「カフェテリア・半夏生の夜城悟さんだよ」



 ……夜城悟!?

 夜城悟って、まさかアイツか……!?

「今日の午後にさっそくこちらにいらっしゃるから、神田君にも出席してもらうからね」
「は、はい……」

 いくらなんでも今日の午後っていきなりすぎるだろ!

 そして、昼飯もそこそこに編集長に呼ばれていくと、そこには___。

「神田くん、久しぶりですね」
「や、夜城……!」

 そこには、高校のときから少し背と髪の伸びた夜城が立っていた。

 編集長が不思議そうに訊いてくる。

「二人はお知り合いですか?」
「は、はい。高校のときの大親友です!」
「スタバやアフタヌーンティーや、神田くんに教えてもらったいろんなカフェの紹介の本を出していたら、こちらの編集長さんの目に留まって神田くんのイラストが合うから是非どうかって」
「編集長ぉ。もっと前におっしゃってくれればよかったのにぃ」
「いや、私も今初めて知ったからね」

 編集長はケロッとして笑う。

「じゃあ、お二人が大親友なら、神田君もイラストの描きがいがあるね。良いイラストを期待してるよ」
「はい!」
「よろしくね、神田くん」

 夜城は、いつかおれにも言った言葉をかけてくれた。

 ___そして3ヶ月後。

 夜城の書いたガイドは、売上第一位を記録し、おれのイラストも、世の中に広く放たれることになった。

 おれは、また夜城と巡り合えて、いっしょに仕事をできたことが、



 
 とても、嬉しかったのです。



                           おわり

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ヨウルクー

12月生まれなのでフィンランド語で12月です。 読書したり、カフェに行ったりと街中を散歩するのが趣味です。 神社が好きです。

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