シロウサギは薄暗い森の中へ着地し、少女を丁寧に降ろした。
その直後、ぐらりと彼の体は傾ぎ、地に倒れた。
恐らく力尽きたのだろう。自分の命を狙われ続けて逃げ続けるという極限状態の中、ここまで意識を保っていた事こそが驚嘆に値する。
だから少女はその我慢強さに対して呆れたようにため息をついて、倒れた彼の隣にちょこんと腰を下ろした。
そうして彼が目覚めるのを待つ。
やがて太陽が沈み、辺り一帯が徐々に暗くなっていった。
元々薄暗い森ではあったが、夜になればまた一段と闇が濃くなる。
空を見ようと顔を上げても、頭上には木々の葉が生い茂り、星の光も届かない。
だがだからこそ、シロウサギが身を隠すにふさわしい場所であった。
追手の気配はなく、辺りはただ静かだ。
時々風に吹かれて木々の葉がさやさやと音を立てるくらい。
そんな中で、少女は暗闇の中でただじっとしていた。
ここは不思議の国だ。シロウサギの怪我の手当てをしたいが、もしかしたら少女の世界との理(ルール)が違うかもしれない。下手に触って傷の具合が悪化したらと思うとうかつに触れられない。
(それに・・・)
ちら、と倒れているシロウサギを見る。
彼が気絶してからしばらく経つが、徐々に体中にあった傷が癒えていっているように見える。
彼自身の回復能力がずば抜けているのだろう。
よかった、と少女が微笑む────その時すぐ目の前で「にゃあ」と声がした。
「!?」
全く気配を感じなかった。こんなにすぐそばまで接近を許すとは。
少女は心の中で自分を責めながら目の前の暗闇に目をこらす。
「・・・誰?」
するとその問いかけに応じるように、ニヤニヤ笑う三日月のような口が眼前に現れた。
つづく