ニヤニヤ笑う三日月のような口はこう言った。
「シロウサギはこの国の女王の怒りを買った。そいつと一緒にいるとアンタも殺されるよ」
「・・・・」
少女は戦闘体勢に入ろうとしていたが、その言葉を聞いて体から力を抜いた。
目の前の相手からは殺気を感じない。
少なくとも今すぐこちらに攻撃してくる事はなさそうだと判断した。
そんな少女の様子を見た相手は────ニヤニヤ笑う口は────「おや!」と可笑しそうに声を上げた。
「武器から手を放してもいいのかい?ワタシはこの国の住人だよ?ワタシたちはみーんな狂ってる!いつアンタを噛み殺したっておかしくないっていうのにさ!」
「・・・いい事を教えてあげる」
少女は言った。少し悲しそうに微笑みながら。
「本当に狂ってるひとっていうのはね、自分で自分を『狂っている』とは言わないものだよ」
「・・・・・・・・」
ニヤニヤ笑う口は、ニヤニヤ笑うのをやめて黙った。
そうして、そのまま暗闇にとけるように消えていった。
後には、風に吹かれてさらさらと音を立てる木々だけが残った。
夢を見た。
君が泣いている。
僕を信じられないようなものを見る目で見て、はらはらと涙を流している。
────ああ。
(僕は、君を傷付けたのか)
それでも。
もし始めからこうなると分かっていたとしても。
僕は君にその言葉を告げるだろう。
時間を巻き戻せたとしても、何度でも、何度でも。
(だから、僕は────)
そこでシロウサギの意識は浮上した。
「────はっ!!」
大地に突っ伏す形でそのまま眠っていた彼は目覚めるなりがばっと跳ね起きた。
するとすぐそばでくすくすと可笑しそうに笑う声が聞こえてきて、見れば少女が隣に座ってこちらを見ている。
「元気そうで何より。────おはよう、うさぎさん」
つづく