「・・・弟?」
「そう。ちょっと色々あって弟が行方不明になっちゃってね。色んな場所を捜し歩いて、この国にはちょっと前に着いたばかりなんだ」
少女────葉月はそう言ってあははと笑う。
シロウサギはと言えば、「は」と口を開けてぽかんとしていた。
(────って事は・・・)
彼の頭の中で一つの解答が導き出される。
ぐわしっ、と葉月の両肩を白いモフモフの両手で掴んだ。
「貴女もウサギなんですか!?」
「は!?」
葉月はぎょっとしたように目を見開いたが、シロウサギはそれどころではなかった。
「だってそうでしょう?この国の外────別の”国”からやって来られるなんて、普通僕らウサギにしかできませんから」
────とても深い井戸のような道。
内側の壁には一面に戸棚や本棚がぎっしり詰まっていて。あちこちに地図や絵が画鋲で留められていて。
そんな長い長い道を、ひゅーんと下へ落ちていく。どこまでもどこまでも。
その最果てに不思議の国はある。
不思議の国と”外”とをその道を使って行き来できるのは、基本、ウサギだけと決まっているのだ。
「あー・・・ええと」
葉月はものすごく気まずそうに言葉を探すそぶりを見せて、そして首を横に振った。
「違うよ。わたしはウサギじゃない」
「えっ」
「君たちとは別の移動方法を知っているだけ」
「別の・・・?」
彼女は本当にウサギではないのだろうか。シロウサギは胡乱(うろん)な眼差しを葉月に向ける。
その眼差しを受けた葉月は、
「いやーあはは・・・・・・・・・・・・よーし!わたしの事は話したよ。今度はうさぎさんの番だ!」
と冷や汗をかきながら強引に話題転換を試みたのだった。
つづく