人間みたいに、目と鼻と口がある。
その巨大な体にぐるりとネクタイを締めてある。
両手には手袋を。両足には靴を。
いつも胡座を組んで高い塀の上に座っていた彼。
────ハンプティ・ダンプティそのひとが今、目の前にいる。
シロウサギは相手から目をそらさぬまま、静かに思考を巡らせた。
(ハヅキは明るい場所で戦うように僕に伝えようとしていた)
それは正しい。
戦闘になれば目から取得できる情報は多い方がいいからだ。
この薄暗い森から抜けるには長い時間走り続ける必要がある。
(けれど、コイツがそれを許すとは思えない)
────それならば。
シロウサギは真横へ向かって跳んだ。
するとほぼ同じ速さでハンプティ・ダンプティもシロウサギと同じ方向へ跳び、すぐに追いつく。
巨体に似合わぬ身の軽さ、それがハンプティ・ダンプティの強みであった。
シロウサギはその事をよく知っていたので特に驚かない。視界に相手をとらえたまま次の動きに移る。
跳んだ先にある樹の幹を蹴って上へ向かって跳んだ。
ハンプティ・ダンプティも真似をして別の樹の幹を足場に跳躍する。(ただしこちらの樹は彼がぶつかった衝撃に耐えられずにみしみしと音を立ててへし折れてしまった。)
「ははは!逃げようとしても無駄だぞシロウサギィ!!」
「・・・・」
シロウサギはそのまま跳んだ先にある樹の幹を蹴って、更に上へ向かって跳ぶ。
上へ。上へ。上へ。
同じ動作を繰り返して────ついに彼は森の上空、太陽の下へ跳び出した。
「ははははは何処まで行こうとも我輩からは逃げられぐぶふッッ!!??」
彼の後を追いかけて宙へ跳び出したハンプティ・ダンプティの巨体を、彼はかかと落としの要領で上から下へ向かって勢いよく蹴り落としたのであった。
つづく