シロウサギに蹴り飛ばされたハンプティ・ダンプティは即座に己の手足を引っ込めた────卵である体の中に収納したのである。
そうすると彼はつるりとしたただの巨大な卵に見える。
シロウサギの脚力は不思議の国屈指のもので、彼の放った蹴りの威力はすさまじかった。ハンプティ・ダンプティは猛スピードで大地に向かって飛ばされていく。
このまま大地に叩きつけられるかと思われたが、彼は宙にいる間に高速回転を始めていた。
「ふんぬッ!!!!」
樹の枝に着地して下方を見下ろしていたシロウサギはしかし、それが見えなかった。彼らが元いた場所が視界の悪い薄暗い森であったが故に。
ハンプティ・ダンプティの回転速度は徐々に上がっていき、彼の出せ得る最高速度にまで至った。────大地に触れるその時に。
音がした。
大地を削り取る音が。
「!!」
シロウサギはそこでようやく敵が大人しく気絶した訳ではない事を悟った。
だがこの位置からは動けない。陽の光が届くこの場所からは。
そう思っていたが、しかし。
「────ッ、何!?」
彼が足場にしていた樹がみしみしと音を立てて倒れていく。
シロウサギはとっさに別の樹の枝へと跳躍して足場を確保しようとしたが、その樹もまた倒れようとしていた。
(ここら一帯の樹々が一斉に・・・!?)
そう。
ハンプティ・ダンプティは自ら高速回転する事によって摩擦を生み、彼が落下した地点を中心に大きく大地を削り取ったのであった。
根を張った大地を削り取られた樹々たちは悲鳴を上げながら次々と倒れていく。
足場を失くしたシロウサギは重力に抗えずに落下していった。
その時、彼は見た。
薄暗い森の中────見えるはずなんてないのに、なぜか────自身が削り取った大地の底からこちらをじっと見つめる卵の、笑みを浮かべた双眸を。
つづく