不思議図書館・追「12:追いかけた先へ」

…長い長い、勘違いから始まった戦いは、イミアの目覚めと涙で終わりを告げた。

「さて…次は図書館の修復作業ね。」

戦いでボロボロになった館内に、一冊も無い本棚。そもそも本はカルムの家にあるのだから、異空間を移動しなければならない。だが…

「少し…休んでからにしないか?流石に今すぐは…」

「猫の言う通りですわ…ちょっと瓦礫を退かせば…」

いつも元気なサラミとゼルルですら、こんな感じに満身創痍なのだ。正直、言い出したユリィも大技と補助で限界だった。

「………。」

そんな中、みるは変神を解こうとせずに悩み込み、そのみるをレフィールが静かに見ている。

「…ミィ?どうしたの?」

気付いたスーがウサギ状態で、みるに近寄ってきた。

「スー…「この状態で」リレイションできる?」

みるの発言で、カルム、レイン、ユリィ、ゼルル、ノーヴが驚愕し、レフィールとスーとリレイション中のエーナが「やっぱりな」という顔、他は何を言っているのかわからないでいる。

「……ボクは、できるよ。」

スーの返答はつまり、スーは可能だが、みるが2人のリレイションに耐えられるかはわからない、ということだ。

「ダメだ!!」「ダメよ!!」

カルムとユリィが同時に、みるに叫ぶ。この2人が言うのだから相当なのだろうと、理解できてなかった者達も不安な表情になる。

「ちょっと師匠に貸してる力も返してもらえば、大丈夫かなーって。」

「魔力の問題じゃないわ、貴女の身体の問題よ!そうでなくても休む間もなく、戦闘して契約して変神して…負担が無いわけないでしょ!」

「少しすれば私達も回復するから、みるもリレイションを解いて…」

「それじゃあ、間に合わない気がするの。」

「間に合わない?もう敵はいないのよ?」

「そうなんだけど…。」

みるも状況がわからない訳では無いが、心の隅っこに何か引っかかる思いがあった。

「でも…。」

「オレが支える。」

そう告げたのは、今まで静かに見守っていたレフィール。

「オレがミィの補助と支えをする。それなら耐えられるだろう?」

「レフィ!」

「レフィール!貴様…みるの身体が心配じゃないのか!」

真っ先にレフィールに抗議したのは、やはりカルム。…いや、誰も黙って頷きはしなかったが、最も抗議の手が早かったのが、カルムなだけだ。

「みるの勘は何かある。いつも…今回ノーヴの正体を暴いた時もそうだっただろう?」

長年共に暮らしてきたカルムと、今回のみるの勘が正しかった事を見ていたユリィは、レフィールの言葉に何も言えずにいる。

「レフィと一緒なら大丈夫。だから、やらせて。」

「みる…。」

渋々、という形ではあるが、ユリィは神霊になっている元…みるの女神の力、をみるに渡した。

「ありがとう、師匠。」

微笑んだ、みるにユリィは何も言葉をかけられない。一度決めたら止めない、みるはそういう娘だ。

「いくよ、エナ、スー、レフィ。」

『はい。』「うん。」「…ああ。」

キィン!と耳鳴りのような音が鳴り響き、みるの足元に魔法陣が展開される。

「リレイション!サイド・ソルエーナ、スーシル!」

金と銀の光が、みるを包み、スーシル形態のような長い袖にフリルが付いた薄い紫のワンピース、ソルエーナ状態とほぼ同じ靴と飾りになる。決定的に違うのは、腰部分で固定された白い長コートのような装飾。まるでレフィールのコートの色違いに見えた。

その髪の毛先は金でも銀でもなく…魔力光と同じ薄桃色。黒い瞳には星が輝いて見える。

「あれが…みる…。」

「みるの…最も女神に近い姿ね。」

全員が見守る中、みるは背中と腰のリボンから白と桃色の翼を広げ、杖を天に掲げた。

その肩をレフィールがしっかりと支えている。

(図書館を元に…いや…多分違う。「元に戻す」じゃダメだ。正常に?発展を?…もっと何か…)

その時、みるはハッと思い出す。今までのこと、エーナやスーのこと、ノーヴとイミアのこと、カルムやレインのこと。

それは、ずっと過去の「追憶」で、ずっと過去を「追いかけて」きた。

「・・・もう「追いかけ」ない、「先を行く」図書館世界に!!」

杖から光が溢れ出し、その場を…不思議図書館世界の全てを包み込む。

・・・真っ白な光の中、みるは、エーナとスーとレフィールと共に、無数の本が図書館に集まっていく光景を眺めていた。

「あの本1つ1つに、世界があるんだよね…。」

「ああ。誰かが「先へ行く」為に記(しる)した想いと一緒にな。」

『先へ行く為に…記す…。』

エーナはずっと目を見開いて、集まっていく本達を見つめている。

『(私も記したい…この事を…私達や、みるの事を…。)』

「こ、こんな感じなのですが、どうでしょうか?」

「良いんじゃない?でも、ちゃんと区切りは付けた方がいいよ?エーナ。」

書き上げたばかりの本を「観て」もらったエーナは、ハッとして、みるから返された本を開いた。

「…あっ!!わ、忘れてました!すぐ書きます!」

「少し休んだ方がいいよ?ずっと書きっぱなしで…スーがいじけてたし。」

「じゃあ…ちょっとだけ…。」

私…エーナは本とペンを置いて、久しぶりに机から離れる。

ーあれから数週間が経ち、平和な日々が続いていた。

不思議図書館も元通りになり、むつぎは変わらず司書の仕事をし、ゼルルは時々人形師(パペッター)の力で人型になって手伝っている。

ノーヴは運び屋用の仕分け人になり、イミアに届け物を届ける際に会っては、たまに2人で出かけているらしい。

レインは相変わらず自分の屋敷で研究しているが、以前よりは出歩くようになり、図書館やカルムの家でくつろいでいる姿を見かける。

ユリィは、みるの力を返却されて今だに「神霊」のまま、本の修理などを続けているらしい。

みる・サラミ・レフィール・カルムは相変わらずで、エーナとスーは正式に「みるの仕え魔」となり、神娘達の力を使いこなせるように修業している。

エーナはその合間に、本にみるが体験してきた事を記す作業をするようになり、時々みるに「観て」もらっていた。

「エーナが本を書くなんて言った時は、ボクびっくりしたよ。」

「どうしても書きたくなったんです。私達が「先へ行く」…その為の「追憶」を。」

「私は「観る」側なのに、仕え魔は「書く」側になるとか…すごいよね。」

「はうぅ…そんなにみんなで言わないでくださいよ~。」

「お前たち、早くしないと時間に遅れるぞ?」

「遅刻したらゼルルがうるさいんだからな~?」

「「はーい(です)!」」

レフィールとサラミの呼びかけに、笑顔で応える、みる、エーナ、スー。

今日は定期的に開かれている、不思議図書館でのお茶会の日。みんな集まって、語ったり、調べたり、模擬戦をしたり。

そんないつもの風景だが、少しずつ変わっていく。追いかけた、その先へと。

ーこれは、あらゆる世界から流れてくる本を管理している「不思議図書館」で起きた話ー

不思議図書館・追 終わり。

《後書き》

うわああああ!やっと終わりましたー!!皆様ここまでお付き合いありがとうございますー!!…あっ、作者のメルンです。ついに「不思議図書館・追」完結!!

いやー長かった…途中新しい仕事が入ってしまい、中々更新できなくてモヤモヤしていましたが、ついに終えることができました!本当にありがとうございます!!

1話冒頭の会話は誰と誰だったのか、やっと書けました〜。あー良かった。

これでめでたしめでたし!・・・で、良い方はここでお別れです、お疲れ様でした。

………。

いや、ちょっと待って!?と思った方、はい、何でしょう?

ノーヴをそそのかして、イミアを○そうとした人?黒髪の女性?何のことでしょう?

…なーんて言いませんよ。

次に投稿予定の「不思議図書館・追ー裏」でその辺りをやります。それはやりますが、次作をどうするかは自分の予定と職員の皆様と要相談ですかね…。なにせ新しい仕事もあるし、GIFイラストも作りたいし、動画も作りたいし…やりたいことはいっぱいあるので。

とは言え、全く次作をやる気が無いわけではないですので、そこは次の投稿でお知らせしようと思います。

それでは、ここまでのご拝読、本当にありがとうございました!次も読んでくださる方は、次回またお会いしましょう!

6/5文章作成、6/16挿絵作成、メルン。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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