…長い長い、勘違いから始まった戦いは、イミアの目覚めと涙で終わりを告げた。
「さて…次は図書館の修復作業ね。」
戦いでボロボロになった館内に、一冊も無い本棚。そもそも本はカルムの家にあるのだから、異空間を移動しなければならない。だが…
「少し…休んでからにしないか?流石に今すぐは…」
「猫の言う通りですわ…ちょっと瓦礫を退かせば…」
いつも元気なサラミとゼルルですら、こんな感じに満身創痍なのだ。正直、言い出したユリィも大技と補助で限界だった。
「………。」
そんな中、みるは変神を解こうとせずに悩み込み、そのみるをレフィールが静かに見ている。
「…ミィ?どうしたの?」
気付いたスーがウサギ状態で、みるに近寄ってきた。
「スー…「この状態で」リレイションできる?」
みるの発言で、カルム、レイン、ユリィ、ゼルル、ノーヴが驚愕し、レフィールとスーとリレイション中のエーナが「やっぱりな」という顔、他は何を言っているのかわからないでいる。
「……ボクは、できるよ。」
スーの返答はつまり、スーは可能だが、みるが2人のリレイションに耐えられるかはわからない、ということだ。
「ダメだ!!」「ダメよ!!」
カルムとユリィが同時に、みるに叫ぶ。この2人が言うのだから相当なのだろうと、理解できてなかった者達も不安な表情になる。
「ちょっと師匠に貸してる力も返してもらえば、大丈夫かなーって。」
「魔力の問題じゃないわ、貴女の身体の問題よ!そうでなくても休む間もなく、戦闘して契約して変神して…負担が無いわけないでしょ!」
「少しすれば私達も回復するから、みるもリレイションを解いて…」
「それじゃあ、間に合わない気がするの。」
「間に合わない?もう敵はいないのよ?」
「そうなんだけど…。」
みるも状況がわからない訳では無いが、心の隅っこに何か引っかかる思いがあった。
「でも…。」
「オレが支える。」
そう告げたのは、今まで静かに見守っていたレフィール。
「オレがミィの補助と支えをする。それなら耐えられるだろう?」
「レフィ!」
「レフィール!貴様…みるの身体が心配じゃないのか!」
真っ先にレフィールに抗議したのは、やはりカルム。…いや、誰も黙って頷きはしなかったが、最も抗議の手が早かったのが、カルムなだけだ。
「みるの勘は何かある。いつも…今回ノーヴの正体を暴いた時もそうだっただろう?」
長年共に暮らしてきたカルムと、今回のみるの勘が正しかった事を見ていたユリィは、レフィールの言葉に何も言えずにいる。
「レフィと一緒なら大丈夫。だから、やらせて。」
「みる…。」
渋々、という形ではあるが、ユリィは神霊になっている元…みるの女神の力、をみるに渡した。
「ありがとう、師匠。」
微笑んだ、みるにユリィは何も言葉をかけられない。一度決めたら止めない、みるはそういう娘だ。
「いくよ、エナ、スー、レフィ。」
『はい。』「うん。」「…ああ。」
キィン!と耳鳴りのような音が鳴り響き、みるの足元に魔法陣が展開される。
「リレイション!サイド・ソルエーナ、スーシル!」
金と銀の光が、みるを包み、スーシル形態のような長い袖にフリルが付いた薄い紫のワンピース、ソルエーナ状態とほぼ同じ靴と飾りになる。決定的に違うのは、腰部分で固定された白い長コートのような装飾。まるでレフィールのコートの色違いに見えた。
その髪の毛先は金でも銀でもなく…魔力光と同じ薄桃色。黒い瞳には星が輝いて見える。
「あれが…みる…。」
「みるの…最も女神に近い姿ね。」
全員が見守る中、みるは背中と腰のリボンから白と桃色の翼を広げ、杖を天に掲げた。
その肩をレフィールがしっかりと支えている。
(図書館を元に…いや…多分違う。「元に戻す」じゃダメだ。正常に?発展を?…もっと何か…)
その時、みるはハッと思い出す。今までのこと、エーナやスーのこと、ノーヴとイミアのこと、カルムやレインのこと。
それは、ずっと過去の「追憶」で、ずっと過去を「追いかけて」きた。
「・・・もう「追いかけ」ない、「先を行く」図書館世界に!!」
杖から光が溢れ出し、その場を…不思議図書館世界の全てを包み込む。
・・・真っ白な光の中、みるは、エーナとスーとレフィールと共に、無数の本が図書館に集まっていく光景を眺めていた。
「あの本1つ1つに、世界があるんだよね…。」
「ああ。誰かが「先へ行く」為に記(しる)した想いと一緒にな。」
『先へ行く為に…記す…。』
エーナはずっと目を見開いて、集まっていく本達を見つめている。
『(私も記したい…この事を…私達や、みるの事を…。)』
・
・
「こ、こんな感じなのですが、どうでしょうか?」
「良いんじゃない?でも、ちゃんと区切りは付けた方がいいよ?エーナ。」
書き上げたばかりの本を「観て」もらったエーナは、ハッとして、みるから返された本を開いた。
「…あっ!!わ、忘れてました!すぐ書きます!」
「少し休んだ方がいいよ?ずっと書きっぱなしで…スーがいじけてたし。」
「じゃあ…ちょっとだけ…。」
私…エーナは本とペンを置いて、久しぶりに机から離れる。
ーあれから数週間が経ち、平和な日々が続いていた。
不思議図書館も元通りになり、むつぎは変わらず司書の仕事をし、ゼルルは時々人形師(パペッター)の力で人型になって手伝っている。
ノーヴは運び屋用の仕分け人になり、イミアに届け物を届ける際に会っては、たまに2人で出かけているらしい。
レインは相変わらず自分の屋敷で研究しているが、以前よりは出歩くようになり、図書館やカルムの家でくつろいでいる姿を見かける。
ユリィは、みるの力を返却されて今だに「神霊」のまま、本の修理などを続けているらしい。
みる・サラミ・レフィール・カルムは相変わらずで、エーナとスーは正式に「みるの仕え魔」となり、神娘達の力を使いこなせるように修業している。
エーナはその合間に、本にみるが体験してきた事を記す作業をするようになり、時々みるに「観て」もらっていた。
「エーナが本を書くなんて言った時は、ボクびっくりしたよ。」
「どうしても書きたくなったんです。私達が「先へ行く」…その為の「追憶」を。」
「私は「観る」側なのに、仕え魔は「書く」側になるとか…すごいよね。」
「はうぅ…そんなにみんなで言わないでくださいよ~。」
「お前たち、早くしないと時間に遅れるぞ?」
「遅刻したらゼルルがうるさいんだからな~?」
「「はーい(です)!」」
レフィールとサラミの呼びかけに、笑顔で応える、みる、エーナ、スー。
今日は定期的に開かれている、不思議図書館でのお茶会の日。みんな集まって、語ったり、調べたり、模擬戦をしたり。
そんないつもの風景だが、少しずつ変わっていく。追いかけた、その先へと。
ーこれは、あらゆる世界から流れてくる本を管理している「不思議図書館」で起きた話ー
不思議図書館・追 終わり。
《後書き》
うわああああ!やっと終わりましたー!!皆様ここまでお付き合いありがとうございますー!!…あっ、作者のメルンです。ついに「不思議図書館・追」完結!!
いやー長かった…途中新しい仕事が入ってしまい、中々更新できなくてモヤモヤしていましたが、ついに終えることができました!本当にありがとうございます!!
1話冒頭の会話は誰と誰だったのか、やっと書けました〜。あー良かった。
これでめでたしめでたし!・・・で、良い方はここでお別れです、お疲れ様でした。
………。
いや、ちょっと待って!?と思った方、はい、何でしょう?
ノーヴをそそのかして、イミアを○そうとした人?黒髪の女性?何のことでしょう?
…なーんて言いませんよ。
次に投稿予定の「不思議図書館・追ー裏」でその辺りをやります。それはやりますが、次作をどうするかは自分の予定と職員の皆様と要相談ですかね…。なにせ新しい仕事もあるし、GIFイラストも作りたいし、動画も作りたいし…やりたいことはいっぱいあるので。
とは言え、全く次作をやる気が無いわけではないですので、そこは次の投稿でお知らせしようと思います。
それでは、ここまでのご拝読、本当にありがとうございました!次も読んでくださる方は、次回またお会いしましょう!
6/5文章作成、6/16挿絵作成、メルン。