
「……やっちまった」
──彼は、がっくりと肩を落とし落ち込んでいた。
歩く足取りはずっしりと重く、失敗の重さを物語っているようだ。
──用意していた筈の資料は見つからず、そこからドミノ倒しのように不運の連鎖は続いたからである。
「今日のプレゼン失敗だったな……」
死んだ魚のような目でトボトボと帰路に着く途中だった。
「ニャっ」
目線を上に向けると、ブロック塀に猫が座っていた。茶虎の少しぽっちゃりとした猫だ。
自分に声をかけているように一鳴きする。
『──元気ないからモフらせてやるよ』
「そういや実家の猫もこんな感じだったな……。お前にちょっと似てるかも……」
悩んでいる時、どこからともなくやってきて、お構いなしに胡坐の上へどっすりと据わり丸くなる。
──そんな奴だった。
彼は、そっと猫の頭をなでる。猫特有の触感が手のひらに伝わる。
しばらくすると、猫は満足したのか、すっと身体を起こすと歩きはじめる。
……家に帰るんじゃないのか?
猫は一定の距離を歩いた後、彼を見る。ついてこいと言うように。
「……そんなところも似てるのかよ」
──彼は、導かれるように猫の後を追いかけていった。
♦♦♦
猫は建物の中に入り込んだ。蔦が壁に覆われている。
「……カフェ?」
──ドアを開けて店の中に入る。
「お邪魔します……?」
「──いらっしゃいませ。空いている席へどうぞ」
店内では、猫が二足歩行をして話していた。──どうやら、茶虎の猫の店員さんが案内をしてくれるようだ。
彼は現実逃避をしながら空いている席に着く。
『──ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください』
茶虎の猫は一礼をして、席を離れたのだった。