―どこまでも深く邪悪な気配を、澄んだ美しい聖なる力で隠している、異質な空間。
無数の両手の平サイズの透明なガラス板のようなものが沢山浮かぶ光景は、灰色の世界で瞬く星のよう。
異質の主は、その中の1枚に映し出された映像を観終わった後、一息ついてガラス板を落とした。
パリン!と砕けたガラス板を更に踏みつけて粉々にする。
「ああ…つまらなかった。」
悩まし気に呟く異質の主は、真っ黒で長い髪を2つに纏め、透明な水晶のティアラを頭に付けた女性。甘さと艶やかさを現すチェリー・ピンクの瞳の奥は、さらに濃く深い誘惑の色を秘めている。
大人の女性らしい身体だが、更に目を惹くのは、下半身を隠すように折り畳まれた美しく真っ白な天使の羽、そして…肩に張り付いて装飾品のように装った黒い悪魔の羽の2つだろう。
「やっぱり私には貴女だけなのかしら…。」
憂いにも似た表情で1つのガラスを引き寄せる女性。そこに映るのは、2人の女神の魂を持つ少女。
「…ああ…早く欲しい…けど、本体はもっと熟した方がきっと甘美よねぇ…クスクス……。」
そう言いながら女性が笑った瞬間、ガラスに赤いブローチの破片が付いた矢が刺さり、ガラスは割れて足元に落ちる。矢が向かって来た方向には、弓を構えるカルムの姿があった。
「ようやく見つけたぞ…!!」
「あらぁ、意外と早かったわね?「カルム」。」
魔性と魅惑の混ざったような声と瞳には、余程力と意思が無ければあっさり魅了されただろう。だがカルムには生憎、愛し好いて堪らない少女が存在する。
「こんな空間作って隠れていたのか…。貴様がノーヴを唆(そそのか)したのだな?あまつさえイミアの命まで狙って…!エイント様の言う通り、いい加減に新しい世界を受け入れたらどうなんだ、【ネルフィーヌ・ルシフェリオ】。」
…その異質の主の女性の名は「ネルフィーヌ・ルシフェリオ」。
「エイント・セブンス・ルシフェリオ」の実姉にして、魔術師でありながら天使となり、同時に悪魔になりかけている。
「嫌よ、天使になるのも苦労したし、堕天を作るのも大変だったんだから。でも、お陰でみるちゃんはレフィールに出会えた、感謝してほしいくらいだわ。」
「それは何人の命を犠牲にした?」
「何故そんなものをいちいち数えなければならないの?貴方は今まで生きてきて使った道具の数を覚えていて?」
「っ…命を道具だと…!」
「私には目的の人物以外なんて道具よ。玩具でもいいけど…目的の方が玩具(おもちゃ)かしら?クスクス…!」
「貴様!!」
カルムは複数の赤い魔力の矢を放つが、ネルフィーヌはそれを片手で羽虫を払うように払って消した。
「私にはもうアナタごときの力は通用しない。私は天使で悪魔…そうね、【魔天使】とでもいいましょうか。クスクス…あのエイントですら私を他世界に縛り付けることしか出来なかった…バカよねぇ、エイントったら…大人しく私と来れば良かったのに。」
「ふん、エイント様がそんなことをするか。」
「…その通りよ!クスクスっ…ホントにバカなんだから!所詮エイントはそこまで。それはアナタも同じ。」
「私が同じでも、みるは違うかも知れん。今のみるなら…」
「警戒している割には、みるちゃん…いや、みるちゃん達を過信しているのね。…いいわ、やっぱりまずは周りの道具からかしら。」
「いい加減にしろ、ネルフィーヌ!」
「イ・ヤ。私は私のやりたい…いや「観たい」モノを「観る」為に動くの。愉しくて震えるような「物語」を「観たい」から。」
「・・・狂っているな、魔天使という存在は。」
「狂おしいのもまた美談。…私の為に踊ってもらうわよぉ、カルム。可愛いみるちゃんが、心をズタボロにされたくなかったら…ね?」
「心を・・・貴様、まさか・・・」
「あら?ようやく気付いたみたいね!でも無駄よ…だってもう起きてしまった事だもの!みるちゃんだって「無かったこと」にはしなかったじゃない?」
「どこまで非道なんだ貴様は…!」
「私が愉しいと思う事ならどこまでも何度でも…いつまでも続けるわ。クスクス…どこでどう終わるか…とっても愉しみ。さて、お喋りはここまでにしましょうか。」
翼を広げ変化したネルフィーヌの姿が、灰色の空間と無数のガラスと共に、徐々に薄くなっていく。
「待て、ネルフィーヌ!!」
「またね、カルム。次はいつになるかしら…クスクス…!」
響き渡るネルフィーヌの笑い声を最後に、空間ごとネルフィーヌは消え去った。
「【魔天使、ネルフィーヌ・ルシフェリオ】…。」
…ネルフィーヌはカルムやレインの師であるエイントすら超える魔術師だったが、その使い方が知性と理性ある者として最悪。魔術師や魔導師を超越する「何か」に変化するだろうと、エイントは予想して説得していたが、ネルフィーヌは全く聞かなかった。
あれはもう性根以上…魂からそういう存在だと結論付けたエイントは、ネルフィーヌがこれ以上被害を増やさないよう、他世界の1つに縛り付けて出られないようにしたらしい。
まさかそこで天使になるとは思わなかったし、縛りを解いてレフィールの故郷の世界に行き、堕天を作るとはエイントも弟子のカルムも思わず、エイントは最愛の伴侶を見つけて別世界を墓とすることを選んだ。
やはり魔法が幻想とされた世界だったせいか、エイントの魔法や過去話は子孫にはほぼ受け継がれず、しかしエイントの故郷が滅んだ原因である双子の女神の生まれ変わりが誕生した。それが、みる。
「…また、戦うしかないのか、みるは…。」
ネルフィーヌとの壮絶な戦いを予想するカルムは、戦いの結末、ひいては戦いの後の、みるがどうなってしまうのか…ただそれだけを憂いて、空間を後にする。
「例え命を失うことになっても…みるは…!」
カルムの呟きを聞いた者は、誰もいない。
終わり or ・・・・?
後書き&おまけ
不思議図書館シリーズ作者のメルンです。待っていた方は、お待たせしました。
黒幕・ネルフィーヌ様のお披露目&「この人何者?」のアンサー回です!先祖の姉だけど、人間やめちゃって、超がつく程邪悪です、極悪です。常時「魅了」を発動しています。
前にお見せした完全体とちょっと違うのは、描き直した結果、色々とナーフされました…。
メルン(ユリィ様がいけるなら、ネル様ももっと色々やっちゃっていいだろう!?)
職員さん「もう少し面積狭くしてください。」
メルン「アッ…ハイ…。」
悪役美魔女お姉さん良いですよね…圧倒的強さを持っていて、勝ち目がなさそうな時に、ちょーっと何かあって「くっ…!!」となった時の表情が好きです。…それは悪役系キャラで性別問わず好き。(これって「ざまぁ系好き」に当たるのでしょうか??)
さあ、これから遂に【不思議図書館・裏】が・・・始ま・・・
るか、どうか、未定です!!
だってまだ何も考えてないもん!!設定だけ考えて、本編は文章のぶの字もできてません!!
そもそも書けるかな〜?いや、書きたいけど、新しい仕事の方のストックを優先したいんですよね…。う〜ん…と悩んでいるうちにまた展示作品のお知らせが来たりとかするんですよ。並行して家の悩みとかもあるわけで…うわああああ!!
と、頭が爆発している間に身体がダウンするという、いつもの展開。
…いやいや!せっかくここまで来たのですから!やるとなった場合はもちろん失踪はしませんので!!
最後に、とある匿名希望さん(本人希望)が描いてくださったネルフィーヌをお見せして、この場はお終いとします。ハッキリ決まり次第記事に書きますので!ご了承ください(土下座)
このネルフィーヌ、体格良っっ!!塗りすっごい!!カッコイイ!!いやー、本当にありがとうございます。
難しい事務をしながら、こんなイラストも描けるという…才能…いや、匿名希望さんの努力の賜物です。画力が上がっているのを見ると「すげえなー」と「羨ましいなー」の2つの気持ちにいつも挟まれます。
匿名希望さん、改めてありがとうございました!!(超絶土下座)
では、ご拝読ありがとうございました。また別の記事でお会いしましょう。
7/18作成、メルン。