
タイトル画像は、画像生成AIを使って作成しました。
CLIP STUDIO(クリップスタジオ)を使って画像の編集をしました。
「……人間になる薬がひと瓶足りぬ」
海の魔女は、嫌な予感がした。──彼女が作業台を見ると、置手紙があることに気付いた。
『親愛なる海の魔女さまへ』
置手紙の封を開け中身の確認をすると、嫌な予感の確信が更に強くなる。
『人間になる薬をひと瓶いただきました。
契約書にはサインを記入済みです。王様(父)には内緒でお願いします』
どうやら『人魚のお嬢さん』こと『末の姫』からの置手紙のようだ。手紙を読み終えたと同時に≪王様≫が現れる。
「ひ、姫がいなくなった……」
あちこち探しまわり全速力で泳ぎまわったのか、ふらついている王様。
「随分遅かったねぇ、王様」
「……噓だろ」
思わず素に戻った王様がポツリと言うと、海の魔女が答える。
「残念ながら現実だねぇ」
──声には抑揚はないが、海の魔女と呼ばれている彼女も、少しだけ動揺していることが見て取れる。
「陸に興味を持たせないように、陸関係のモノを排除していたのに……」
王様は頭を抱えている。
がっくりと効果音が付きそうな、その姿には悲しみがにじみ出ている。
「……それが原因だね」
毎日のように押し掛けていた人魚のお嬢さんが、道具や薬の材料を見るたびにキラキラと目を輝かせていたことを思い出す。
「そうだ、王子……ゴフッ」
「──もし、王子にまで迷惑をかけることがあれば……わかっておろうな?」
海の魔女は、王様が問題発言が口から出てこないように阻止をした。
彼女は、口封じの泡を王様へ飛ばした。──いわゆる、お口チャックというやつである。
「……あの頃のように仕置きが必要かい?」
口封じの泡が直撃した王様は、パクパクと口を動かしていたが、海の魔女の『仕置き』の言葉に何かを思い出したのか、顔色がさらに真っ青になり、ぶんぶんと首を振る。
しばらくして、口封じの泡から解放された王様は、逃げるように出ていった。
──後日届いた手紙には、陸を満喫している末の姫の写真が同封されており、
しばらくは海に帰る気はなさそうだと彼女は思った。
余談だが、魔女集会で彼女と再会した時はとても驚いたと話していたそうだ。
海の魔女さまが飛ばした口封じの泡は、音声のみを遮断させる特殊な泡です。
呼吸には影響がない安全な泡です。
王様は普段ならこの泡を受けても自力で解けるのですが、
人魚のお嬢さんの事で頭がいっぱいだったようです。