第十章「わいわいわちゃわちゃな学園祭」
楽しかった夏休みが終わり、季節は9月と秋に近い季節になっていた。この時期になると運動会の次に学校の最大のイベント、学園祭が開催される。茉莉華達の学校は9月の下旬に中等部、高等部に分かれて開催するため、クラスごとの演劇の練習やお店の準備をしていた。
「ねぇ、智香ちゃん、李衣紗ちゃん。看板、こういう感じはどうかな?」
「めっっちゃ可愛い!いいじゃん!でも、もうちょっと見やすい感じでもいいかも。」
「そうだね。色んな人が来るしね!」
「了解!修正してみるね!」と茉莉華と智香と李衣紗は店の看板を作成していた。他のクラスメイトも飾りつけなど、準備していた。

「ようし、壁の飾りもこんな感じか?久彦。」
「ああ。それでいい。あとは・・・・、そうだな。俺らのクラスはマーメイド喫茶をやるから、海らしい飾りつけとかメニューとか考えたらどうだ?」男子チームも準備したり、提案したりしていた。ノエルも久彦と一緒に手伝っていた。何故なら学園祭が近くなったからだ。部活以外、授業もリハーサルの練習で一日が終わる。すると、茉莉華達のクラスに学年主任の先生が入ってきた。
「中等部1年3組。そろそろ劇の衣装の準備をして体育館へ。」と茉莉華達のクラスを呼ぶ。そろそろ劇のリハーサル練習が始まるからだ。クラス全員更衣室に移動して急いで着替える。そして準備が整い、体育館のステージ裏に行った。みんなは少し緊張していた。
「もう少しで私らの番だね・・・・・。緊張するよ~!!」
「大丈夫だって!いつもの茉莉華らしくいけばいいんだから。俺もツイてる!」とノエルは緊張している茉莉華を励ました。
「ありがとうノエル。少し落ち着いたかも。そういうノエルは緊張してないの?」と茉莉華はノエルに逆に聞いた。「まあ、俺も緊張はしてるさ。元々シャチだったし、人間がやっていることはやってこなかったから、舞台に出て演じるのはこれが初めてさ。」とノエルは答えた。ノエルは学芸会など舞台に立つのは初めてだったので、普通に明るくしながらも緊張していた。
「だよね。でも、大丈夫!いつものノエルでセリフを言えばいいから!」
「そういう茉莉華もな。」と言って茉莉華とノエルは緊張を落ち着かせるために肩をくっつけてくつろいだ。すると、後ろから李衣紗と久彦がニョキッと現れた。
「おやおや~?二人でいちゃいちゃタイムかなぁ~?」
「今日も仲良しだなぁ~。」突然背後から現れたので、茉莉華とノエルはびっくりしていた。
「わっ⁉びっくりした~!!」
「お前ら何やってんだよ・・・・。」
「へへへ。驚かせちゃった☆」
「ドッキリ大成功だなwww」と李衣紗と久彦はイヒヒと悪戯気に笑ってた。

「も、もう!びっくりさせないでよ!!」と茉莉華は言って、自分たちの番が来るまで楽しくコソコソ話していた。そして自分たちの番が来て、茉莉華とノエルは緊張しながらもセリフを噛まずに言った。その後も次の日も明後日も本番が来るまで一生懸命練習した。時が経ち、日にちは9月の下旬となり学園祭の本番の日を迎えた。学園内の外や校門は風船のアーチや看板、沢山並んだ屋台など賑やかなものでいっぱいだった。保護者や家族、親戚や来賓など色んな人が来た。
「うわぁ。凄い人・・・・!町内の人も沢山来てる・・・・!!」
「学園祭ってだけあって、ショーの時みたいに賑やかだな・・・・。」と言いながら茉莉華とノエルは学校の廊下の窓から校門の様子を覗いた。外だけじゃなく、校内も保護者などでいっぱいだ。
「そうだよね~。まるでお祭りみたい!」
「そりゃあ、学園祭だからね!」
「学園祭の日くらいはみんな校則は自由に登校しているしな!」と智香達も茉莉華とノエルのそばに来て話していた。
「ようし!!学園祭で思いっきりパリピるぞー!!」
「おー!!!!」学園祭の日だけは、校則が自由になるため、お互いテンションが上がり気合いも満タンだ。そして学園祭の本番が始まり、最初は学年ごとの劇を披露した。生徒全員、それぞれの劇の衣装を身にまとって自分達の番を待っていた。緊張をしているのか、舞台裏で待っている生徒は気を紛らわすためにコソコソと小声で楽しい話をしている。1年1組と2組の劇が終わり、いよいよ茉莉華達のクラスの番となった。みんなは場面ごとの位置にスタンバイしていた。ちなみにノエルは海を救う勇者役、茉莉華は海に住む人魚の女王の役だ。智香は不気味な小屋に住む謎の魔女役、久彦は漁師役、李衣紗は貴族の娘役だった。みんなそれぞれの役になりきって演じている。物語はクライマックスになり、茉莉華の出る番が来た。
「女王様・・・・・!ご無事ですか!!女王様!!ただいま長い冒険から帰ってきました!」と勇者役のノエルがセリフを言う。すると、茉莉華は女王らしい威厳のある神々しい麗しさのオーラを出しながらセリフを言った。
「我らの国を救ってくれた勇者よ・・・・・・。落ち着きなされ。私はあなた様のおかげで魔王の呪いも解け、封印も解けた・・・・・。街の人々も悪しきものから解放され、喜ぶであろう。勇ましき心で国を救ってくれたそなたには感謝する。」とシーンになりきりながら、ノエルの手をギュッと優しく握る。ノエルは少しキュンッとして驚いていたが、セリフをミスせずに言えた。そして、幕はついにラブシーンに入る。
「女王様これからは、僕と共に平和な国を作っていきませんか。」と勇者が人魚の女王にプロポーズをするシーンだ。ノエルは今の自分たちの状況を重ねながら真剣に演技をする。

「・・・・・!ええ、喜んで・・・!!」とノエルの演技に茉莉華も答えた。こうして、1年3組の茉莉華たちのクラスの劇は幕を閉じた。その後も他の学年の劇が続いて終わり、ついに模擬店を開く時間になった。他学年や高等部の人達も楽しそうに屋台や模擬店を回っていた。もちろん保護者の人達も模擬店で楽しそうに過ごしていた。
「いよいよ開店だね!マーメイド喫茶!!」
「ああ、お客さんが喜ぶように、きっちりおもてなししないとな!」
「さぁ、張り切っていくよぉ~!!」茉莉華のクラスは開店前に気合を入れた。李衣紗の声に合わせて、「おーっ!」と大きな声でクラスのみんなは言った。そしていよいよ開店の時間だ。お客さんも次々と入ってくる。茉莉華のクラスのみんなもお客さんの入店に合わせて挨拶をした。
「ようこそ!マーメイド喫茶、アクアリウムへ!」と言い、接客をしたり、お客さんの注文を聞いたり、調理をして運んだりした。茉莉華もノエルも人魚などになりきって仕事をしていた。
「お待たせしました。人魚のように美声で歌えるようになる特製ドリンクでございます。この飲み物を飲むと歌が上手い人でも下手な人でも上手くなり、美しい歌声が出るようになります。」茉莉華が男性のお客さんに運んだドリンクは、人魚の歌声をイメージしたラムネのゼリーとメロンソーダが入ったドリンクだった。一方ノエルは、若い女性や老婆の客までモテモテだった。ノエルが接客をしているところから「キャーキャー」と声が聞こえる。
「お母様、お嬢様、ご注文はお決まりですか?」と爽やかイケボでお客さんと接客する。
「えっ・・・・、と・・・・・、じゃあ、ス、スマイル・・・・ください・・・・・!」若い女性客は、緊張した顔でノエルに言う。ノエルの接客を見た茉莉華は少しやきもちを妬いていた。

「ノエル、接客力がすごいな・・・・・。女性客からもモテモテで・・・・・・。」茉莉華は彼女としてノエルからどう思われているか胸が締め付けられるくらい不安になる。その後も仕事を頑張り、交代の時間になった。茉莉華とノエルは前半だったので、後半は他の模擬店を見て回った。李衣紗も前半だったが、友達と見て回っていた。久彦と智香は後半に働く係だった。
「もぐもぐもぐ・・・・・。ん~!この焼きそばといちご飴うめー!!茉莉華も一口食べるか?」と模擬店で買った食べ物を食べながら、茉莉華にもいちご飴を食べさせたくて渡した。でも、茉莉華は少々不機嫌だった。
「・・・・ん。ありがと。」茉莉華はうつむいたまま、いちご飴を受け取って食べた。不機嫌なことに察したノエルは声をかける。
「どうした?茉莉華。何でそんなに不機嫌なんだよ。」
「・・・・・・。何でもない。」とノエルが話しかけても茉莉華はいじけていた。それでもノエルは茉莉華の機嫌を直そうと声をかけた。
「今日、学園祭本番だぜ?そんな暗い顔すんなよ。何かあったのか?」とノエルが言うと茉莉華はノエルの腕をぎゅうっと掴んで近くによって、ノエルの肩に頭を乗せた。ノエルは照れながらも少し驚いていた。
「っ⁉きゅ、急に何だよ⁉」すると、茉莉華は小さな口を開いて言った。
「・・・・少しやきもち妬いていた・・・・・。ノエルと女性客に。彼女としてノエルは私のことどう思っているのかなって・・・・・・。私を好きになったのも、遊びで好きになったのかなって・・・・・。ごめんね、私こんなことで悩んで。めんどくさいよね・・・・・。」と茉莉華は自信を無くして不安そうな顔をしていた。ノエルは真剣な顔で茉莉華に気持ちを伝えた。

「何言ってんだよ。俺は茉莉華のことが本気に好きに決まってんだろ。遊びなんかじゃねぇ。」
「・・・・本当に・・・?」
「ああ・・・。茉莉華との付き合いが遊びだったら、恋人繋ぎとか一緒に学園祭周ったりとかずっと話して笑いあっていたり出来ないだろ・・・・・。だから、あまり心配すんな。たとえ、どんな女性客にモテられても俺は茉莉華が世界一可愛いから。」と不安な茉莉華を安心させるようにハグをした。
「ノエル・・・・・・。」すると、周りの人達が茉莉華とノエルを見ていた。
「あら~。おアツいわね~。」
「おばさんも若返っちゃうわ~。青春ね。青春。」
「ヒューヒュー!!」と盛り上がっていた。ノエルはまずいと思い、おどおどして戸惑っている茉莉華の手を引っ張って廊下を走った。
「行くぞ、茉莉華!!」
「え、ちょっ、ノエル⁉」ノエルが茉莉華の手を握って走って階段を上り下りしながら行ったので、さらに高等部や他のクラスメイト含めて周囲の人は盛り上がっていた。
「よっ、我が学校の仲良し夫婦!!」
「ノエル君、王子様みた~い!!素敵!!」そして二人は中等部3年1組の模擬店、お化け屋敷に着いた。当然走った後なので、ぜーぜーと息を切らしている。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・・。めっちゃ走った~・・・・・。」
「まさか冷やかされるとは・・・・・・・・・。」と二人が息を切らしていると茉莉華が目の前の看板を見て少し怖がっていた表情をしていた。
「ひっ・・・・・・!お化け屋敷・・・・・⁉」茉莉華の両足はブルブルカクカクと震えていた。ノエルは茉莉華の震える様子を見て言った。
「・・・?どうした?お化け屋敷とかの怖いの苦手なのか?」
「・・・・・・。うん・・・・・。幼い頃のトラウマで・・・・。」茉莉華はいまだに泣き出しそうな顔をしている。ノエルの袖をギュッと掴んでいた。すると、ノエルは茉莉華の腕をぎゅっと掴んでお化け屋敷の中に入った。茉莉華は少々びっくりしている。
「じゃあ、俺が盾になってやるから茉莉華は俺の手を繋いでろ。二人なら何も、怖くないだろ?」
「・・・・!うん!!」
「茉莉華がどんな時も俺が全力で守るから。安心しな!」と言って怖がりながらも特別活動室の奥へ奥へと進む。茉莉華はノエルのおかげで少し気持ちが楽になった。そしてお化け屋敷が終わり、その他の模擬店や屋台も全力で楽しんだ。

ー夜ー
楽しい時間もあっという間に終わり、時間は夜になった。生徒や先生、来賓や保護者のみんなは校庭に集まっていた。どうやら空に打ち上げ花火をあげるらしい。いつあがるのかとみんなはそわそわしていた。
「なぁ、久彦。今から何が始まるんだ?」
「あぁ、この学校の学園祭の定番の花火があがるんだ。」
「へぇ~、花火があがるんだ!まるで高校の学園祭みたいな盛り上がりだね!」
「ここは中高一貫校だからね。」
「イェーイ!!花火楽しみ!!」とわくわくしながら話していると花火が上がる時間になった。
「さぁ、いよいよこの学校の空に花火があがります。皆様、空の方に視線を見上げてご覧ください。」と校長先生や教頭先生が知らせると、花火のプロの人達が花火の元の容器に火をつけ、色とりどりの花火がバーンと空に上がった。「うわぁっ・・・・!綺麗!!」
「これが花火か。何かテンション上がるな!!」
「うん!そうだね。私もノエルと同じ気持ちだよ!!」茉莉華とノエルは、盛り上がりながら花火を見た。
「どの花火も映える~!!写真撮ってSNSにあげよー!!」
「最高!!」
「やっぱ、外で見る花火はいいな!!」と学園祭の終わり際に打ち上げられる花火を見て夜を過ごす茉莉華達であった。

ー続くー
