原作:幽刻ネオン ※アイキャッチ、立ち絵などGeminiAI AI学習禁止
Episode3
「ようこそ、我が家へ。お待ちしておりました、お客様」
英国紳士のように紅いマントを翻しお辞儀をする美男。
ガチの貴族じゃないかこれは。
「あ、あの。招待状が届いたのでやってきました。ここで間違いないですか?」
「勿論だ。君のような可愛らしい素敵なお嬢さんが来てくれて俺は嬉しいよ」
流暢な日本語で話す美男は、イギリス人とは思えない見た目だ。
この人が僕をパーティーに招待してくれた【ディミトリ・カルデア】だ。
ディミトリが二コリと微笑み、甘い香水の匂いが僕の鼻につく。
「さあどうぞ。中に入ってくださいな。お客様」
「お邪魔します。よろしくお願いします」
ディミトリがレディーファーストらしく先に入れと言わんばかりに。
本当に客が来てくれて嬉しかったんだろうな。
もしかしたら彼は、日本に来てホームシックになっているに違いない。
すると、ディミトリは不敵に低く笑うとドアをぎっちりと閉める。
ここからは僕と彼の会話を楽しんでほしい。
「はじめまして、僕は月城ゆな、と言います。ゆなとお呼びください」
「ご丁寧にどうも。俺はディミトリ・カルデア。ディミトリと呼んでくれ」
「わかりました。では・・・・・・ディミトリさん」
「おっと。そんなに、かしこまらなくていいぞ?気軽に話してくれないか。ゆな」
「ですが・・・・・・」
「いいから。確かに俺は貴族だが堅苦しいのは苦手でね。パーティーなのだから」

「・・・・・・そこまで言うなら。わかった。僕らしく好きにさせてもらうぜ」
「感謝するよ。さぁ、わざわざここまで来てくれたんだ。夕飯にしようか」
「楽しみです」
とまあ、こんな感じに他愛のない会話をしながら話は進んでいった。
ディミトリの吸い込まれるような鋭い瞳が僕を逃がさない。
幸い、霊的な気配も感じることはなく安心してパーティーを過ごすことができそうだ。
リビングは、赤いソファーに頭上にはシャンデリア。
さすが金持ちの家だ。
食卓の場に案内されると、テーブルには豪華な料理が沢山あった。
スープ、パン、カルボナーラ、サケのムニエル、ワイングラスにはリンゴジュース。
などなど、様々なご馳走がすでに用意されていた。
「すげえな。これ全部、ディミトリさんが作ったのか?」
「ああそうだよ。これでも料理は得意でね、お客様のために心を込めて今朝から用意したのさ」
「普通は専属のシェフやメイドが作ってくれるのかと思ったが・・・・・・」
「と思うだろう?俺は他の貴族とは違ってしっかりしているんだ。おもてなしは完璧にな」
プライドが高くて絶対に負けず嫌いなんだろうな、この人。
椅子に座ると、なんだか疲れが吹っ飛ぶような気分になった。
ディミトリの表情は、僕だけをしっかりと見つめていてクライヴとはまた違う雰囲気に思える。
だったら商店街にいたとき感じた、異様な気配はなんだったんだろうか。
「どうしたんだ?せっかく作った料理が冷めてしまうだろう」
「いけね。・・・・・じゃあ、いただきます」
当然、料理は全て美味かった。
アイドルのような食レポはできないが、高級レストランってきっとこんな感じなんだろうな。
贅沢すぎて幸せな気持ちになれる。
(でもなぜ僕の他に客は来なかったんだ? こんな幸せな想いをするくらい)
「フフッ、本当に喜んでくれてよかった」
少しはこんな経験をしておくべきだと、自信を持てる気がした。
Episode4
「ふう・・・・・お風呂も気持ちよかった。何から何まで贅沢すっね」
「やはり君を招待して正解だったよ。本来であればもっと誰かを呼びたかったんだが」
案の定、お風呂も気持ちよく夕飯も最高だった。
修学旅行を思い出しお泊りの気分になれた。
「それで?パーティーというからには、何かそれなりの物があるんだよな?」
「そうだな。俺の中の『パーティー』というのは、誰かと一緒にいることなんだ」
いきなりクリスマス的な事を言ってきた、ディミトリ。
僕が想像していたパーティーは、ダンスをしたり映画を観たりなど。
だが彼にとっては大切な人と過ごす時間が幸福だと言いたいのだろう。
「先に謝っておこう。ゆなが想像していたパーティーじゃなくて、すまない」
「いや、いいんじゃないか。パーティーなんて人それぞれですし。それに僕は充分楽しめているけどね」
すると、いきなりディミトリが僕を優しく抱きしめる。
なんだ?なんだか変な気持ちになるな。
「なんて君は優しいんだ。日本人は俺の中で冷たい人だと思っていたが。暖かい人だ」
マジかよ、彼に接してきた人たちはみんな意地悪なやつなんだな。
いや実際その通りで、人見知りで思ったことをすぐ口にしないで空気を読む人が多い。
そりゃ彼の心もきっとズタズタなんだろうな、言わぬが花だが。
「あの、そろそろ苦しいんだけど・・・・・」
「すまない。俺としたことが、つい。ゆながあまりにも優しすぎて」
いや僕はそんなに優しくない、ひねくれているし霊感が強くて。
だがディミトリにとって僕の存在は、いい人扱いなんだろうな。
「そろそろ寝室に行こうと思うのですが、場所を教えてくれないかな」
「もうこんな時間か。楽しい時間はあっという間だ。よし、ついてくるんだ」
ディミトリは、右手を差し出し僕を手招きする。
ついてくる分にはいいんだが、なんだか不思議な感じがする。
(なんだ? この違和感は。僕は普通にお泊り感覚で楽しいはずなのに)
この洋館自体がさっきから僕のことを歓迎している。
椅子が勝手に動いたり、時計の針がクルクルと回ったり。
肖像画の人物の男が一瞬微笑んだような気がして。
なぜ霊の気配は感じないのに、違和感だけが残るんだ。
「なあ、ディミトリさん。ひとつ聞いていいかな?」
「ああ。なんでも答えてあげよう」
僕は少し彼に意地悪な質問をした。
この想いが変な方向に向かなければいいが。
「この洋館。他に誰かいるんですか?」
「ここに住んでいるのは『俺一人だけ』だ」

