原作:幽刻ネオン ※アイキャッチ、立ち絵などGeminiAI AI学習禁止
Episode5
僕は居心地の良いベッドから身体を起こし、スマホのアラーム音を止める。
昨日は、沢山乗り物に乗って山を少し登ったから疲れて泥のように眠った。
これといったいわゆる霊的現象は起きず安心して眠ることができた。
僕が感じた『違和感』をのぞいては。
あれこれ考えても仕方がないので、さっさと着替えて寝室を出てリビングへ向かう。
待っていたのは、ディミトリだ。
「おはよう。ゆな、昨日はよく眠れたかな?」
「ああ。なんとか・・・・・」
欠伸をしながら情けない返事をする。
ディミトリは、そんなだらしない僕をみても怒りもせず微笑んだ。
もし僕が感じた違和感が間違いであればいいのだが・・・・・。
「フフッ、朝食が出来たから顔を洗っておいで」
「そうするよ」
思っていた以上に僕は、何かに振り回されているような気分になっていた。
別に今日は雪女や吸血鬼はいないのに。
気になることは沢山あるが。
(いけね、捜査のことすっかり忘れていたぜ。ディミトリに気づかれないように行動しないとな。)
もしこの【捜査】が万が一、彼にバレたりしたら面倒なことになるはずだ。
とりあえず僕は洗面所にいって顔を洗い、事を済ませることにした。
その時。
「うっ⁉」
痛みは感じないが、寒くて冷たくそれも誰かが背後にいるような最悪な気配を感じた。
確実にこれは【いる】と断定できる。
なぜなら鏡に赤く鋭い両目の瞳が現れたから。
「な、なんなんだよ。お前・・・・・・」
眼はずっと僕を睨みつけているようにもみえる。
それも、束縛っぽい何かが僕に迫っているような気がして。
思わず目が覚めてしまう、こんな目覚まし時計ははじめてだ。
「顔も洗ったし、戻るとするか・・・・・・」
なーにが、パーティーだ。
何もかも妖しすぎるし、確かに僕はこの眼で見た。
(幽霊屋敷だな、こいつは)
絶対にこの洋館にはとんでもない真実が隠されているに違いない。
僕は決心した。
この謎を解くまでここから出ない。
そう、違和感がなくなるまで。
~数分後~
「ゆな、どうしたんだ?元気がないようだが」
「え?いや・・・・・・なんでもないよ。ただそろそろ大学の講義が近いなって」
朝食後、僕はこの洋館を探索するためにあたりを見渡しながら歩いていた。
勘が鋭い奴の可能性も考えながら僕は真剣に見渡す。
「それならいいのだが。君は真面目な人だと伝わるよ」
「そうかな?まぁ、誉め言葉として受け取っておく」
この状況でどーしても一人になりたい。
なにかいい案はないのだろうか。
「あ!そうだ。ディミトリさん、今からお使いをお願いできますか?」
「お使い?何か買ってきてほしいのがあるのかな?」
騙すことはとても心苦しい事だが、この洋館の真実を突き止めるために手段は選ばない。
だから僕は彼に少し意地悪な提案をする。
「はい、実は。極上のワインをお願いしたくって。ディミトリさんのような貴族なら一流のワインを仕入れることくらい容易いかと」
時間稼ぎをして調べる、これも妖魔捜査官としての大事な任務だ。
一瞬、彼は首をかしげたがすぐに笑顔になり。
「いいだろう。ゆなの願いとなら引き受けよう。ふむ、お店はここか。暗くなるまでには戻ってこよう」
「ありがとう!いやー、友人がどうしてもワインが欲しくてうるさいのを思い出して。僕はこの洋館の見張りをしていますね」
実は嘘は言ってない、クライヴとリリカの親父さんにプレゼントするためだ。
僕がディミトリにメモを渡すと彼は頷いてドアへと向かう。
「じゃあここは、任せたぞ。何かあったら呼んでくれ」
「よろしくお願いしまーす。いってらっしゃい!」
ディミトリが外に出た瞬間、僕はガッツポーズ。
暗くなるまでに何としてでもこの洋館の真実を暴く。
「よーし、調査開始だぜ!」
久々の妖魔捜査官としての任務が始まった。
Episode6
僕のスマホからリリカのチャットが届き、この洋館の噂を教えてくれた。
なんか音楽が鳴っていたらこれのことだったのか。
彼女からの要件は『洋館の隅々までを調べること』だ。
当然、彼女が全てを知っているわけではない。
少しでも手がかりを探すことにしないと。
「といってもどこから探せばいいんだ? でも鏡がある場所は極力避けたいぜ」
さっきの両目の怪異は僕にすごく執着心を持っていた。
また出会ったら今度は精神攻撃ではすまないだろう。
その時だった。
クスクス・・・・・・
どこからか女の子の笑い声がしてきた。
もしこの洋館にディミトリしかいないのなら、彼女の声なんてしない。
でも確かに聞こえた。
声の主は・・・・・・。
「あの部屋から聞こえてたな、調べよう」
僕は笑い声が聞こえた部屋へと向かう。
ここは、椅子と暖炉が見える場所だった。
クスクス・・・・・・
また聞こえた。
微かに妖気を感じる。
「隠れてないでさっさと出てこいよ」
すると、背後から可愛らしい声がささやく。
「你好」
「なっ・・・・・」

振り向いた先にいたのは、チャイナ服を着ている少女。
たが、顔色が悪く宙に浮いており両手の爪も鋭い。
額にお札がついているのが特徴の怪異といえば。
「・・・・・キョンシーがなんでこんなところに」
「クスクス・・・・・・」
おいおい嘘だろ、なぜこんなところに雰囲気にあわない怪異がいるんだ。
棺など見当たらないし主すらいない。
僕には、ただ宙に浮いている少女としか思えなかった。
「なあ。君に聞きたいんだが。なぜここに?」
「・・・・・・気が付いたらここにいたの、何にも覚えてないわ。それより!」
「なんだよ」
「ねえねえ、いっしょにここから出たいの。協力してくれない?」
こいつ、意外だな。
普段なら僕のことを襲うはずなのに全く敵意を向けないぞ。
彼女は、僕の周りを興味深そうにじろじろ見つめながらニコニコしている。
「奇遇だな。僕もここから出たいと思っていたんだ。理由を聞かせてもらうか」
「わたし、ずっとここにいるからつまんないの。誰にも気づいてもらえないし。でも、あなたがいるわ!」
いわゆる地縛霊じゃなくて地縛キョンシーか。
この場所は異様な雰囲気で反吐が出そうだぜ。
「僕を襲う気は全くないんだな? だったらいっしょに協力しようぜ。ゆなだ」
「麗華(リーホワ)よ。よくわかってるじゃない。ゆな。わたしたち、お友達になれそうね」
麗華が嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。
無邪気な子供のようでなんだか妹属性ありそうな奴だ。
なんていうか誰かさんに少し似ているような。
「うれしいわ。もうこれで独りぼっちじゃない」
「親切な人間でよかったな。君がいれば百人力だぜ」
「ふふん!当然でしょ」
ふと、僕は思い出した。
リリカが「怪異の力に頼るな」と言われていたことに。
だが今は緊急事態だ、こんな怪異をほおっておくのもなーんか違う気がする。
「次は書斎あたりを探索してみたいんだ。よかったら来いよ」
「ええ、喜んでいくわ!」
僕と麗華は早速、書斎へと向かった。
なんか、今日はやけに怪異と出会う確率が多いな。
Episode7
書斎へ来てみたはいいものの、相変わらず薄暗い。
本来なら誰かいてもおかしくないはずだ。
「ゆな。手がかりは見つかりそう?」
「どうだろう。ここに来て二日目だし何もいいことなんてない」
脱出といっても考えられるのは、ドアの鍵を探すことぐらいだ。
しかし厄介なことに、玄関のドアノブに鍵穴らしき錠が見当たらなかったことを思い出す。
「参った・・・・・これじゃあ手がかりも見つからないまま終わるよ」
「どうした? それなら俺も手伝ってやろうか」
「いいの? うれしい!」
おいおい、麗華は悪い大人に騙されそうだな。
「このあたりにそれらしいブツがあればいいんだけど・・・・・」
「そうね・・・・」
「弱気になるなよ。ここから出たいのは俺も同じなんだからさ」
ディミトリが言っていた『この洋館には自分一人しかいない』なんて嘘だ。
現に僕は一人の怪異と出会っており、声も聞こえる。
ああ、きっと彼には視えないんだろうな。
じゃあ仕方がない。
(けど不思議に思うのは違和感だけじゃない。まるで)
「洋館そのものが、生きているようだな」
「何よ? 急にヘンな事を言うなんて」
「彼女のなりの比喩表現だろう、気にすることはないさ」
洋館が文字通り生きているならこれ以上の気持ち悪さを通り越して。
怪異たちの巣くう楽園。
ディミトリはまだ『違和感』に気づいていないまま今日まで呑気に過ごしてたのだろうか。
だとしたら彼の頭の中は、お花畑で間違いないだろう。
「つーか。お前・・・・・」
急に僕の背筋が凍り尋常じゃない気配を感じた。
まだ何かいるんだな、この洋館に迷い込んでいる怪異が。
「いったい何者なんだよ」
背後からゆらりと大きな影が僕をおおい、じっと見つめている。
その男は現れた。

「君と同じようにこの洋館に招かれた、しがない吸血鬼さ」
黒のライダースジャケットに白いシャツでデニムジーンズを身に着けている青年。
黒い手袋をつけているため、僕にはやんちゃな男だと思えた。
「まさか『こんなところで再会するなんてな。月城』」
僕は言葉を失った。
