
『……マスターすまねぇ。俺の落ち度だ…』
『気づかなかった僕も悪いよ……カギは掛けておいたのに……』
どんよりとした空気が厨房に漂いとても空気が重い。茶虎の猫──とらが、前日に仕込んでいたフルーツケーキなどケーキ系のデザートの仕上げをしようと厨房に向かった時に事件が起きた。
冷蔵庫に入れたはずのケーキが無かったのである。冷蔵庫のドアは開けられた形跡があり、冷蔵庫のドアの近くでは、ぐっすりと寝ている泥だらけの小さな仔猫。顔には、クリームがべったりとついていてとらが仕込んでおいたケーキが半分以上食べられていたのである。
──そして現在に戻る。仔猫がどうしてこんなところにいるのかを疑問に思いつつ、マスターと呼ばれた猫が残念そうな声を出す。
『仕方がないけれど今日のケーキは出せないね』
その日は、ケーキの代わりになる商品を売るという考えに落ち着いたようだ。
『泥とクリームがべったりついてるな。とりあえずシャワー室に連れていくか』
とらが、仔猫を抱きかかえようとした瞬間、仔猫が目を開けた。文字通り飛び起きた子猫は、とらの手をすり抜けて逃走した。マスターととらが仔猫を捕まえようとするが、なかなか捕まえることができなかった。
『……はやっ』
『おっと……素早いねぇ』
『──おはよう……って何してんの?!』
挨拶に来た三毛のお嬢さん──みいちゃんが現れた。しかも、最悪なタイミングで。とらが仔猫を捕まえた瞬間を見たみいちゃんが、制服のポケットからスマホのようなものを取り出した。
『…………もしもし。神様ですか?』
『ちょっ……誤解だって!!!神様に通報しないで!‼』
『違うの?てっきり猫さらいかと思った』
『断じて違う‼──猫聞きの悪い事言うな!!』
──誘拐犯の疑いをかけられたとらは、自分の無実を証明するように叫んだのは言うまでもない。
誤解を解こうと必死に弁明しているとらの言葉を聞きながら、みいちゃんは仔猫をシャワー室に連れていき、丁寧に子猫についた泥とクリームを落としたのだった。
──ミャウカフェ開店まであと××分。開店前の出来事である。
※みいちゃんは、スマホのようなもので、仔猫が店内にいる事を神様にお話しをしたそうです。
