
仔猫をシャワー室に連れて行ったみいちゃんが、更衣室のドア越しに話す。仔猫についた泥とクリームを落とし終えたようだ。
『マスター、小さい服ってあったかしら?』
『とりあえず探してみるよ』
マスターが小さな服を探しにバックヤードへ向かった後、暫くすると小さな服をもって更衣室の方へ向かう。
『開店前に疲れた……』
とらはげっそりとした表情で、カウンター席の椅子に腰かける。
『どう?似合うでしょ?』
小さな仔猫はシャムの女の子だったようで、ウエイトレス姿で現れた。みいちゃんは、妹分ができてまんざらでもなさそうだ。何か言いたそうにみいちゃんの隣で、子猫はもじもじとしていたが、とら達に謝った。
『……ケーキ、食べてごめんなさい』
『ケーキ美味かったか?』
『うん‼おいしかった』
仔猫に満面の笑みを浮かべて、自分が作ったケーキをおいしいと言われたとらは、うれしそうだ。
とらは、ケーキを食べられた悲しみなどでいっぱいだったが、仔猫のおいしいの一言でとらの心は少しだけ軽くなったようだ。
『やべぇ……もう開店時間だ』
『『…………っ!!!』』
時計を見て、顔面蒼白となったとら達は、慌ててカウンター席から離れてそれぞれの配置についた。
シャムの仔猫──後にココアと名付けられた彼女は、とらの助手となり、猫用ケーキを作るまでに成長したそうだ。
おまけ
雨が降るどこかの路地裏で泥だらけの仔猫が鳴いている。──母を探しているのか、それともお腹が空いていたのか。歩く姿も弱々しく彷徨う姿を見てしまった『私』は、ある決断を下した。施錠されていて入れない店内に≪仔猫≫を招きいれることにしたのである。
仔猫を誘うようにドアをそっと開けると、するりと仔猫が店内に入る。仔猫が店内に入った瞬間に、鍵が元の様にかかる。こうして、仔猫が店内に入り込んだ顛末である。建物によって起こされた行動は、後に大騒動となる発端になった原因なのは言うまでもない。
ミャウカフェの店内には、家事を手伝う妖精さんがいます。お店のドアや冷蔵庫を開けたのは、彼女(もしくは彼)です。目の前で仔猫が衰弱していくのを見ていられなかったと後に供述したそうです。
