第七話「奇薔薇浩一」
誰もいない探偵事務所の中、浩一は社長室で過去の思い出を思い出しながらため息をついていた。
「ヤクザの俺が、探偵・・・・・・か・・・・・・・。」と自分の母の写真を見つめながら呟いた。
ー幼少期ー
「おい!!酒はないのか!!酒は!!」と浩一の父が荒げた声で叫んでいた。浩一は5歳で父と母と3人家族でボロい一軒家に住んでいた。だが、浩一はDV気質でアルコール中毒な父親を心底嫌っていた。また、夫婦喧嘩も頻繁だっため、嫌気もさしていた。
「おい、父さんいつまでアルコールに依存すんだよ。いちいち酒ってうるせぇんだよ!」
「浩一⁉お父さんに刃向かっても無駄よ!!」浩一が父親に刃向かうと母親が逆上して刺激させないために浩一を止めた。だがすでに遅く、浩一の父は酒瓶を持って激怒し、浩一に向かって投げ始めた。パリーンっと家中に響き渡り、壁には酒瓶の破片が刺さっている。絨毯や床はこぼれた酒で酒臭くなっている。

「浩一、父親に向かって刃向かうとはいい度胸だなぁ⁉あぁん⁉お前も母さんと同じ目に合わせてやるか?どうせ、浩一はろくな大人にならないだろうしなwwww」と浩一の父は言い、こぶしを握り、浩一を殴る。母親は耐え切れなくなり、浩一を抱きしめて必死に守った。すると、浩一の父のこぶしが浩一の母親の左頬に強く当たり、痣ができていた。そしてこぶしと共に握っていた酒瓶のガラスの破片が母親の後頭部に深くグサリと刺さり、意識を失いその場に倒れこんでしまった。
「母さん・・・・!おい、しっかりしろよ!母ちゃん!」自分の母親が倒れてしまったところを見てしまった幼い頃の浩一は涙を流しながら母親を必死に呼んで嘆いていた。浩一の母親が浩一の顔に手をかざして最後の力を振り絞って言った。
「浩一・・・・、貴方だけでも逃げて幸せに生きてね。お母さん天国から浩一の活躍を応援しているから・・・・。」と言うと体温は低く冷たくなり浩一の母親は亡くなってしまった。
「お母ちゃん、お母ちゃーん!!!!」と浩一は母親のお腹の上で死を悲しみ、泣いた。それはそうだろう。浩一が5歳の頃に大切な母親が亡くなってしまったのだから。しばらくして浩一は酔って深く爆睡している父親の隙をついて音を立てずに部屋の中に入り、大きなカバンに部屋の物がなくなるくらい荷物を詰めて家を出た。時間は午後5時になり、空の色は夕日でオレンジになっていた。それでも大きな荷物を持ちながら歩き続けた。
「はぁっ・・・・。はぁっ・・・・・。荷物が重い・・・・。でも、家には帰りたくない・・・・・。」重くて苦しいせいか、ボストンバックを引きずりながら歩いていた。数分後、疲れてきたので、家から離れたコンビニのベンチに座って休憩をした。
「家出してきたのはいいものの、荷物が重すぎて上手く歩けねぇ・・・・・。でも、遅い時間までいたらお巡りさんに連行されちゃうし・・・・・。(ぐ~っ・・・・。)何か、腹減ったな・・・・・。あ、しまった・・・・・。お財布忘れた・・・・・。飯どうしよう・・・・・。」と浩一がコンビニのベンチで落ち込んでいると目の前にヤクザらしき恰好をしている強面の男が浩一に話しかけてきた。その男は仲間と二人で来ていた。
「どうした?小僧。その重そうな荷物を見る限り、家で何かあって家出したんだろ。」話しかけてくるヤクザに幼い頃の浩一は怖がっていたが、話の問いかけに答えた。

「う、うん・・・・。おじさん達の言う通りだよ。俺、家で酒飲みな父さんにぼーりょく振るわれて沢山怪我して、母ちゃんは父さんにやられて亡くなってしまって・・・。それで父さんに嫌気がさして家出したんだ。」と涙ぐみながらヤクザの男達に事情を言った。すると、ヤクザの男はベンチに座って浩一に寄り添った。
「・・・・。そうか、そんな事情があって家出したんだな。今までよく頑張ったな。」とヤクザの男は言い、浩一の頭を優しくなでた。その手は乱暴的なヤクザとは思えないくらい大きく暖かかった。浩一は優しい愛情に母を思い出しながら大粒の涙を流して泣いた。今まで苦しかったものが全部出たのであろう。
「なぁ、小僧。良かったら俺んとこの事務所に来るか?俺らがお前を愛情込めて育ててやるよ。悲しい思いをさせないくらいに。」と言い、ヤクザの男は浩一をぎゅうっと抱きしめた。そして浩一はヤクザの男と一緒に男が所属している事務所に行き、周りのヤクザ仲間からも歓迎された。美味しいものを食べたり、親代わりに浩一の欲しいものを買ってあげたり、お出かけや旅行もしたり、学校にも行かせたりした。そんな繰り返す毎日に浩一もあっという間に立派な青年になり、ヤクザの一員となった。
「俺らは年を取ったけど、浩一も立派な青年になったな。」
「それもこれも幼い頃に家庭不全の中育った俺を親代わりに一生懸命育ててくれたおかげです。あの頃出会えてなかったら俺は彷徨って山奥で一人暮らしするところでした。本当に感謝しかありません・・・・・・・・・・・。」と浩一は微笑んだ。
「ハハハ、何だよ今更。お礼なんていいんだよ。俺はただ、人として当たり前のことをやっただけなんだから。俺も仲間もお前が組に入ってくれてよかったって言ってたぞ。今夜、浩一の成人祝いをするか!!」
「はい・・・・!お頭には、一生ついていきます!」と浩一とヤクザの男は語り、事務所に戻って浩一の成人祝いパーティーをした。だが、祝っている最中のことだった。事務所内に複数人の他の組のいかつい男達が入っていき、浩一の恩人である組長の男やその仲間達を次々と殴られ、殺されてしまった。浩一は怒りに燃え他の組のヤクザを倒すが、攻撃をかわされ逃げてしまった。
「・・・・。くそっ・・・。逃げられてしまったか・・・・。何で俺の恩人達が殺されなきゃいけないんだよ・・・・!俺、そんなに悪いことしたか⁉」浩一は自分を救ってくれたお頭の男の側に行き、悔し怒り泣きをしていた。すると、わずかの意識でお頭が目を覚まし浩一の頬に手を当てて言った。でも、仲間やお頭はだいぶ瀕死状態の様子だった。
「浩一・・・・、一緒に祝えなくてこんな終わり方になっちまってごめんな・・・・。俺も仲間も敵対勢力のヤクザにやられちまったぜ・・・・。浩一と暮らせて凄く楽しかった。これからは俺らがいなくても逞しく正しく一生懸命に生きろよ。ヤクザの世界から足を洗ってまともな仕事に就くのもよし、後を継いで組長になるのもよし・・・・、生き方は自分で考えて行動しろよ・・・・。今までありがとうな。空からお前の活躍、見守っているぞ・・・・。」とヤクザのお頭は言って息を引き取った。浩一は泣き叫んで恩人らの無残な死を悲しんでいた。

「お頭・・・・!お頭ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・!!」しばらくして浩一は近くにいた警察に捕まり、牢屋に入れられた。浩一は正しく生きても正義のヤクザのグループでも、敵対勢力と殺伐な戦いをしていたから逮捕された。お頭といた頃は、浩一も負けじと守るために敵対勢力を血まみれになるまでやっつけていた。浩一は一人収容部屋で寂しく独り言を言っていた。
「お頭・・・。これから先、俺はどうして生きて行ったら・・・。うぅっ・・・・・ひっぐ・・・・・。」浩一の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていて、両目は赤く腫れていた。すると、小中高で同級生で現在は刑事として働いている古畑菜が浩一のもとに来た。
「その声、浩一君・・・・?」
「!?もしかしてお前、古畑菜か!?」これには浩一も驚いていた。
「まさか、こんな所で出会うなんてね。久しぶりだけど、少しガッカリだよ。浩一君がヤクザのグループの一員で逮捕されるなんて。今までの浩一君のことは、職員から聞いてるよ。」と古畑菜が言うと浩一は空元気で笑って話した。
「ははははっ・・・・・、もう俺の事情はすでに聞いていたのか。困ったな・・・・。幼馴染で親友の古畑菜に捕まるなんて・・・・。俺は・・・・、どこまでも不幸な男だな・・・・。ごめんな、古畑菜。こんな残念な俺で・・・・。ヤクザになって罪人にもなっちゃって・・・・・。」それを聞いた古畑菜は悲しそうな目で浩一を見つめた。
「浩一君・・・・・・。」
「俺のために心配してくれるのか?こんなヤクザの俺に・・・・。刑事として罪人の悩み事に同情するのはヤバいんじゃないのか・・・?お前は相変わらずお人好しな人だな・・・・。」浩一は苦労が沢山ありすぎて心がボロボロで皮肉な言葉しか出なくなっていた。すると古畑菜が浩一の収容部屋に入り、涙ぐんだ顔をしながら浩一を優しくぎゅっと抱きしめた。
「親友なんだから当たり前でしょう!浩一君のこと何年見ていると思ってんの?高校の時は途中から退学してしまったし、悩み事も相談しないで隠してばかり。すごく心配したんだよ?」
「古畑菜・・・・・。」

「君のお父さん、たった今逮捕したからね。辛かったでしょう、苦しかったでしょう。でも、君が無事で保護されてよかった・・・!浩一君を引き取った人はヤクザのお頭さんだけどね。」と言い、古畑菜は優しく浩一の頭を撫でる。その優しさに浩一はまた涙を流してして泣いてしまった。きっと大切な事に気づけなかった後悔の涙であろう。それでも古畑菜は母のように優しく浩一を抱きしめて受け止めた。
「ごめんな・・・・。心配させて・・・・・。本当にごめんな・・・・・!」
「これからは何かあったら僕に相談して。すぐに駆け付けるから。でも、刑の間はちゃんと作業とかしっかり頑張るんだよ。」
「あぁ、もちろんだ。約束する。」そして浩一は回診しようと必死に刑務作業をこなしたりした。囚人仲間から殴られたり虐められても必死に耐えた。数日超えたある日、野郎まみれの刑務所に美しくてクールな感じの女性の囚人が入ってきた。周りの男性囚人らは、メロメロな状態で見ている。

「女の囚人か・・・⁉」
「何故ここに・・・・⁉」
「綺麗な顔立ちだな・・・・・。」もちろん、浩一も驚いた目で見ていた。女性はフッと笑って収容部屋に入った。しかも、隣は浩一の部屋だ。それでも浩一は惑わされずに自分の部屋に戻り日記を書いた。
「あの女、どこかで見たことあるな・・・・。」と面識があるのか、浩一は女の囚人のことが気になってテレビをつけた。するとテレビには、隣の部屋に収容されている女の囚人の顔とかつて女がいたマフィア組織の建物や仲間の顔が映っていた。建物は海外にあるのか、お城のような豪華な造りだ。
「何か、中世の城みたいだな・・・。」浩一はブツブツ言いながら考えているとドアからコンコンと音が鳴った。ドアについている窓を見ると、そこには看守と隣の部屋にいる女囚人が立っていた。彼女は「茅野佐百合」と名乗って自己紹介をした。後に浩一の妻で翔の母である。浩一も緊張しながらも佐百合に自己紹介をした。
「ふふっ。よろしくね。浩一さん。」
「あ、あの佐百合さんって・・・・、何で捕まってしまったんですか?美人でお綺麗なのに・・・・。」と浩一が聞こうとすると看守が彼女の代わりに答えた。
「彼女は家族全員がマフィアの家系でね・・・・・。彼女もその一人で殺し屋担当だったんだ。メンバーの中でも頭脳明晰で天才といわれるくらいにね。」
「佐百合さんが・・・・、マフィアで殺し屋・・・・・。」浩一は佐百合の意外な正体に驚いていた。
「意外だったでしょう?でも、立場的なのはヤクザである浩一さんと同じくらいよ。」
「ああ・・・。そうだな。」と浩一と佐百合が話していると看守が二人に話しかけた。
「古畑菜刑事からの提案で話があるんだけど、ちょっとだけいいか?」と話しかける看守に二人は驚いていた。「話?」
「何だ?俺らの話って・・・・。」そう言って二人は看守と共に相談室に行き、中に入った。するとそこには古畑菜刑事も座っていた。二人が来るのを待っていたそうだ。
「よく来てくれたね。二人共。」
「古畑菜・・・・。話ってなんだ・・・・?」
「一体何なのか教えてください!!」浩一と佐百合の二人はさっそく古畑菜刑事に質問を訪ねた。
「実は、話っていうのはね・・・・。このことなんだけど・・・・。」と言って古畑菜刑事はポッケからボロボロのメモ紙を二人に差し出した。その紙に書いてある言葉は浩一と面識のある人物だ。
「この字は・・・・!お頭・・・・⁉」
「何て書いてあるのかしら・・・・。」浩一は恩人が残していった手紙に衝撃を受けながらも佐百合と一緒にメッセージを読んだ。
「浩一へ。今まで俺らの組を支えてくれてありがとうな。お前のおかげで組の雰囲気も潤って明るくなったぜ。優しさを教えてくれたのもお前のおかげだしな。でもな、これからは大人として一人の人間として道を外さずに強く正しく生きるんだ。たとえどんな時があっても。もし誰かが困っていたら手を差し伸べて助けること。そしたらきっと自分にもいいことがある。大丈夫だ。優しいお前ならきっとできる。お頭の俺が保証する。俺らもそろそろいい年だしヤクザを引退するかなと思っているんだ。だからお前もヤクザを引退して、探偵やってみたらどうだ?ヤクザの探偵なんて、斬新だろ?それじゃあ、頑張れよ! お頭より。」と読みながら浩一はお頭との過去の思い出を思い出しながら涙をぽろぽろと流した。
「・・・・!お、お頭・・・・!うっ・・・・、うぅっ・・・!・・・・ひっくっ・・・・。」
「貴方の所のヤクザ、浩一君の事を大切に思ってたのね・・・・。」佐百合は手紙を見て号泣している浩一に寄り添った。
「浩一君が探偵か・・・・・・。」
「こんな俺に探偵なんて・・・・。」古畑菜刑事や浩一は手紙を見ながら考え込んでいた。すると、浩一のそばにいた看守がこう言った。「探偵なんていいじゃないか。そのためにも作業など色々頑張らないとな。未来で幸せになるためにもな。」
「看守・・・・!」
ー現在ー
「その後、探偵になるために刑務作業や訓練とか必死に頑張ったんだよな・・・・。資格や試験など色々大変だったけど、佐百合や古畑菜、看守のみんなが支えてくれたから・・・・。」浩一は懐かしみながら刑期中だった時の写真を見つめた。すると、後ろから佐百合が話しかけた。
「あら、どうしたの?写真なんか見つめちゃって。」
「あぁ、あの時の思い出を思い出してたんだよ。ありがとな。佐百合。色々と。お前が俺の妻でよかったよ。」と浩一が佐百合に改めて微笑んでお礼を言った。
「なぁに。今更・・・・。いいのよ。悩んだ時はお互い様だから。
私も、貴方が夫で良かったわ。これからも末永くよろしくお願いします。」
「あぁ。こちらこそだ。」と言いながら笑いあって思い出を語り合った。

ー続くー
