※すべてフィクションです。
それは、私が大学教授だった頃の話だ。
私は社会学の講義をしていた。少しだけ具体的にいうなら、「メディア」などについての。個人の視点だし、私がネガティブすぎるからなのかもしれないが、学生達はあまり興味がないように見えた。
だからこそ、驚いた。一番前の端の席に座っていた彼。あの子は。
顔を上げ、私の顔を見て、頷きながら話を聞くのだ。なぜ、そんなにキラキラした目で見るのだ。すごく印象的だった。
私は彼のためにこの講義をしていたのだろうか。彼のために話をしていたのだろうか。
時が時なら。世が世なら。涙が出そう、だっただろう。
これから先、彼が何かにもまれて、何かに慣れて、私の話なんかつまらないと思ってしまうかもしれないと思うと、悲鳴をあげたくなる。狂ってしまう。そんなことがあったならもはや狂いたい。
そのままでいてほしい。そのままでいてくれよ。
この瞬間の彼の姿を見て、これからの彼を信じられないくらいに、私は人間に期待できなくなっているのか。
積極的に質問までしてくれた。非常に前のめり。
ありがとう。
捨てたもんじゃないな。
それから数年が経った。
彼はあの頃よりも遥かに大人っぽくなった。
染めてこそないけど、少しだけ髪を伸ばしたみたい。印象がかなり変わったため、顔を見て、あぁ、同じ人か。彼だよな。彼で合ってるな、と判断するくらい。
それでも根っこは変わっていないと、私は信じている。
信じるだけだ。
そして、X年後の現在。
彼は黒猫になっていた。
良い家柄のお嬢様の飼い猫として、今、彼女の膝の上に乗っている。
私がお嬢様に話しかける度、彼はとても嫌そうな、不機嫌そうな、はたまたムカついているような表情で、こちらを見てくる。いや、にらみつけてくる。目力だけでいうなら、あの時の彼と変わらない。意味合いは違えど。
正直な話、私は少し嬉しい気持ちがある。あのまっすぐだった彼にも、いわゆる嫉妬のような感情が芽生えたのだなと思うと、嬉しいのだ。芽生えたのか、はたまたもともとあったものなのか。どちらにせよ、いい。
なんてxxxx黒猫なんだ。
作 コクゴブドウ
