約束の記憶 プロローグ

魔法使いにとって、人生最高のプレゼントは、名前と杖であろう。

カモメ家の次女・ユカリもそうであったはずだ。
そうであったはずなのだ。魔法の力があれば、この2つは間違いなくユカリのものとなっていたはずだった。

カモメ家と言えば、魔界でも有名な魔法使いの名門である。日本人の有名な魔法使いもカモメ家出身者が多かった。カモメ家の魔法使いたちは、魔法の勉強ができる本場であるイギリスの、日本人の魔法使いが集まった「フジヤマタウン」に暮らしている。

ユカリにもそんな風に、有名な魔法使いとして名を馳せる人生があったはずだった。しかしそれは夢幻のように消えた。

ユカリに魔法の力が無いということ…その悲劇が発覚したのは、杖の授与式でのことだ。
杖の授与式とは、3歳になった赤ん坊に杖を与える儀式である。魔法使いの一族はこうして新たな仲間を受け入れて祝福する。

杖の授与式の見どころは、赤ん坊に触れた白い杖が光り、色が変わる場面だ。
魔法使いによって、杖の色は違う。杖の持ち主に呼応して、杖の色が変化する。

ユカリの姉であるユラは、七色の杖になった。七色の杖など珍しい!これは100年に1人の逸材だと大きな話題になった。だから、妹のユカリもそうなるのだと思われた。

もしかすると金色や銀色に変化するかもしれない(伝説の大魔法使いにもそんな色の杖を持つ人がいた)、そうでなくとも祝福しよう!魔法使いであるだけで素晴らしいことなのだ…ユカリの両親はそう言って大いにはしゃいだ。

果たして、杖は何色にも変化しなかった。光すら発さなかった。

当たり前だろう。ユカリには魔法の力がなかったのだから。

ユカリの両親は大いに混乱し、魔法の力を専門に研究する医者にユカリを見せたが、結果は変わらなかった。どうしたって、ユカリには魔法の力がなかった。

ユラはユカリを守ろうと四六時中彼女のそばについてまわった。「魔力無し」だとユカリを罵った近所の子どもと大喧嘩をすることさえあった。

ユカリは魔法の力がなかったが、聡い子どもではあったので「自分が家族の間に軋みを生みだしている」ことを心苦しく思っていた。

そして、ユラが13歳、ユカリが9歳のとき、それは起こった…という。
ユラが悪魔を呼び出して、ユカリを消そうとしたのだ…という。

なんだかあやふやなのは、所詮噂に過ぎないからだ。実際のところ何が起こったのかはわかっていない。

両親が、二人の姿が見当たらないことに気づいて家じゅうをくまなく探した結果、二人は地下室にいた。意識不明で倒れているユラと、放心状態のユカリ。近くには地面にマジックペンで大きな魔法陣が描かれていた。

ユラは眠ったまま目を覚まさない。両親はユカリを問い詰めた。しかし、ユカリは何があったのかと聞いても「お姉ちゃんが悪魔を呼んだ」としか話さない。

さらにしつこく聞くと、ユカリは癇癪を起して手が付けられなくなる。ユラのことも心配だ。

困り果てた両親は、ひとまずユカリを日本に住む親戚に預けることにした。

つづく

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テオ

はじめまして。テオと申します。自閉症スペクトラム障害(ASD)です。主に物語とエッセイを書きます。よろしくお願いします。

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