冬告精(ふゆつげせい)【後編】

                            【前編はこちら】

 ようやく風が止まってくれたのは夜。しかも高い木々で空がちらほらとしか見えない暗い森の中だった。

「最悪だ…まさかこんな暗い森の中に着くなんて。他に妖精はいないみたいだけど、ここに住んでる妖精もいなさそう。」

女の子は仕方なく自分の力で森の中を飛び始める。もうあの強い風は吹いてこない。

「妖精が乗れる風が吹かないってことは、一応ここにも冬を届ける必要があるってことだろうけど・・・」

夜の森の中は獣の遠吠えが木霊し、黒い鳥がバサバサと大きな音を立てて飛ぶ怖い場所だ。学校でもそんな場所は避けるか木の上で朝を待つようにと習ったが、この森の木々はとにかく高くて、飛び疲れている女の子にはとても上まで行く体力は無い。

「うう…怖いよお…早く開けた場所にでて・・」

と呟いた瞬間、女の子の前に突然狼の群れが飛び出してきた。

「「ぎゃーーー!!」」

思わず叫んで身を屈む女の子だが、狼の群れは女の子には目もくれずに明後日の方向へと駆けていってしまった。

女の子が顔を上げると、少し前に人間の男の子と人間の女の子らしき姿が見える。人間の男の子は木の棒を持って荒い息をはいている。

「もう大丈夫だぞ、狼はにーちゃんが追い払ったから。」

「うう・・・ホントに?」

「ああ、だからもう少し頑張って歩こう。」

「・・・うん。」

どうやら2人は兄妹で、兄は女の子と同じ歳、妹は女の子よりもだいぶ下の歳にみえる。先ほどの狼は兄が木の棒を振って追い払ったようだ。さらに狼を見たときに妹と女の子は同時に叫んでいたらしい。小さい子と同じ動作をした恥ずかしさで顔を赤くした女の子は、妹を立たせて手を繋いで歩く兄の背後に付いていった。

「にーちゃん…こわいよう…」

「だいじょうぶだ、もう少しだからな。」

そう妹に言い聞かせて手を引く兄だが、一向に建物も明かりも見えて来ない。

「本当にこの子達の家はこの先なのかな・・・」

妖精は過度に人間と関わってはいけない、という教えを思い出す女の子。

そもそも妖精は人間には触れられないし、声も聞こえない。あくまでも妖精は冬を届けるのが仕事だ。

(でも…でもさ…ちょっとくらいは良いと思わないかな?だってあの子、狼から妹を守ったんだし。)

狼に叫び声を上げてしまった女の子は、同じ歳くらいの兄が足を震わせながら妹を立たせていた姿を思い返す。

(・・・えーい!気合いだ!ワタちゃん気合い!)

女の子は力をふり絞り高い木々のてっぺんまで飛んだ。

すると兄妹の行く先に森の出口が見え、更にその向こうに煙突から煙が出ている建物が見えた。

(あった!)

女の子は急いで兄妹の元へと飛んでいき、2人の前でくるくる飛び回る。

「もうすぐ出口が見えるよ!建物も!多分お家でしょ?だから頑張って!」

兄妹は驚いて目をぱちくりさせていた。

白いふわふわが、自分たちの周りをくるくる回って飛んでいる。

人間には妖精の姿は身に纏っている白いふわふわしか見えない。だが兄妹の父母やそのまた父母は、それをこう言って伝えていた。

雪が降る前の時期に現れて冬の訪れを知らせる…「冬告精」と…

「にーちゃん!しろいふわふわさんだ!」

「ああ…また冬が…雪が降るんだ。」

「まってー、ふわふわさん!」

妹が兄の手を放し白いふわふわを嬉しそうに追いかけ始めたので、女の子は妹に捕まらない高さを保ちながら追いかける兄の様子も見つつ、森の出口を目指した。

やっと森を抜け開けた場所に出ると、煙突から煙が出ている建物が兄妹にも鮮明に見え、そこから2人の人影が出てくる。

「おーい!」

「おまえたち、無事かい!?」

「おとーさんとおかーさんだ!」

妹は白いふわふわから両親に目を向けると、涙目になって駆け出す。

兄もその姿が見えて肩の力が抜け、ホッと安心しながらゆっくりと両親の元へ歩いていった。

「よかった。」

その光景を微笑みながら見つめる女の子。ふと見ると、兄妹の両親がきた方向から白いふわふわを纏った男の妖精が飛んできた。歳は女の子より5歳は年上に見える。

「ありがとう!あの子達を導いてくれて。僕も、お父さんもお母さんも、すごく心配していたんだ。」

「ええっと…あなたも冬の妖精だよね?白いふわふわあるし。」

「うん、僕はノネオ。あの家族の家の傍にある木で暮らしているんだ。きみは学校を卒業したばかりの新米さんだね?名前は?」

女の子はにっこり笑って答えた。

「ユキコ。ゆきむしのユキコ!」

その後、冬の妖精の女の子・ユキコは先輩妖精のノネオと共にあの兄妹と両親が暮らす家の傍の木で暮らし、そのままこの場所に定着した。

そしてまた冬が来る頃、雪が降る前の時期になると姿を表す。

冬の訪れを告げる妖精として…。

終わり

※雪虫(ゆきむし)とは、アブラムシのうち、白腺物質を分泌する腺が存在するものの通称。体長5mm前後の全身が、綿で包まれたようになる。この虫の呼び名としては、他に綿虫、雪蛍、東京地域のオオワタやシーラッコ、シロコババ、京都地域のゆきんこ、伊勢地域のオナツコジョロ、水戸地域のオユキコジョロがある他、しろばんばといった俗称もある。具体的な種としては、トドノネオオワタムシなどが代表的な存在である。

アブラムシは普通、羽のない姿で単為生殖によって多数が集まったコロニーを作る。しかし、秋になって越冬する前などに、羽を持つ成虫が生まれ、交尾して越冬のために産卵する。この時の羽を持つ成虫が、蝋物質を身にまとって飛ぶ姿が、雪を思わせる。アブラムシの飛ぶ力は弱く、風になびいて流れるので、なおさらに雪を思わせる。北海道や東北地方では、初雪の降る少し前に出現すると感じられることが多いため、冬の訪れを告げる風物詩ともなっている。熱に弱く、人間の体温でも弱る。

(引用元 雪虫ーwikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%AA%E8%99%AB)

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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