黒猫の天使

黒猫のセラヴィは、きままに散歩していました。
それもただの散歩ではありません。雲の上の散歩です。

セラヴィは背中に白い翼が生えています。とどのつまり、セラヴィは猫の天使なのです。

セラヴィはこう見えて、9度もの猫生を地上で過ごしてきました。エジプトで生きていたかと思えば、フランスで生きていたこともあるし、日本にだって暮らしていたこともあります。

セラヴィは善良な猫でした。気まぐれな性格でのんびり屋でしたが、他の生き物にも親切に接して過ごしてきたのです。

しかし人間にはずいぶんとひどい目にあわされたものです。「魔女のしもべ」や「サタンの化身」などと言われて火あぶりにされたり、塔の上から投げ落とされたりしたこともありました。


でも、セラビィは「恨むのは面倒くさい」という理由で、化け猫になって祟るということもしませんでした。(とはいっても、セラビィにひどいことをした人間は必ず悲惨な最期を迎えるので恨む必要がなかったのかもしれません)

9度目の死を迎えたとき、セラビィは大好きな人間のおばあさんの膝の上で眠っていました。眠ったまま、息を引き取ったのです。

セラビィが目を覚ましたとき、彼は天使に抱かれて雲の上にいることに気が付きました。目の前には光の塊があります。その眩しさに思わずセラビィは目をつぶり、手で顔を隠しました。

「ごめんね、眩しいかい?」その光の塊は優しい男の子の声でそう言いました。

「はい、眩しいです」

セラヴィが正直にそう答えると、その光の塊は一瞬ピカッと激しく瞬きました。次の瞬間には光は無くなり、なんと代わりに小さな男の子が現れたのです。その子の背中にも大きな白い翼があります。

「あなたも天使さまですか?」

「うん。でも神さまに近い天使だから、君には眩しく見えていたのかもしれないね。少し姿を変えてみたのだけれど、大丈夫かな」

セラヴィはその男の子をじっと見つめました。金髪のおかっぱ頭。白い肌に青い目。白いシャツに青い半ズボンをはいています。とてもきれいでかわいい子です。眩しくはないし、親しみやすい感じがしてセラヴィは気に入りました。

「はい。とてもすてきだと思います」

「良かった」

その天使の男の子はセラヴィの言葉にニコニコ微笑むと、セラヴィを抱えている天使に「セラヴィをおろしてあげて」と言いました。

「ぼくの名前がわかるんですか?」

「うん。君のことはずっと雲の上から見ていたからね」

セラヴィは、ふかふかの雲の地面に降りると、天使の男の子の足元まで歩いていきました。セラヴィが足元まで来ると、その天使の男の子はしゃがんで、セラヴィを撫でました。

「君は9回も生きたからね。もうこれからは天界で暮らしてもいいんだよ。酷い目にも遭うこともない」

「天界?」

「君は天使になるんだよ」

セラヴィはびっくりして、男の子を月のような黄色い目で見つめました。自分が天使になるなんて考えたこともなかったからです。今まで散々、人間には「悪魔」と関連付けられてきました。だから、そんな話は初耳です。

「ぼくは猫です。しかも、黒猫です。天使になんかなれないでしょう」

「何を言ってるんだい。猫だって天使になるよ。現に、猫の天使はたくさん天界にいる。しかも黒猫は不思議なパワーがあるし、天使として神さまのために力を発揮することができる。地上をより良くするために見守ることもね」

セラヴィはその言葉を聞いて、すっかり嬉しくなりました。ゴロゴロとのどを鳴らして、男の子の手に頭をスリスリこすりつけます。

「喜んでくれたみたいで良かった!ちなみにぼくの名前はヌール。よろしくね」

こういうわけで、黒猫の天使・セラヴィは生まれました。

今日も雲の上から、地上を見守る任務の真っ最中なのです。…もちろん、散歩も兼ねているのですが。

「セラヴィ、首尾はどうだい?」

「いつもと変わりませんよ、ヌール。でも最近は少々荒んでいる感じがしますね」

セラヴィが散歩を終えると、空の宮殿ではヌールがお茶を準備して待っていました。

「大丈夫、君が飲めるようにアイスティーにしてあるから」とヌールがウインクをします。

「こりゃ嬉しい!ありがとうございます」

セラヴィはヌールにお礼を言うと、二人は椅子に座ってお茶を飲み始めました。
ヌールはカップを持ち上げて飲み、セラヴィはカップに顔を突っ込んで、ぺろぺろとお茶をなめています。

「今日は神さまは機嫌が悪くて、大変だったよ。仕事もしたくないっていうんだ」

「息抜きも必要かもしれませんよ。このところ、地上も少しばかり荒れている感じがしますから。神さまも地上の生き物たちもリラックスは必要ですよ」

二人はそうやって話し込み、何時間もそこで過ごしました。

「あ、もうこんな時間だ!帰らないと。セラヴィ、良かったら夕食を一緒に食べない?おいしい果物が手に入ったんだ」

「いいですね!ぜひ、よろしくお願いします」

こうして、セラヴィの一日は終わります。明日もまた、地上の様子を見るためにお散歩をすることでしょう。

あなたも空を見上げてみてください。大きな雲の塊を見つけたら、そこにはセラヴィがいて私たちのことを見守っているかもしれません。

終わり

  • 53
  • 25
  • 5

テオ

はじめまして。テオと申します。自閉症スペクトラム障害(ASD)です。主に物語とエッセイを書きます。よろしくお願いします。

作者のページを見る

寄付について

「novalue」は、‟一人ひとりが自分らしく働ける社会”の実現を目指す、
就労継続支援B型事業所manabyCREATORSが運営するWebメディアです。

当メディアの運営は、活動に賛同してくださる寄付者様の協賛によって成り立っており、
広告記事の掲載先をお探しの企業様や寄付者様を随時、募集しております。

寄付についてのご案内