それはもうだいぶ前の話。その時期、不思議図書館の周囲は冬という気候に入っていた。この図書館は本の管理の為、司書が気温や湿度等を調整できる。しかし図書館以外の外の世界を知らない俺は、本で無駄に知識があり、それを体験してみたかった。
だから図書館の本を置いていない1部屋だけを冬にしてみたら…
「ぎゃああ〜!!なにこれさっっっぶ!!頭おかしい!!」
みるに滅茶苦茶に罵倒された。
「ええ…だって俺は冬を体験していないからさ、どんなものかと思ったのに。」
「バカでしょ!寒いでしょ!凍えるでしょう!!」
「うん、寒い。これが冬かー。」
「理解したなら早く戻して!!」
「え?…雪も見たいし、雪遊びもしたいよ。」
「悪魔じゃなくて犬か、犬だったのかアンタは。」
そう言ったみるは、どこかに走って行き何かを持って戻り、小さなやぐらに布団をかけ、天板(テーブル?)をその上に乗せる。完成したら、みるは電気を通して首まですっぽり入った。
「おっけー!こたつ完成!!」
「ああ、それが日本関係の話に出てくる「こたつ」なのか。どれどれ…」
俺もこたつを体験してみようとしたら、中からみるの足が思いっきり俺を蹴ってくる。
「冬の寒さを体験したいむつぎを入れるスペースなんか無い!!」
「…こたつも冬の醍醐味って書いてあったのに。」
「残念だったわね!こたつは夏でもテーブル代わりになるから1年中使えるの!」
「そうそう、こたつはネコのフィールドだから。」
ぴょこっとこたつの中から顔を出してきたのは、みるではない。
ぴこぴこと時々動く頭のネコ耳が印象的な、人の姿の女の子。
「ありゃ、サラミ。いつの間に。」
彼女の名前は「サラミ」。散歩好きな元ネコ(メス)。何をどうしたのか知らないが、人の姿を得て、自由に様々な世界を歩くことができる。放浪者と言うべきか、ふらっと姿を見せては、ふらっといなくなるのだ。ファンタジー小説でよくある獣人でも、日本の話にある化け猫でもないという。どこで知り合ったかは聞いていないが、みるの友達らしい。
「そういうサラミがこたつを知ったのも最近じゃない。」
「アタシは警戒心が強いからね。初めて見る変なものには中々近寄らないよ。」
「今は?」
「こたつ無しの冬とか頭おかしい。昔のアタシをパンチしたい。」
「だよねー。」「ねー。」
首をコテンとさせる2人。結局俺はこたつに入る権利を貰えなかった。
だから冬を解除して、夏にしてみたら…
「やっぱり犬なんてカワイイ生き物じゃない!むつぎの悪魔!!」
「こんなあっついところに居られるか!!」
「ひとりで逃げるな、サラミ!」
2人ともギャアギャア騒いで、逃げるように部屋を出ていった。
…その後、俺はまた部屋を冬に戻して雪だるまとかまくらを作り、かまくらの中にみるが残していったこたつを移動させて入る。
「うーん…これが冬。雪。そしてこたつか…いいね。」
こうして俺はじっくりと冬を満喫できた。やはり本で読むより体感するとまた違う感動がある。その点だけ考えれば、自由に外に出られる、みるやサラミ達がうらやましい。
「でも俺は俺で、好きで不思議図書館の司書をしているからなー。」
外や実物が気にならない訳ではない。でもこの図書館が好きだから。
俺はそう思い、こたつに入ったまま未読の本の表紙を開いて読み始めた。
終わる。or クリップで留める。