話の結末はもう決めてあるんだ…きっと喜んでもらえると思う。
浮足立った彼の言葉はこれからの期待と願望で華やかな色に満ちていた。
いつもの彼お気に入りのプライベートラウンジに招かれた私は用件も知らされずにここに呼び出されている。
テーブルに置かれたふたつのロンググラスに注がれたアイスティーはこのラウンジの空気感と相まって非日常を演出していた。
最近は業務内容がトップとしての外部やスポンサーとの交渉や契約が主となった彼は少し世間話をしてから本題を切り出す。
皆が受け入れてくれるだろうコミュニティの日常。
これから訪れるだろう栄光の道のり。
そして今まで苦労してきた皆が陽の光の下で公平に評価されること。
それら全てを成り立たせる土台が整ったんだと彼は心底嬉しそうに語っている姿からはこれまでのような陰鬱な絶望の影が見当たらなかった。
現状現場の統括を任されている私は意気揚々とバラ色の未来予定を並べて悦に浸る彼を悩ましく見ている。
現場でのカリスマ運用前提に偏った業務ライン。
苛烈な業務量の増加が止まらない受注の受付体制。
更には外部の人間を管理職や事務方に入れることにより進んでいる実務人員の歯車化プランが承認された事。
内々に話を進めていた彼の右腕はどれほどの旨味を持って関係者との話をまとめたのか。
どのような報告内容でそれが共有されたのか信用しがたい現状である。
そもそも彼は現場の実態を知らされていないのか…?コミュニティの創設メンバーと作り上げた日々はもう彼の中の大事な日常ではなくなってしまったのか。
私は自分の中に沸き上がり積み重なり続ける猜疑心の重さに耐えきれずに彼に問いただす。
これからの未来に私や現場の皆の姿はあるのか?と。
和やかな空気が漂っていた筈のこのプライベートラウンジの空気が明らかに重くなった。
それでも彼は不自然な程柔らかな笑顔で応じる。
それは今まで皆の未来と平穏な日常を背負ってきた頼れるリーダーとしての見慣れた顔だ。
そうだ…きっと私の気のせいだろう。
私は何とも言えない違和感を飲み込んでそれ以上の追求を止めることにした。
悲劇的脚本の承認がすでに済んでいることの可能性を考えることもないままに。
「そうか…そのときには既に異能者を様々な場で暴力装置として運用する根回しが済んでいたのね。それで最近はトラブル対処事案が減ってきていたというわけか。」
美由紀は提出された報告書にさらっと目を通すと事の顛末を整理することにする。
異能者派遣のパイオニアであるあのコミュニティは異能者運用ルールを決めていた実質的な管理機関だった。
そして同時に異能者ネットワークの元締め的な存在でもあった。
その閉じた利権構造は富の独占の源泉として業界内の慢性的問題だったのだが、外部からの干渉を受け付けない中立緩衝地帯として黙認されていたのだ。
その公用地としての機能が異能者当人たちや関係者たちの権利保障を担保していたとも言える。
今回その「聖域」に外部資本が流入したという今回の事案は異能者や関係者以外の都合がこれから押し込まれるということに他ならない。
今後その外部勢力がさらに発言力や支配体制が強くなっていくことは想像に難くない。
美由紀は出来うる限りの最悪の事態を想定の下で対処プランを練り上げることにする。
いつしか忘れていた筈の灼熱の日々の興奮が美由紀の脳裏に迸っていた。
