俺は光野が落ちていった紙切れみたいな物を拾って拝見した。
そこには衝撃的な事が書かれていた。
「あ、それは!?」
○○キャバクラ領収書。飲食代
10万円!?
そのキャバクラにぼったくられたのか!?
宛先は古川・・・、てことは俺が支払うってことか!
光野・・・、お前!
「それは!?返してください!!」
「ふうん・・・、俺が10万円払うと・・・。」
俺が言うのもなんだけど光野も相当クズだな・・・。
「別にしゅ・・・、週刊誌に売った金で借金を返済しようなんておみょ・・・思ってませんよ!!」
噛むほど焦ってるし。どんだけ人として腐ってんだよ・・・。
「光野、俺の弱みを握ってるんだよな。でも俺は光野の弱みを握っている。賄賂の話を週刊誌に売りたいなら売ればいい。でもぼったくられた10万円を人に押し付けた以上週刊誌にはその件も含めて話す。高額な飲み代を人に押し付けたんだ。その覚悟はしておけ。」
「やめてください!!返してください!!」
いい新人彫刻士を拾ったと思ったら、ここまでクズだったとは。
「大体、何で彫刻した作品を賄賂で投稿したんですか・・・。作品に失礼じゃないですか!?」
その言葉・・・「キャバクラでぼったくられた挙句に、俺に飲み代の10万円を支払わせようとした奴だけには言われたくない!」と返したい所だが、そんなことを話したら火に油を注ぐことになってしまう。言い訳になるが冷静になってなぜ賄賂を渡したかについて理由を話そう。
「お前に俺の後を継いで欲しいからだよ。」
「えっ・・・?」
「離婚した家族の事も大事だが・・・、前にお前が俺の後を継ぎたいと俺に話してたからな。独立資金を貯めていくついでに有名彫刻士の名声を少しでも広げたいと努力したんだ。でも努力だけじゃ届かなくなって、名声を上げる為に賄賂で賞を取ってしまった・・・。」
「そんな・・・俺の為に・・・。」
光野は感謝と後悔で顔を滲ませながら涙ぐんでいた。・・・そうだよな、俺も独立して師匠から「いい彫刻士になれよ。」と言われて涙ぐんだ。あの時は俺も若かったなあ。
「・・・すいません親方。俺の為に・・・、俺の為に賄賂で賞を取ってもらって・・・。賄賂も駄目ですけど、今更自分がキャバクラでぼったくられた料金を親方に押し付けたのが恥ずかしいです・・・。」
「いいんだ。不正を働いたんだ。・・・自業自得だ。・・・光野が飲んで支払えなかった額は俺が払っとく。ただ少しずつでいい。キャバクラの飲み代はお前が稼ぐ形で返してくれ。」
「でも、ぼったくられた10万円は弁護士にでも相談すれば・・・。」
「さすがに俺も不正がある上に雇えるか。その分少しでも売上を稼がないとな。」
光野は深々と頭を下げた。ここから先は少しでも態度を改めてくれればいいなと思ったその時・・・。
プルルルル!!
机に置いてある固定電話がなった。
「はい、もしもし。・・・えっ!?そんな!!」
電話の相手は木彫り彫刻コンテスト協会の方だった。どうやら賄賂を渡した相手が自白して俺の受賞は白紙に戻すと同時に処罰を受けることになった。警察には通報せず木彫り彫刻士の資格は剥奪だけにとどまるらしい。
恐らく俺は光野の借金を売り上げで稼げないだろう・・・。
「ごめん光野・・・。賄賂していた事がばれてしまった・・・。もしかしたらここで働けない・・・。」
「古川親方・・・!!そんな・・・俺の稼ぎ口は・・・。」
「何とか俺の人脈で頼むよ。」
ピッピッピッ!プルルルル!!
「俺だ!・・・実は頼みたいことが・・・!!」
俺のツテで6~8人はいるが、どいつも引退や雇用人数が満杯で無理だった。
「光野・・悪い。みんなに頼むだけ頼んだが駄目だった・・・。」
「そんな・・・親方!!」
二人は目の前が真っ暗になっていった。