不思議図書館「月食ダンジョン攻略本」

ここは、あらゆる本が置いてある不思議図書館。本の中に入り、宿る想いを観る力を持つ少女「みる」は今日も本を手にする。

ー今日の本は、どんな本でしょうか?ー

今日は特別に、みるだけではなく、友達のイミアとサラミも一緒に本の中に入っている。

タイトルは「月食ダンジョンの歩き方」という、ダンジョンの攻略本。月食ダンジョンとは、ダンジョンの広さ「スケール」が決まっており、一番難易度の高い4のスケールに特別な時間に入ってクリアすると、望みが叶うという。それを「望(のぞみ)の時」と呼ぶらしい。

何故こんな本に入っているのかと言うと、ただの暇つぶしとサラミの気まぐれだ。

「いやいや、この本にも何か[想い]があるんでしょう!?みる、そう言ってたじゃない。」

「そうだけど、結局コレにしたのはサラミだし。」

「なんか面白そうだった!理由が他に必要?」

鼻歌混じりに歩く、ネコ耳少女のサラミは「格闘家」。それに続く、みるは「魔法使い」。呆れながらも2人から離れまいとする、運び屋の少女イミアは「音楽家」。

それぞれ最初に選択できる「職業」を選んでダンジョンを進んでいく。所謂ゲームやファンタジーのダンジョンと、仕組みは大差ない。ただし、これはダンジョンの攻略本の中なので、3人には[ここには○○○と×××というモンスターが出現します。][ここには落とし穴があります。]などの出現モンスターや罠の種類などが表示されるようになっている。

「何それ楽勝だし、チートじゃん?やろうよ。」最初にサラミがそう言ったし、2人もそう思っていた。知識がある者はみんなそう思うだろう。

…しかし。

「おりゃあ!全部まとめてかかってこいよ!必殺の拳(ねこパンチ)をお見舞いしてやる!」

「サラミ、挑発やめて!イミアがやばいから!」

「た、体力がもう…」

「はぁ!?まて、イミアが倒れたらみるの盾役が…ごふっ」

「「サラミー!!」」

いくら攻略の知識があろうと、どこでどうなるか知っていようと、それはただの知識で情報でしかない。…それを持ちつつ、行動する…プレイするのは「自分達」なのだ。プレイミスは攻略情報があっても防げないし、攻略法が「できる」かどうかも自分達次第。例えば…

「ここは、このボタンを凄い早さで押し続けるといいんだって。」

「簡単かんたん!アタシがやるよ。…うにゃにゃにゃにゃにゃ!!」

「…開かないけど。サラミ?」

「だ、だったらみるがやってみなよっ!」

「ふっふっふ、私の連打力をなめないでよ?…うりゃりゃりゃ…あ、ダメだ体力が…」

「みるー!?」

「イミア…希望は貴女だけだよ…ガクッ。」

「ええー…えいえいえいえいえいえい!」

「「なんか遅そうな効果音なのに…早ーっ!?」」

「え?…あ!クリアできたよ、やったねっ!」

このように最初からできる者とできない者がいたり、得意不得意な分野があったり、時間をかけてやっとできるようになったり。そうして数時間後。

「イミア、サラミ!」

「まかせて!」「うん!」

みるが魔法で2人の力を上げて、イミアがモンスターを引き付け、そしてサラミが重い一撃で倒す。魔法が有利なモンスターは、サラミが盾役になり、イミアが補助、みるが主力に切り替えて対応していった。罠も道を開く仕掛けも、みんなで協力してクリアしていく。

『そう!クリアした喜び、できた喜び、達成感。それは攻略本があろうが無かろうが、関係ないわ。』

「…みる、今何か言った?」

「ううん、私は別に。」

「イミアー、みるー、もう少しだぞー!」

「ごめんごめん。」「今行くよ、サラミ。」

3人は本に入った時とは比べ物にならない程成長し、ついに暇つぶしと気まぐれで挑戦した「望の時」の最後の部屋の前へと辿り着いた。

「「「せーのっ!ゴール!!」」

手を繋いで、同時に中に足を踏み入れる3人。攻略情報があるとはいえ、難易度が高いダンジョンを3人は初挑戦でクリアした。

『クリアおめでとう、みる、イミア、サラミ。』

パチパチと拍手をしてくれたのは、先程の声の主。見た目は女神様のような美しい女性。

『私は、月の女神と呼ばれている者。そして…みる、貴女が感じてくれた想いの主です。』

「想いの主…。」

『私はダンジョンの管理者ですが、同時に思い出して欲しかった。ダンジョンに初めて挑戦する時のドキドキ、最初のときめき、ワクワクする高揚感。誰にだってあったもの。それは攻略本を持っていてもあったでしょう。だって、知識や情報があっても…初めからなのは皆同じ。誰だって始まりは、未熟なチャレンジャー(挑戦者)なのだから!』

確かに月の女神の言う通り、3人は嫌々ここに来た訳ではない。ドキドキして、ワクワクして、クリア出来た時は嬉しかった。

『攻略本でも、ダンジョンでも、私は目的を達成した時の挑戦者の顔が好きです。ドキドキワクワクしている姿が好きです。「こんなの無理ゲーじゃん」と文句を言いながらもクリアしようとする者が好きです。…ダンジョンを作った者の意図は知りませんが。』

ちなみに、無理ゲーとはクリアが無理なゲームの略である。

『…ごめんなさい、目的から外れましたね。さあ、貴方達の望みを叶えましょうか。』

「「「えっ?」」」

『えっ??』

「いや、アタシ達ただの気まぐれで入ったし…」

「そう、暇つぶしで入ったから…」

「望みとか、ありません。ごめんなさい。」

『えーっ!?』

「「じゃあ、そういうことで!」」

「すみませんでした!さようなら!」

『・・・・私のダンジョンでの活躍・・役割が・・ぐすん。』

3人が出た後、月の女神はしばらくしょんぼりしており、ダンジョンのモンスター達から心配されたとかされないとか。

終わる。or 栞を挟む。

※月食とは、望(満月)の時に起こる。日食と違い、月が見える場所であれば地球上のどこからでも同時に観測・観察できる。月食時の明るさを分類する為に、フランスの天文学者「アンドレ・ダンジョン」が20世紀初頃、独自に尺度を決めた。一般的に「ダンジョン・スケール」とも呼ばれ、0〜4の尺度がある。(Wikipediaより抜粋)

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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