小さな町の外れにある、こじんまりとした建物。そこは届けたいものをどこにでも運んでくれる「運び屋さん」の事業所。ここで働く少女・イミアは今日も行く。
届けたいモノを想いと共に、届ける為に。
「イミア、こいつが今回の依頼のモノだ。」
事務所のイミア以外の唯一の職員、中年男性の所長がテーブルに置いたのは、どこにでもありそうなランタン。そのランタンには確かに火が灯っていた。
「このランタンですか?」
「いや、正確にはランタンの中の「火」だ。」
「火・・・?」
「ああ、だから決して火を消すなよ。」
「わかりました。」
イミアはランタンと届け先の地図を所長から受け取り、事務所を出発する。
淡々と歩く中、たまにランタンを掲げ火を確認するイミア。一応火は消える気配が無いが、それほど大きく燃えている訳でもない。
「そういえば、みるの話だと…えっと…聖火ランナーだっけ。火を繋ぐイベントが4年に1回あるって聞いたけど、それと似ているのかな?」
運ぶモノの意味を必ず聞く訳ではないイミアは、火の意味を考えながら歩いていく。
休憩をしつつ歩いて行くと、地図に書かれた届け先らしき建物が見えてきた。建物は広々とした少し古風なもので、余程の金持ちがいるのだろうとイミアは思う。
「こんにちはー!運び屋でーす!」
呼び鈴らしいものが見つからなかったので、イミア自慢の大声で言うと、意外にも出て来たのはイミアより少し年下な少年だった。
「あっ!運び屋さんですか?ありがとうございます!」
少年は丁寧にお辞儀をして、イミアから火のついたランタンを手渡されて微笑む。
「良かった…本当に。流石は運び屋さんですね、消えずにここまで持って来てくれるなんて。」
「あの…良ければでいいんですが、その火の意味を教えてもらえますか?」
「ああ…ごめんなさい、気になりましたよね。…こちらへどうぞ。」
少年はランタンを持ってイミアを建物の中へと案内した。
建物の中から更に奥へ進むと、前からは見えなかった裏庭に沢山の火が灯っているのが目に入ってくる。
「これは…」
「ここに収めれば火は余程の事が無い限り、消えません。」
少年が一番奥の台にランタンの火を移すと、火は先程より大きく燃え始めた。
「…ここの火は、みんなの灯り。灯火なんです。運んでもらった火はどちらかというと焔に近いですが。」
「みんなの灯り…灯火…?」
「はい。みんな燃えるような時を過ごし、明るい未来を望んだ。この火はその命があった証。確かにあった、激しく優しい輝きなんです。」
その言葉にイミアはつい黙ってしまう。ここにある沢山の火、そして一番奥で大きく燃え盛る火は、もともと生きていた誰かの生きていた証、そして…消えた証なのだと悟ってしまったから。
「あの…すみません、私…。」
「ああ、気にしないで下さい。……僕達にも、この火は灯りです。未来を差す灯り、どんなに小さくとも燃え続ける光、進む指標です。だから貴女も、そんな顔をしないで下さい。むしろ誇って下さい、あの火は…僕達にとって本当に大切な人の思いを持った火ですから。それを届けてくださって…本当に、ありがとうございます。」
少年はイミアにそう言って、優しく微笑んだ。その笑みには、あの灯火と同じ暖かさがあった。
…帰り道、白い道を歩くイミアの前に夕暮れに輝く一番星が光る。
いつの間にか、イミアの頬には涙が伝っていた。
「確かに…暖かかったよ…明るかったよ…。」
イミアは強く輝き続ける灯火を思い出して、泣きながら道を歩いて行った。
終わり。