それは月がきれいな夏の夜でした。
月の妖精・ユエは一人で人間界に遊びに来ていました。もともとはファンタジーランドに住んでいるユエですが、今夜は悲しいことがあったので気晴らしに来たのでした。
「あーあ。本当につまらないわ。人間だって、みんな家の中に引っ込んでいるし」
ユエは空の上をふわりふわりと浮かびながら、下の家々を見下ろしていると、とある一軒家が目に入りました。それは大きな洋館で、広い庭が備えられています。庭の中央部には大きな池がありました。水面にはまん丸で優しい黄色のお月さまが映っています。
「まあ、すてき。池に浮かんだお月さまなんてロマンティック」
ユエはそう呟いて、ゆっくりゆっくり下降していき、池の上でピタリと止まりました。
「さあ、ダンスを踊りましょう」
ユエが池の上で踊りを踊ると、草も木も花も、虫も、鳥も、池の鯉たちも歌を歌い始めました。
月のお嬢さん
月のお嬢さん
今宵のお月さまは明るいよ
今宵のお月さまはやさしいよ
ふわりふわりと踊っておくれ
くるりくるりとまわっておくれ
歌声に合わせて、ふわりとユエが踊ると歓声が上がりました。風も優しく木の葉の上で休んでいるようです。
穏やかな、夜でした。
気分が良くなったユエが踊っていると、突然パキリと小さな音がしました。小枝の折れる音です。一体誰のしわざでしょうか。
ユエは踊るのをやめて、音の方向をじっと見つめました。
草も木も花も、虫も、鳥も、池の鯉たちもじっと息をひそめました。
しばらくすると、木の陰から男の子が出てきました。黒い目に焼けた肌の男の子です。人間の子どもでした。
「あなたは誰なの?」
「君は誰なんだい?」
ユエと男の子は同じタイミングで互いに問いかけました。
これが、ユエと法被芳郎(はっぴよしろう)の初めての出会いでした。
続く
