不思議図書館「しゃべる花とボク」

ここは、あらゆる本が置いてある不思議図書館。本の中に入り、宿る想いを観る力を持つ少女「みる」は今日も本を手にする。

ー今日の本は、どんな本でしょうか?ー

・・・ここは病院。そこに入院している少年・トーマ。トーマはずっと病院生活で、長い入院でどこにもいけずに性格がひねくれ、毎日荒れていた。何もない、つまらない…と。

そんな時、トーマをずっと見守っていた祖母が「花のおもちゃ」を持って来た。

ただのおもちゃでは無いよ!と得意げになっている祖母だが、トーマにはどう見ても、ただの植木鉢に刺さった花に顔が付いているおもちゃにしか見えない。だが、祖母がスイッチを入れる。すると…

『こ、こんにちは、ボクは「キョータロー」。よろしくね…?』

「しゃべった…のは普通だけど、なんかキョドってんな??」

『ご、ごめんなさい、緊張しちゃって…』

「あはは!すげーな!!花のおもちゃなのに緊張するなんて!」

「こら、トーマ!キョータロー君だって言っただろう!?」

「ごめんごめん、ばーちゃん。じゃあ「キョー」だな!よろしくな、キョー!」

『よろしく、トーマ君。』

「せっかくだから「トーマ」って呼んでくれよ。」

『…わかった、トーマ。』

それからのトーマの病院生活は劇的に変わった。ヒマがあればキョーと会話し、トーマの知らない話をキョーは沢山してくれる。

「キョーはすげーな、あれか?あんどろいどとか、ぐぐるってヤツ?」

『違うよ。確かにネットで調べたりしてるけれど、ほとんど本で読んだんだ。』

「本読んでんのか!?すっげー、字を読んでるとすぐ眠くなるから羨ましいな。」

『こうして消灯時間を過ぎても眠くならないのにね?』

「う、うるせーな。キョーも起きてるだろ!」

『ボクは元々本を読んで、夜更かしには慣れていたから。』

「あっ、やば。ヤキン(夜勤)の人が来るぞ!おやすみっ、キョー!」

『そんなに大声で言ったらバレちゃうよ。…おやすみ、トーマ。』

たわいもない話をしたり、トーマの知らない世界を教えてくれるキョー。いつの間にか、トーマとキョーは無くてはならない存在となっていった。

…2年の月日が経った頃、トーマは家に帰れる事になったが、もうキョーと話せなくなるのではないか、と不安に思って落ち着かない様子。そんなトーマにキョーは言った。

『ボクはずっと一緒だよ、トーマ。だから今度はトーマが教えてくれる?外の景色とか、匂いとか、ホントに居るか、沢山。』

「キョー…ありがとうな、よし!教えてやるよ!いっぱい外の話を聞かせるから!」

トーマは花のおもちゃ…キョーを家に持ち帰り、いつもと変わらず、だが今度はトーマの方が積極的に話した。風の匂い、外の景色、どんな生物がいるか…数え切れないほど。

…更に3年の月日が経ち、かつてトーマが出た病院で、似たような花のおもちゃを抱えた青年が退院していく。看護師さん達から花束を貰った青年が、ペコリと病院のみんなにおじぎをし、車に乗り込んだ。横にしっかりと花のおもちゃを固定して。

着いた場所は自宅…ではない。だが、場所も外観も知っている。忘れるわけがない。

家人に招かれた青年は、中に上がり真っすぐに部屋に向かって行き、ノックした。

「どうぞ。」

「失礼します。」

中には少しシワが入った女性がいて、奥には仏壇がある。

「やっと会えたね、トーマ。」

青年は仏壇に線香をたてて拝むと、添えられている写真と動かない花のおもちゃを撫でて言う。

「ありがとうね、キョータロー。退院してすぐなのに真っ先に来てくれて。」

「いえ、おば…お姉さんのおかげです。」

「もうおばさんでいいよ、あれから3年も経ったんだし。」

微笑む女性に、青年も笑った。横には青年が持ってきた花のおもちゃが置いてある。

青年の名前は、キョータロー。トーマと同じ病院に入院していた。

キョータローもトーマと同じように、長い病院生活に疲れ果て、本しか読まずコミュニケーションも少ない子になっていたのだ。そんなトーマとキョータローを話させてみようと、トーマの祖母は2人に花の形をしたおもちゃを与え、2人が同じ境遇の男の子ではなく「花のおもちゃ」として会話するようにした。

キョータローだけは、トーマの事をトーマの祖母から聞いていたので、あまり自身の事に触れずに会話していたのだ。

…あの日、トーマは家に帰ると言っていたが、それは退院ではない。トーマの命が残り少なかったから家に帰されたのだ。最期にトーマがしたいことを沢山してもらうために。

キョータローも、もちろんそれを知っていた。でも、最期までトーマの花のおもちゃとしての「キョー」でいたのだ。

トーマが亡くなったのは2年前。あと少しだったのに、と悔やんだキョータローに「トーマが家に帰って2年も保ったのは奇跡に近いと医者に言われた。」とトーマの家族も祖母も笑ってお礼を言ってくれた。その後キョータローはトーマの命日には必ず、花のおもちゃと「杏(あんず)の花」を持ってトーマの家を訪れる。どんなに忙しく、天候が悪くとも、必ず。

…それから数年後、キョータローは医者として自分のクリニックを持った。優しい小児科の先生で、白衣には「杏太郎(きょうたろう)」と名札が付いている。その机にはいつも、花のおもちゃが飾ってあるのだ・・・

「…って内容の本よ。」

「へぇ、そうなのか。それでコレを届けろって?」

「うん。」

みるはむつぎから一冊の本を受け取ると、パタパタと図書館を出て行く。

「相変わらずのお節介さんだね、みるちゃんは。並行世界まで行っちゃって…」

みるが向かった先…それはとある町のとあるクリニック。小児科医で、昔はやんちゃだったらしい先生がいる。クリニックの隣には、美しい「藤棚(ふじだな)」が咲き誇り…

藤棚が見える位置にある机には、花のおもちゃが飾ってあった。

白衣には「藤真(とうま)」と名札が付いている。

「藤の花言葉は 『決して離れない』、杏の花言葉は 『不屈の精神』っていうらしいね。うんうん、2人にぴったりだわ。」

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↓※補足

(※みるが行ける並行世界とは、こういう「もしかしたらあった世界(この話の場合は本の内容とは逆に、キョータローが亡くなりトーマが医者になる)」のことです。)

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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