1855年、各国では革命が発生し、各地で紛争などが発生していた。
それを悲しんでいたのは人類だけでなく、天界もだった。
「はー…なんで人間はこうも争いばっかするんだろ…」
見習い天使「イザベル」は天界にある宮殿内で下界を見ながら言った。
「人には様々な意見を持っている者がいるからです」
イザベルの姿を背後に見ていた彼女の先輩で大天使の「フォルトゥーナ」は彼女に優しい声でそう言う。
「それは私達だってそうじゃん!けど、なんで争いまでなるのかが全然分からないの!」
イザベルは疑問に思っていた事をフォルトゥーナへと投げかける。
天使間でも言い争いはあるが、すぐに解決するし相手を殺めたりなどはしない。なのでイザベルからしたら人間のしている行動は疑問でしかなかった。
「そうですね…。なら、いい機会ですし下界へ降りてみて実際に体験してみてはどうですか?」
フォルトゥーナは彼女にそう言った。
天使にはランクがありイザベルは一番下の「見習い」という部類にいる。
見習いから昇格するには一度下界に降り、人間に扮しながら相手に神の信仰させる、または人間に救いを与える事が決まっている。
なので、下界に降りた事が一度もなく、信仰や救いを与えた事がなかった彼女には丁度良い機会だった。
「うん!行ってみたい!」
イザベルは喜びながら返答した。
彼女は一度下界へ降りてみたかったからだ。
「それでは、早速行ってみましょうか。イザベル、絶対人に自分が天使だと知られてはいけませんよ?」
「…うん!分かった!行ってくる!」
フォルトゥーナの話をざっくりと聞いたイザベルは下界へと降り立った。
彼女はなぜフォルトゥーナの話を聞いて返答が少し遅かったというと、彼女はなぜ「天使だと知られてはいけないのか?」が分かっていなかったのだ。
先輩たちが皆口そろえて言うが、明確な理由は言わない。
噂ではあるが、人間と禁断の恋をし、その後結婚した天使が相手に殺されたから…という理由からそうなったのでは?となっている。
本当かどうかは分からないが、イザベルは後が面倒な事になるのは避けたかった為、仕方なくフォルトゥーナの話を聞く事にした。
イザベルは転送といった形で下界へと降り立ち、辺りを見渡した。
今のところ、周りに人がいなかったためそのままの姿でいても問題なかったが、誰かに見られてはまずいと思い姿を消す魔法を発動させる。
下界は荒廃しており、サンダルのイザベルが歩くとなるとかなり危険だ。
彼女は歩く事を諦め、天使の翼を広げ、空を飛んだ。
「ふーん…何にもないやー…」
数分間飛び続けるが、景色は何も変わらず、荒廃した世界にいつ亡くなったか分からない死体が点々と転がっている。
おそらく革命などの犠牲者だろう。
イザベルは全員天国へと旅立っている事を願った。
「はー…疲れた…」
飛びつかれたイザベルは羽を休めるために地面に降り立つ。
下界は天界と全く違い、空気が悪く飛びづらい。
鼻が敏感なイザベルにとっては、飛んでると嫌なほど鼻に入ってくる革命後の焼け焦げた臭いと死体の腐敗した臭いがとても苦痛だった。
「…くさい…」
イザベルは思わず鼻と口を手で覆う。
辺りに臭いの少ない場所がないか求め始めたイザベルは、仕方なく地上を歩き始めた。
どんどん歩き進めるが、風にのって嫌な臭いが漂ってくる。
じわじわとイザベルの体力を消耗していく。
人間界に憧れを持っていたイザベルは少しがっかりした。
「あれって…」
体力の限界が近づいてきたイザベルは、木に寄りかかると、森の中に小さな小屋を見つけた。
あそこに行けば多少はましになるだろうと思ったイザベルは、最後の体力をふり絞って小屋へ向かおうと再び歩き始めた。
…絶対人に自分が天使だと知られてはいけませんよ?
「…あっ」
イザベルはフォルトゥーナのあの言葉を思い出した。
今の天使の姿では自分が天使だと見せびらかせているようなものだ。
これではフォルトゥーナの言っていた事と真逆の事をしているようなものだ。
「めんどくさいけど…仕方ない…」
イザベルは羽を消し、服装を時代に合わせた。
だが、これでは変に綺麗すぎてしまう。
なのでイザベルは思い切ってわざと転んだ。
服を泥だらけにして違和感を無くすためだ。
「…よし!」
イザベルは立ち上がると自身の姿を見て喜んだ。
それは、予想してた以上に汚れたからだ。
これならバレないと安心したイザベルは小屋の中へと入り込んだ。
「…誰だお前?」
小屋の中には、イザベルと同じぐらいの歳の少年が彼女の事を睨みつけていた。