彼女、入世 ななの にはつかの間の休息を取る為の特別な場所がありました。
そこは他の人から見たらつまらない、何も無い原っぱでした。
何故かそこに行くと、ななの の心が浄化され誰かを探しに来たような不思議な気持ちになり、今日も誰かが自分を呼んでいる気がしてやってきました。
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「気のせいかしら?でも、確かに誰かが私を呼んでいたわ。」
その時、カバンにつけていた鈴が鳴るのが聞こえました。
チリチリーン♪
その鈴の音はまるで、運命の扉が開いたかのようにウインドチャイムの音に似た音色です。
その瞬間、左手のブレスレットの紐が切れ、飛び散った天然石をななのは眺めていました。
ななのは母親から、このブレスレットの紐が切れた時、運命の相手と出会うのだと聞いていたからでした。
「紐が切れた・・・。」
ななの は我に帰り、飛び散った天然石を慌てて拾い集めていた時でした。
「お手伝いしましょうか?」
不意に声がしました。
「あ・・・はい。」
「僕も天然石のブレスレットの紐が切れたばかりで、探すの大変だったから・・・。」
その男性は言いました。
「ありがとうございます。とても大事にしているブレスレットなので、助かりました。」
「いいえ、全部、拾えましたか?」
「はい。」
「それなら良かった。」
そう言って男性は名前も名乗らず去って行きました。
「おかあさん、運命の相手ってあの人のこと?」
ななの は心に問いかけました。
「本当に運命の相手なら、また、再会するはず・・・。」
そう言って、ななの はまた、いつもの生活に戻って行きました。
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ブレスレットの修理をして、そんな事を忘れていたころ、2人は再び出会う事になりました。
それは ななの が平日、カフェオーナーの叔母の手伝いをしていた時でした。
「ブレンド1つ。」
「はい。」
「あれ?」
「あっ!あの時の・・・。」
「ブレスレットは治りましたか?」
「はい、お陰さまで・・・。」
「では・・・。」
それだけ言葉を交わしただけでした。
ななの は休憩中、アルバイトの先輩に聞かれました。
「あの人、イケメンだよね?2人、お知り合い?」
「はい、この間、公園で・・・。」
それを聞いていたオーナーの叔母が
「あの人、ここの近所の美大の助教授でカフェの絵の中に海の絵があるじゃない?あの絵の製作者なのよ。」
「へー。」
「そうなんですか?あの絵、素敵ですよね?」
「そうでしょ、今度、個展があるみたいだからいってみたら?」
オーナーは1枚のチケットを ななの に渡しました。
「え!いいんですか?うれしい。」
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週末、個展に行ける事に事になった ななの は彼にもう一度会えるのではないかと少し期待をしていました。
個展会場に着いた ななの はその考えが甘かったを知ることとなりました。
「あのー先生はいらっしゃいますでしょうか?」
「アポイントはお取りになってますでしょうか?」
「いえ、取ってはいないのですが。」
「そうなりますと、申し訳ありませんが、先生とお会いする事はできません。」
「あっ、そうですよね。すいませんでした。」
ななの は一人で作品を鑑賞する事になりました。
会場に入ると ななの は作品のどれもに 懐かしさを感じ戻りたい気持ちがこみ上げて来ました。
そして、そのいつか見た風景たちは一人で見ていたのでは無い事を悟りました。
とくに、カフェに飾られていた絵の原画を見た時、ななの の記憶が1000年を超えてフラッシュバックしました。
「やっぱり、あの人だった・・・。」
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ななの はあの公園に行ってみようと思いました。
「やっぱり、誰かが呼んでいる。」
その公園に着いた時、雨であるのに日がさし東の空には虹が出ていました。
傘もささずにただ、そこに立ちすくむ ななの に
「風邪ひくよ。」
と傘を差してくれる人がいました。
そう、その人はあの彼でした。
「あ・・・。」
ここで何も言わなかったら、私はまた、この人と会えなくなると思った ななの は
「先生!」
「先生はやめてくれない?俺の名前は瀬良 真人。」
「はい。私の名前は入世 ななの です。」
「で、 何?」
「瀬良さんの絵、見させて頂きました。」
「見ましたか、あの絵は実際見た訳でもなく、俺自身、懐かしく戻りたい気持ちを表現しました。」
「そうなんです。私も一緒なんです、懐かしいんで、戻りたいんです。」
「誰かと一緒に・・・。」
「誰かと一緒に・・・。」
同時に同じことを言葉にすると、2人はお互いの顔を見ながらその奥の遠い時代を見ている感覚がした。
「見に行きませんか?俺と・・・。」
「見に行きませんか?私と・・・。」
また、同じことを言葉にしてほほ笑んだ。