…とある喫茶店に入る2人の女性。2人はネットで知り合い、今日初めて互いの顔を知った。2人席に座り、改めて自分達の事を話す。
「えーと、リンダさん…ですよね?会った時も言いましたけど。想像より可愛いですね!」
「ありがとうございます。ラルムさん…も想像よりずっと大人っぽくてビックリしましたよ!」
「そんなことないですよ。私、自分の名前が嫌いで…」
「私もです!なんでこんな名前なのか…もうすっごいイヤでイヤで!!」
「…ちなみに、何て名前なんですか?」
「・・・・・【佐藤 花子】です。」
「サトウ…ハナコ…さん。」
「佐藤とか日本で一番多い苗字で、花子だって書類の書き方の例とかトイレの幽霊とかにある名前じゃないですかー!もう弄られるわ弄られるわ…最悪で。」
「そうですか?いいと思いますけど。」
「ちなみに、ラルムさんはどんな名前なんですか?」
「・・・・・【031266948】です。」
「……ん?何て?」
「031266948です。私の住んでいる地区ではもう何百年か前から名前は、個人識別番号になっています。だから名前が嫌いなんです。むしろまだ日本語の名前を持っているハナコさんが羨ましい…。」
「でも!数字だったら自分で名前を勝手に付けて呼べないの?私も花子は変えようと思えば変えられるけど、苗字は自分の意思で変えられないし。」
「生まれたときから決められているので、無理です。子供の頃は番号の語呂合わせであだ名もありましたけど、学校とか社会に出たらもう番号呼びで…。」
「うーん…私も会社だと苗字呼びだな…。」
「何で変えられないんでしょうね。名前…。ネットみたいに自分の好きな名前で呼ばれたいですよ。」
「私も…。苗字変えたい…。」
「「ハア~~~・・・」」
2人は重たい溜息を付きながら、注文したアイスティーのストローをクルクル回す。氷がぶつかる音だけが響いていた。
「あーもー!やめよっ!私はリンダ!ラルムさんはラルム!少なくとも私達の間では、それが名前でしょう?」
「…そう…ですね。うん、ありがとうございます、リンダさんっ。」
「これからはリンダ。私もラルムって呼ぶわ。」
「はい、リンダ。これからもよろしくお願いします。」
女性2人は自分達の呼ばれたい名前で、それからの会話をした。ネットのこと、ゲームのこと、趣味や好きな作品について語りつくす。そこにあの重苦しい溜息の混ざった空気は無かった。
「じゃあ、またね!」
「はい!また時間ができた時に!」
2人は喫茶店を出て、笑顔で別れた。と言っても携帯やパソコンを開けばすぐに会話できるのだが。
「私はリンダ、彼女はラルム。でも・・・」
リンダはネットの名前。現実では別に呼ばれる。
・・・・
「やっほー、フラワーちゃん!」
「ああ、久しぶり!」
今度は学生時代の友人に出会う。また違う名前で呼ばれた。
佐藤、花子、フラワー、リンダ・・・
「私の名前はどれで、私は…誰なんだろう。」
そんな疑問、持っているのは私やラルムだけなのだろうか・・・?
終わり。