「サラミ、重い。」
「レディに向かって重いとは何だ、重いとは。」
私、みるは、今日は図書館ではなく、自宅の作業部屋で本の整理や、図書館ではしない細かい作業をしていたのだけど…いつの間にかネコ耳っ子のサラミがやってきて、私の膝を枕に横になった。
「サラミさんや、作業できないんだが。」
「だって外すごい雪だしー、さぶいしー、ここあったかいしー。」
「そりゃあストーブの傍ですからねぇ?身体が焼けるよ?」
「焼けないから。」
「てか、何でわざわざここに来る!?寒いならリビングのこたつに行けばいいじゃん!」
「いや。みるの膝がいい。」
やっぱり。と思いながら、膝枕から動かないサラミを見つつ、私はサラミと初めて出会った時を思い出す。
…私と出会った時、サラミはまだネコで、人間に対しての警戒心が強かった。それは私も例外では無く、人間慣れしているノラネコが寄ってくる中で、サラミだけが一人ぽつんと離れた場所で私を見ている。そしてサラミは、集まって来た中では唯一のメスネコで、一番小さかった。サラミはオスネコ達とは違い、エサを我先にと食べない。一番最後の残りを食べているから、より細く小さく見えた。
私は他のネコを避けて、サラミに少しだけご飯を与えた。
その時に私は、そのメスネコに「サラミ」と名前を付けて呼んだ。
それを繰り返すうちに、サラミは徐々に私になついてきて、ついには手を触れるようになったり、撫でられるようになってくれた。
スキンシップを繰り返すうちに、サラミは私の膝の上に乗るようになる。
まだサラミは、人間の匂いや知らないモノを怖がっていたから、家の中には入らなかった。
だから私は、サラミが居たいなら…と、寒い日でも外で30分くらいまで、膝の上に乗せたままでいた。
私はサラミに話しかけ、サラミも二人きりの時には私に甘えてくる。まるで姉妹のように。
どちらが姉か妹かは決めたりしていない。だって私もサラミに甘えているし、サラミに弱いから。
何故ヒトの姿になったのかは…多分私の能力とサラミ自身の想いが重なった結果だと思う。多分。あえて詳しく調べようとはしない。ただ、家に入れるようになって、人間の生活に慣れた頃だったから、私はそう思っている。
ヒトの姿になって、ふらふらとどこにでも行けるようになったけど、それでもサラミは私のところにやってくる。いや…「帰ってくる」と言った方がいいのかな。
そして変わらず、私の膝の上を独占するのだ。
「・・・膝だけじゃないよねぇ?サラミ。」
「んん〜?・・・にゃに(何)が〜?」
「私のお気に入りのイス!毛布!服!バスタオル!私のモノを勝手に使っているのは誰よ!?」
「みるの匂いがするから。」
「ベッドのド真ん中を独占したの、まだ覚えてるからね?」
「あの時のみる、ブチギレしてたよね~。」
「それでさぁ…やっぱり重いの!作業出来ないの!」
「気にするなって。」
「するわぁ!!」
こんなやりとりができる、今がとても幸せだ。だって、この幸せは、永遠ではない。
いつか別れが来る。サラミや図書館に出会う前に、嫌という程に味わった別れ。
死別も離別も、後悔するような別れも沢山あった。もうあんな事にならないように、後悔しないように、私は図書館で本を観るのだ。
そして今日も、サラミに膝を貸している。それでサラミが安心するなら、元気でいてくれるなら…いくらでも貸す。
やっぱり、重いけどね。
「サラミって、何ですごい食べてるのに体型的に太らないの?」
「知らん。みる、みかんとって。」
「こんなに食ってるのに。ほれ。」
「さんきゅー。」
「ありがとうと言え。」
「ふぁりふぁとぅ。」
「食べてから喋れ!」
終わる。or クリップで留める。
(※サラミは、みるとのんびりしている時は、このようにだらだらします。他ではノラの頃からの、放浪癖のある姉さん(あねさん)な性格です。)