今の2人は手を繋いだだけで良かった。
繋いだ瞬間、相手が今までどの様に過ごしてきたのか、どんなことを考えて来たのかが頭に直接伝わって来る感じがしました。
2人が離れている間の空白は直に埋められていきました。
まるで、写真の様にあの絵と同じ風景が溢れてきました。
・
・
・
「ああ、やっぱりアナタだったのですね?」
「ああ、やっぱりキミだったんだね。」
「ここまで来るのに随分、時が流れました。」
「そうだね、その間にも何度もキミとすれ違ったような気がする。」
こうして2人の交際がスムーズに行くような気がしていました。
しかし、運命のいたずらはそう簡単に2人を結びつけようとはしませんでした。
・
・
・
「マー君!どこに行っていたのよ。」
「ちょっとね。」
「さっきから、お父様がお待ちよ。」
お父様というのは真人の大学の教授で婚約者の大道寺 麗羅の父、大道寺 源三郎でした。
真人は教授の椅子と麗羅との結婚を約束された立場にいました。
麗羅との婚約破棄は真人の教授の椅子を破棄する事と同じことだったのでした。
「また、今世ではキミと結ばれないのか・・・。」
真人は思いました。
・
・
・
その頃、ななの の家では今日の出来事を知った母が
「ななちゃん、その人が間違いなく運命のお相手様だよ。絶対、その手を離してはいけないよ。」
「お母さん・・・。」
ななの は本当のことを母親には言えませんでした。
まさか、お相手にはすでに決まった人が居るなんてことは母親には失望の何者でもないだろう。
長い時間が経っても、運命の二人が結ばれないなんて・・・。
ななの は母に聞きました。
「そう言えば、お父さんはお母さんの運命の人では無かったの?」
「そうね。運命の人か?運命の人じゃないか?と聞かれたら、そうじゃ無かったと言うしかないけど、こうやって、ななの が居るのはお父さんのお蔭だし、運命の人以上に一緒に居たい人なのかもね。」
「そうか・・・。」
もし、私が運命の人と結ばれなくても良いのか・・・。
ななの は何となくぼんやり考えていました。
・
・
・
2人は会えないまま数年の時が経った秋のことでした。
「ねぇ、聞いた?」
「何を?」
「うちの学校の教授、捕まったらしい。生徒の作品を自分の作品と偽って売りさばいていたとか。」
「えー!!」
カフェのお客様が噂話をしていました。
「えっ?それは本当ですか?」
思わず、お客であるその女子大生に ななの は聞いてしまいました。
「本当ですよ。今頃、大学は大騒ぎです。」
「助教授、瀬良先生は?」
「さあ、分からないケド、当然、教授のお嬢さんとの婚約は破談ね。」
「破談・・・。」
ななの ははやる気持ちを落ち着かせようと、あの海の風景が描かれていた絵を見てみると、心なしか男性であろう左の人物の影が薄くなってきている様な気がしました。
「大丈夫かしら・・・。」
ななの は心配で心配で不意に涙が流れていました。
「ななの ちゃん?どうしたの?」
「叔母さん・・・実は・・・。」
ななの は今までのいきさつを叔母に話しました。
「そう言えば、お婆さんが良く言っていたわね。そのブレスレットのこと。叔母さんにまかせて、ななの ちゃんは一緒に私と来て。」
「は、はい。」
叔母はテイクアウト用のコーヒーを2つ袋に入れると、近所の美大まで急いだ。
門の前にはマスコミで溢れていた。
「ちょっと、配達なんでそこを通して下さい。」
そういうと、叔母は私を連れて中に入って行った。
あるドアの前に行くと
「ここが瀬良助教授の部屋、ここからはあなた一人で行って。」
そう言って、コーヒーを ななの に手渡すと何処かに行ってしまった。
―― episode 1-3 決心 ――に続く