かつて見上げた新月の夜の闇夜が支配していた空はもう思い出せない程遠い記憶となった。
様々な苦難を共に駆け抜けた仲間たちとひとつひとつ灯していった希望の灯り。
それらは今や満天の星空のごとく日常の日々を照らしている。
その輝かしい日々の日常を土台に次の世代も新たな希望を後の世に繋いでいくのだろう。
志半ばで旅立っていった仲間たちにもようやく胸を張って会える。
私は今まで歩んできた道のりを噛み締めながら心地よいまどろみの中へ身を委ねた。
新たな時代に引き継がれた夢の続きを次世代に譲り渡す為に。
「これが斎木家に残された初代当主様の残された手記の概要か…現代に起こるであろう危機に際しての対応指南だけに留まらない内容だけどこれを今出してきた必然があるのよね?端的に話してくれる?烏山。」
美夏は自分専属であり斎木家使用人の統括を担う老執事に対して最低限の説明義務の履行を求めた。
黎明期に記された異能者ネットワークの設立経緯や様々なコネクションの概要、創立人員がどのような異能を持ってどのような能力開発をしていたかが記されているあの手記は歴代当主に受け継がれているトップシークレットだ。
斎木家当代当主の長子として生まれた美夏だけではなく当主継承権を持つ弟たちにも詮索することが許されなかった機密文書。
それを閲覧することが求められる事態というのは喫緊の非常事態であるということ。
そしておそらく斎木家内部の闇に踏み込まなければならない事案だろう。
美夏は圧し掛かるプレッシャーを感じさせないように振舞っているが、目の前の老執事にはお見通しな様で厳しい目が美夏自身の覚悟を求めていた。
その視線に対し精一杯の虚勢を張って話の先を促した美夏の指示を受けとめた老執事は一瞬落胆を見せたものの、感情を遮断し自分の役目を遂行することに切り替える。
「美夏お嬢様もご存じでしょうが我が斎木の分家である榊家の一族が最近自らのコネクションで中国や韓国の異能者を呼び寄せている件に関わることでございます。」
美夏は予想通りのきな臭い匂いのする事態が切り出されたことで眉を寄せた。
老執事はそのまま事態の説明を淡々と進めていく。
「彼らの目的は中国企業資本や韓国の財閥からのリソース提供による首都圏の暗部利権を独占することでしょう。
アンダーグラウンドな取引の後ろ盾の役割を独占できれば言い値で仕事を受注できます。そしてその首輪を持っているのが外国資本となれば首都圏の治安事情は彼らのルールで決まる事に繋がります…おわかりですね?お嬢様。」
老執事はこれから対処しなくてはならない現実をかみ砕いて説明し主の判断を待つ。
「この程度」の現実が背負えないようであれば根本的な未来図の仕様変更が必要だからだ。
それを受けて美夏は今立ち向かう現実を見据え、自らの対処案を老執事に提案していく。
その瞳の中に宿る意思の光の強さを確かめ老執事は自らの主に運命を委ねることを決断した。
