ここは、あらゆる本が置いてある不思議図書館。今日は特別に、とある誰かの本を読んでみましょう。私達だけの、秘密です。
ー今日の本は、どんな本でしょうか?ー
…昔々、世界を渡る事が好きな旅人の魔導師がいました。彼は世界を巡り、話を語るのを趣味にしています。
ある時、久々に故郷の世界に帰ろうとした魔導師でしたが、何と自分の故郷の世界が無くなっていました。
驚いた彼は、魔法の道具を補助に、自分の故郷の世界の過去を「観ました」。
故郷の世界は、双子の神娘を授かったのに、それを酷使し道具のように使い、果ては世界のエネルギーすらも搾り取って、世界の寿命を減らしたのです。
そんな疲弊した世界に安らかな慈悲の眠りを与えたのは、双子の片割れ、神に成った銀の女神でした。
しかし人々は、そんな優しい銀の女神を打ってしまいます。当然、双子の片割れ、少し遅れて神に成った金の女神が嘆き悲しみ、人々の声を聞くことはありません。
でも、金の女神も銀の女神と同じく慈悲深く、滅びた世界が再び新しく生まれ直すように、種として持って去りました。
それを「観た」魔導師は、また旅に出て様々な世界でこの話をします。双子の女神の悲劇と世界が滅びた理由…その事を忘れないように、二度と悲劇を繰り返さないように、そして世界の消滅には必ず理由があると、誰かが覚えていてくれるように。
もちろん、弟子となり立派な魔術師となった者にも必ず教えました。
それは…「家族」となった者も例外ではありません。
やがて彼は、魔法も魔術も無い世界で恋をし、女性と結ばれて、その世界に永住する事にしました。そして「一族代々」に、自分や双子の女神の事を受け継いでいく決まりを作ります。
彼は長らく不老でしたが、愛する妻との人生を歩む為に不老を無くし、妻と共に天寿を全うしました。
…それから一族は脈々と受け継がれ、代替わりを繰り返してきました。
ある時、一族の当主夫婦との間に中々子供が授からない時期があり、夫婦は孤児の姉弟を引き取り後継ぎにしようと決めます。
その教育中に、夫婦はようやく子供を授かりました。
やがて、女の子が生まれます。黒髪黒目の、ちょっと小さめの女の子。
一族が安心したのもつかの間、女の子は不思議な力を持っていました。何も無いところから火や水を出したりするのです。
「これはきっと先祖返りだ。この子は魔導師の力を持っている。」
そう結論付けた一族は、急いで女の子を隠し、部屋に隔離しました。
本当は違います。女の子は金の女神と銀の女神、双子の女神の生まれ変わりです。
でも、女の子がいくらそう言っても、大人達は聞いてくれません。
それどころか、魔導師の先祖返りというだけでも、腫れ物に触るような扱いをされました。
両親も、使用人も、親族も、誰も相手にしません。
女の子は塞ぎ込んでしまいました。
ただ…
「おーい、ミィー!」
「遊びに来たわよ、ミィ。」
「…!!ユウ姉さま!タカ兄さま!」
後継ぎに引き取られた、年上の姉弟だけは、血や大人の言葉を鵜吞みにせずに可愛い妹のところに行き、遊んでくれました。
「ミィ、お兄さまもいいけど、お兄ちゃんと呼べといっているだろう。」
「はいはい、ミィ、タカの言う事はいいから。今日は何をしようか?」
「うーんとね、しゃぼん玉!」
「いいわよ。じゃあ割れないシャボン玉を作ってみましょうか。」
「うんっ!」
女の子から見て姉兄は優しくて頼りになる存在で、女の子の「魔法」も尊重して使いながら遊んだり、勉強を見たりしてくれます。
……実は、この行動は、結果的に女の子の命を繋いでいました。女神の生まれ変わりの女の子には、女神の魔力は大きすぎて、定期的に外に出さないと身体が耐えられなくなり命に関わってしまうのです。後にこれを知った女の子は、姉兄に大変感謝してお礼をしました。
…女の子が10歳、少女になるころ。
ついに一族では少女を処分しようという話が出ました。それを聞いた姉兄は、自分達がどうなるか覚悟の上で、少女を逃がそうと思い行動します。少女を外に連れ出し、誰かが来ないような林の中に入って行きました。
「ミィ、貴女の魔法ならこの世界からも出られるわ。外に出て、ここじゃない世界に行くのよ!」
「こわいよ、姉さま、兄さま…。」
「ミィなら大丈夫だ、沢山勉強して遊んだだろう?それにな、魔導師様は他の世界から来たんだから、他の世界には魔法が使える人がいる。そういう人に魔法をちゃんと教わるんだ!」
「でも…。」
「じゃあ、ユウ姉さまとタカが、お守りをあげるわ。」
そう言って、姉は大きな白いリボンを少女の頭に、兄は少女の肩に黒猫のバッグをかけてあげました。
「中に色々入ってるから、好きに使っていいぞ。」
「ええ、落ち着いたら連絡してくれると嬉しいわ。私もタカも…だって大事な妹だもの。」
「…ユウ姉さま…タカ兄さま…」
「いってらっしゃい…「美月(みづき)」。」
「今度帰って来たら、お兄ちゃんって呼ぶんだぞ!美月。」
「…ありがとう、美憂(みゆう)姉さま。高月(たかつき)兄さま。いってきます!!」
こうして少女は、生まれた世界から旅立った。
もっと魔法が上手く使えるようになった時、少女は真っ先に姉兄に連絡をする。
それは、だいぶ先の…しかし決して遠くない話。
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