ーーこれは、過去のはなし。
…それはまだ、みるが不思議図書館に通い始める前で、イミアが運び屋になる前の話。
イミアは能力を身に付けるべく、ユリィの元で修業をしていた。
ユリィを先生と呼び慕うイミアだが、一方でみるはユリィにあれこれ注文されるのを嫌がる。その日もユリィからの逃走に失敗したみるが、ユリィ直々にお仕置きされていた。
その間イミアは部屋の掃除を任され、ハタキをパタパタさせている。もちろんどの部屋も例外は無く、ユリィの部屋にも入り本棚をパタパタとハタキで叩く。
「みるも先生を嫌いな訳じゃないみたいなんだけど……あっ!!」
考え事をしていたせいか、イミアはうっかり一冊の本を本棚から落としてしまった。
「先生に怒られちゃう!」
慌てて本を拾おうとしたイミアだが、落ちた拍子に本が開いてしまい…その本は何故か知らない文字なのに読める、不思議な本…イミアはつい読んでしまった。
ーーむかしむかし、あるところに、女神さまがいました。
女神さまは、希望と絶望を与える力を持っていました。
ある時、1人の若者が女神さまに恋をしました。
しかし女神さまには、既に愛する者がいました。
若者が女神さまに無理矢理せまったせいで、女神さまはココロがバラバラになってしまいました。
愛する者は、女神さまの一番大事なココロのカケラを持って逃げ去りました・・
若者は罰として、牢獄に閉じ込められました・・
若者の妹は、兄を助けようとしました・・・
妹は、兄の代わりに牢獄に入り・・・・
兄は・・・・
牢獄から・・・・
出ました・・・・・
・・ーー
【ねえ、お兄さまは…どこ?】
「えっ!?」
空白になったページに突然文字が浮かび上がり、恐怖と驚きをみせるイミア。
【そっちにいるんでしょう?お兄さまはどこ?】
【それとも貴女もアイツの仲間?】
【許さない、お兄さまを陥れたアイツを許さない。魔女を許さない。】
「ま…魔女…?」
【魔女もアイツも…女神も許さない。お兄さまを返して!!】
本からいくつもの手が伸びた。たくさんの手が、手が、イミアに伸びてくる。
「や…やめて……」
「イミア、ダメよ。勝手に本を開いては。」
音も気配も無く現れたユリィに本を拾われ、イミアはハッとした。ユリィに取り上げられた本には手が出ていた形跡は全くない。イミアはゆっくりとユリィの顔を見上げた。
「せ…せんせい……。」
「もう…間違って開いてしまったら、すぐに閉じなさいと言ったでしょう?」
「ごめんなさい…。」
「イミアもお仕置きよ。みると一緒にお使いに行きなさい。もちろん自力で。」
「はーい…。」
イミアは立ち上がり、ハタキを持って部屋から出ていく。ユリィとあの本だけが、その場に残された。
「…まさか、まだ眠っていないなんて。しぶといというか、大した兄想いだこと。」
【お兄さまを返せ!!女神…魔女…許さない…アイツも…アイツはどこに行った!!】
「それを知れたら苦労はしないわ。はぁ…イミアの本の記憶は消さないと。とにかく、貴女の出番は「この世界」には無いの。大人しく眠っていて頂戴。」
ユリィは荒々しく本を閉じ、棚にしっかりと戻した。
「魔女だなんて…そんな生易しい存在じゃないわ。私は。」
終わる。or 続きをを検索。