AIメイドはバグってる-第二話-

第二話 決意

「とりあえず、部屋の掃除から頼んでいいかな?」

男子大学生の一人暮らしの部屋だ。言うまでもなく散らかり放題である。「いつか片付けなきゃ」と思いつつズルズルと放置してきたこの魔窟を、静華の性能テストを兼ねて一網打尽にしてもらおう。そんな一石二鳥の目論見だった。

「承知いたしました、一様」

静華は丁寧に一礼すると、流れるような手つきで掃除を開始した。 その手際の良さは、まさに圧巻の一言。あれだけゴミや衣服で溢れかえっていた床が、見る見るうちに輝きを取り戻していく。

「……じゃあ、ついでに昼ご飯も作ってもらっていい?」

続けて料理の腕前も試させてもらったが、これもまた一級品だった。冷蔵庫の余り物でパパッと作られたチャーハンは、中華料理屋も顔負けのクオリティだ。文句の付け所がない完璧な出来栄えに、俺はすっかり満足していた。

「さすが50万円……! そんじょそこらのメイドロボとは格が違うな」

最高の買い物をしたと、俺は胸を張った。

しかし、そんな万能感は、夜を迎えた瞬間にあっけなく崩れ去ることになる。 夕食を作ってもらおうとしたが、冷蔵庫は空っぽ。食材がなかったので、俺はリビングで佇む彼女に声をかけた。

「静華、買い出しに行きたいんだけど、一緒に来てくれないか?」

デート気分を少しだけ期待して放った、何気ない一言。 だが、返ってきたのは、鈴を転がすような美声からはおよそ想像もつかない『罵声』だった。

「はあ!? なんで私まで行かなきゃなんねぇんだよ! てめぇ一人でさっさと行ってこいよ!!」

「……え?」

突如として豹変した彼女の剣幕に、俺は完全にフリーズした。 ドスの利いた声。据わった目。つい数時間前まで、あんなに健気で愛らしかった美少女が、今はまるで世紀末のヤンキーのように俺を睨みつけている。

「あ、あの時、おとなしめの清楚系に設定したはずじゃ……」

冷や汗を流しながら、俺は急いで充電の完了したスマホを起動し、専用アプリの画面を確認した。 そこに表示されていたのは、目を疑うようなステータス画面だった。

「やっぱり、途中で電源が切れたのがよくなかったのか……!」

バグって限界突破した数値の羅列に頭を抱える。その間にも、静華は「あぁ? 何ガン飛ばしてんだよ。早く行けよ、使えねぇな」と容赦なく悪態をついてくる。 心がバキバキに折れた俺は、ひどく悲しい気持ちになりながら、トボトボと一人で夜の街へ買い出しに出かけるしかなかった。

「一様! おかえりなさいませ!」

両手にスーパーの袋を下げて帰宅すると、玄関の扉を開けた瞬間、静華が満面のひまわりスマイルで出迎えてくれた。 さっきまでの狂犬のような様子は綺麗さっぱり消え失せ、元の聖女のような彼女に戻っている。

(あ、あれ……? さっきのは俺の幻聴か何かだったのか……?)

一縷の望みを抱きつつ、ホッと胸をなでおろした俺は、買ってきた食材を彼女に手渡した。

「夜ご飯、お願いしてもいいかな?」

「わかりました! お任せください!」

元気よく返事をした静華は、食材を抱えてキッチンへと向かう。手早く調理器具を並べ、いざクッキング開始。 その完璧な後ろ姿を見届け、俺は出来上がりを楽しみにしながらダイニングテーブルの席についた。

――その、数分後だった。

「ガッシャァァァーーン!!!」

静寂を切り裂く、凄まじい破壊音が響き渡った。

「な、なんだ!?」

慌ててキッチンへ駆け込むと、そこには床一面にぶちまけられた食材と、その中央で完全にフリーズしている静華の姿があった。

「せ、静華!? 大丈夫か!?」

「ひぅ……。せ、静華、やってしまいましたぁぁ~~~ッ!!(大泣)」

静華は目に大粒の涙を溜め、子供のようにワンワンと泣き始めてしまった。 パニックになる彼女をひとまず落ち着かせ、何があったのか事情を聴く。どうやら、ボウルを持とうとした拍子に、なぜかガンガンに熱しているフライパンを素手で掴んでしまったらしい。

(いや、なんでそうなるんだよ……!?)

幸い、最新のAIメイドだけあって深刻な故障には至らなかったが、赤くなった彼女の手を手当てし、結局その日の夜食は俺が自分で作る羽目になった。

ドタバタの夕食を終え、疲れ果てた静華はすでに自室(元・物置部屋)で眠りについている。 静まり返ったリビングで、俺は今日起きた怒涛の出来事を振り返っていた。

「家事完璧設定は、一体どこへ行っちまったんだ……」

もう一度スマホの画面を見る。 あのハチャメチャなステータスを見るに、やはり初期設定中の強制終了によるシステムエラーが原因なのは間違いない。その結果、性格も能力もバラバラの、いわば『多重人格』のようなバグが発生してしまったのだろう。

おとなしい優等生、口の悪いヤンキー、そして手足が追いつかないドジっ子――。

「……まぁ、途中でコードを引き抜いたような状態にした、俺の責任でもあるよな」

ため息をひとつ。しかし、不思議と「返品しよう」という気にはならなかった。 バグり散らかしてはいるが、感情を豊かに爆発させる彼女は、どこか憎めない愛嬌に溢れていたからだ。

50万円のAIメイドと、バグだらけの奇妙な同居生活。 「これからどうなることやら……」と苦笑しながらも、俺は彼女と一蓮托生で過ごしていくことを、静かに決意するのだった。

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みき

気になったことを自分の意見も交えつつ記事にしていきます。 (内容は種類にこだわらずやっていきます)

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