【小説】「此方、希望的観測より」

ここは未来技術が発展した世界。
そんな世界でも人を…命を作ることは禁忌とされていた。

それでも、とある研究所で禁忌を破る影が一つ。
彼はこの研究所の所有者であり、表面は医者をやっている。
人々は彼に敬意をこめて「ドクター」と呼んでいる。

「ドクター」は人々を救う中、己の抑えきれない衝動…好奇心に襲われ、禁忌に触れた。
その好奇心は「愛してほしい」というものだった。

「ドクター」は生まれてこの方大人になるまで人々との関りがほとんどなかった。
覚えているのは「お前は必要のない存在なんだ」という言葉だけ。

「ドクター」はその言葉に抗った。自分は必要とされている。
人に必要とされるためには「ドクター」になるのが最適解と思ったのだ。

だが、「ドクター」は人々に触れるうちに「愛してほしい」という好奇心を抱くようになった。
しかし、「ドクター」は求められる存在なだけで、人に愛してもらえなかった。
どんなに愛を囁いても、好きのまねごとをしても、人には避けられ、傷つけられ、罵られるばかりであった。

「ドクター」は天才だった。ゆえに、「ドクター」はこう思った。
「愛してくれる人がいないのであれば、作ってしまえばいいんだ!」

…皮肉にも、彼はその思考を実行できるだけの技術と知能を持ってしまっていた。

こうして、死者を寄せ集めて作られたのは完全に人に見えるアンドロイド。
「ドクター」はこのアンドロイドに「アルク」と名付けた。

早速起動スイッチを入れる。…無事に動く。問題はなさそうだ。

「初めましてドクター。私はアルク。あなたの心です。」

目を覚ましたアンドロイドはそういいながら無機質な瞳を「ドクター」に向ける。
初めて完成したアンドロイドに若干興奮しつつも「ドクター」はこう言った。

「初めましてアルク。君は俺の最高傑作です。私の期待に応えてください。」

それから、「ドクター」は「ドクター」をやめ、「アルク」と共に日々を過ごした。

何変わらぬ日々を過ごしながら「ドクター」と「アルク」は平穏な日々を送った。
怪我人病人に必要とされるも、いざ治ったときにはもう用済みと言わんばかりに自分を捨てる人々とは違い
「アルク」はその言葉の通りなにがあっても一緒にいた。

ある日、人が食べる食べ物を食べて渋い顔をしながら「アルク」はこう言った。
「ドクター。これは、何ですか?」

日々を過ごすうちに「アルク」には「興味」が湧いてきたのだろう、「興味」のままに行動した「アルク」を見て
「ドクター」は「アルク」に
 人間らしさを教えることにした。

「これは…食べ物?
 不思議な刺激、不思議な感触です。…これは味。…これは食感というのですね。覚えます。」

ある日にはお風呂に入れてみた。
「アルク」は最初はキョトンとしたものの、自分が動くたびにちゃぷちゃぷと揺れるお湯に興味が湧いたのだろう、手元を軽く動かしてお湯を揺らしはじめ
慣れてくれば「ドクター」にお湯をかけ、いたずらをし始めた。

「ドクター。これが入浴ですか?
 水分に浸かる感触、面白いです。」

また、ある日には本を読ませてみた。
「アルク」は元からインプットされていた言語を駆使し、夢中になって本を読み始めた。
どうやら「アルク」は「医学」に関する本が好きらしい。まぁ、自分の書斎にあるものがほとんど「医学」に関する本だからそれも致し方ないだろうな。
最初は無機質に話していた言葉も、本を読むたびに言葉に抑揚が付くようになった。

「ドクター。これが読書ですね?
 俺はこの本が好きです。…ふふ、好きなもの、一緒ですね。」

人間に必要な「食欲」などの生活に関することから「趣味」や「興味」に関することまで、教えられることはほぼすべて教えた。

ただ一つ、「アルク」に教えられなかったものがあった。
それは「愛」。
「愛」を言語化するには難しく、それこそ何も知らない「アルク」にどう教えたものやら、「ドクター」には皆目見当がつかなかった。

「アルク」と共に過ごしながら様々なことを教え、しばらくした頃…
何やら研究所の外が騒がしい。

「ドクター」は目を凝らして窓の外を見る…
それは、松明を持った人々の姿だった。
一人一人が怒りの表情を抱えており、何やら物騒な物ばかり手に持っている。
男性、女性、老人から子供まで…

「彼はこの病気を作った本人だ!」
「彼のせいで私たちの家族はいなくなってしまった!」
「許せない!病の元凶は死を持って償うべきだ!」

それは「ドクター」が「ドクター」をやめたころ…
丁度その時には町では流行り病が少しずつ進行していた。
「ドクター」は自分のことで精いっぱいで気づかなかったが、意図せず救いの手を求める人々を切り捨てる形となってしまった。

「ドクター」の突然の「ドクター」の放棄。
流行り病の発生。
苦しみもがき、助けを乞いながら息を引き取っていく人々。

町の人々は誰かを「悪者」にしないと正気が保てなかった。
その役目が、「ドクター」になったのだ。

事情は分からないながらも不穏な雰囲気を察知した「ドクター」。
「アルク」は「ドクター」の様子を不思議そうに思いながらも言葉を紡いだ。

「ドクター。沢山教えていただいてありがとうございます。
 …あの、気になることが。
 ……愛って、きっと…あたたかな気持ちだと思うんです。
少なくとも、俺がドクターに抱えているこの気持ちは愛なんじゃないかな、と。
ドクター。こんな俺に愛を、幸せを教えてくれてありがとう。」

そういいながら微笑む「アルク」。
…そうだ。愛って、こんなに幸せなものだった。
俺は何を迷っていたのだろう。
人々は俺のことを見捨ててなんかなかった。
俺が見てなかっただけだ。俺が見捨てたんだ。
だから、俺が見捨てたから、病による犠牲者が出てしまった。
俺が居たら、…助けられたかもしれないのに。
目の前の「アルク」は何も知らない。
「アルク」は俺にとって大切な存在で、我が子のように愛していて…守りたい。
幸せでいてほしい。
だが…、少なくとも、今の状況から幸せになるのは難しいだろうな…

「アルク、もういい。この世界では
 お前は必要のない存在なんだ。愛なんて知る必要がなかった。
お前は欠陥品だ。」

「ひゅ」と息の詰まる音が聞こえる。
ごめんな、つらいよな。最愛の人に否定されるのは、耐えがたいほどに…痛いよなぁ。

ごめんって言いたい。今すぐ抱きしめて嘘だよ、一緒に逃げよう、と言いたい。

でも、今はこの子を楽にしてあげなければ。
この子にはいざという時のことを考えて記憶チップだけでも宇宙に飛ばすように準備を進めてきた。
この機能は一度しか使えないうえに非常に不安定だから、記憶すべてを保持できる自信はないけれど。

今使わずにいつ使うってんだ!

ドォン!と音を立てて扉が壊される。
一瞬の静けさと、そこには武器を抱えた人々、椅子に座る俺…そして、ぐったりと俺の腕の中で横たわる「アルク」

「きっと…あの時、こんな気持ちだったんだろうな。
 愛してくれて、ありがとう。「ドクター」」

誰かが金切り声を上げる。それを合図に俺に襲い掛かる人々。
抵抗は、しない。
グシャ、メキ、と音を立てて頭がへこみ、腕が弾き飛ばされる。
ばちばちっと視界がフラッシュする。
でも、大事な「我が子」には傷一つつけさせない。
もうこの子は抜け殻だけど。確かにこの子はここにいたんだ。

たどり着いた世界では、どうか幸せになってね…

ここは未来技術が発展した世界。
そんな世界でも人を…命を作ることは禁忌とされていた。

それでも、とある研究所で禁忌を破る影が一つ。
彼はこの研究所の所有者であり、表面は医者をやっている。
人々は彼に敬意をこめて「ドクター」と呼んでいる。

「ドクター」は人々を救う中、己の抑えきれない衝動…好奇心に襲われ、禁忌に触れた。
その好奇心は「愛してほしい」というものだった。

「ドクター」は生まれてこの方大人になるまで人々との関りがほとんどなかった。
覚えているのは「お前は必要のない存在なんだ」という言葉だけ。

「ドクター」はその言葉に抗った。自分は必要とされている。
人に必要とされるためには「ドクター」になるのが最適解と思ったのだ。

だが、「ドクター」は人々に触れるうちに「愛してほしい」という好奇心を抱くようになった。
しかし、「ドクター」は求められる存在なだけで、人に愛してもらえなかった。
どんなに愛を囁いても、好きのまねごとをしても、人には避けられ、傷つけられ、罵られるばかりであった。

「ドクター」は天才だった。ゆえに、「ドクター」はこう思った。
「愛してくれる人がいないのであれば、作ってしまえばいいんだ!」

 

↓↓↓以下完走した感想↓↓↓

どうも、花の月です。

この度は小説をお読みいただきありがとうございました。

一週目と二週目で読む印象が変わる小説をイメージして書いてみました。うまくいってるといいな。
一回目は人間のドクターで、実はもう何回も同じことを繰り返してるかもしれない…と考えると切なくなりますね。
アルクがドクターになって、ドクターになったアルクが別のアルクを作って……

ただ共通してるのは「どのドクターもアルクの事は我が子のように愛していた」という事でしょう。
ドクターのその気持ちは記憶チップに残っても残ってなくても共通してたのかもしれません。

ドクターの「アルクに幸せになって欲しい」と言う願いは何度も何度も繰り返されても揺らぐことなく、
それはきっと地球に来ても思われているのでしょう。未来のアルクの為に。

きっと最後のアルクが幸せになった時こそ、ドクターは己の願いと犠牲が無駄にならなかったと実感するのでしょう。

アルク=歩く
未来を歩く、人生を歩く
みたいな意味を込めて名前をつけていました。

ドクターの願いも愛もあり、あなたの思いも受け取ったアルクならそのうち幸せまで歩けるでしょう……

どこかのアルクはいつか幸せになれるかもしれません。
もし地球に落ちてきたら仲良くしてくださいね。

読んでくださった貴方へ深く広い幸せが訪れますように。お疲れさまでした。

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花の月

小さいころから絵を描くのが好きでした。 淡い色の絵が好きなのですが、自分自身は全体的にキラキラした絵が得意です 喉から手が出るほど創作が好きで、創作話を聞くのも書くのも楽しいです。 1枚1枚魂込めて描きますので、少しでも楽しんでいただけると幸いです。

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