【小説】「以下、同文」

(※鬱展開があります。読む際にはご注意を…)

パシャリ。
眩しいフラッシュとともにシャッター音が鳴り響く。
私は音につられるように音の出処を見る…
するとそこには予想通り、カメラを見てニコニコしている昔馴染みで、唯一の友達のナズナがいた。

「あ、起こしちゃった?
ごめんね。あんまりにもいい写真が撮れそうだったもんでつい…」

てへへ、と頭を掻きながら軽く舌を出すナズナ。
なんでも、ナズナは人の日常を切り取るのが好きらしい。
声をかけると日常から離れてしまうから、あえて声をかけずに写真を撮るんだって。
でも、突然写真撮られたら誰だって驚くし、人によっては怒ると思うんだけどね…
それでも、ナズナはその人がここにちゃんといるみたいだからってその時に撮った写真がお気に入りみたい。
私も突然何枚撮られたことか…

「怒った?ごめんね、でもしらさぎは美人だから撮りがいがあるんだよ~」

私が黙っていると、何を勘違いしたのかナズナは慌てて謝ってきた。
昔からナズナは人をおだてるのが上手だったな…と思いつつ、ふるふると首を横に振る。
別に今更何も言わずに撮られることに関してはなんとも思っていない。
ナズナは昔から好きな事に一生懸命だから、それを私が咎める理由はない。

「良かったぁ…貴重な被写体がいなくなっちゃうかと思ったよ〜」

前言撤回。あまりに無礼なことを言うナズナの頭にゲンコツを落としつつもふとアルバムを見る。
どの写真も自然に取られてて、見ていてぎこちなさを感じない。
なにか写真のコンクールに出せばいいのに、と声をかけたこともあったが、
ナズナには「私は評価される為に写真を撮ってるわけじゃないよ」と言われて断られてしまった。

「ねえ、今日は一緒にお花見しに行こうよ!
丁度桜が見頃なんだって!」

げんこつを落とされてもニコニコ笑うナズナを見ては私はため息をひとつ吐き、ナズナへの不満はその一つのため息で吹っ飛んでしまった。

二つ返事で了承すれば大喜びで笑うナズナ。
ナズナの笑顔は人を喜ばせる力があるんだよなあ、とほんのり考えつつも、お花見とならばお弁当が必要だろう、とすぐさまお花見モードに入る。

私とナズナは家が隣同士のご近所さんで、昔からずっとこんな調子で遊んできた。
なんだかんだ私自身もナズナと遊ぶのは嫌いじゃないし、ナズナもきっとそうだろう。

ナズナは私が作る甘い卵焼きが大好きで、いつも美味しそうに食べてくれる。
たまに意地悪された仕返しにしょっぱい卵焼きを焼いた時、すごくなんとも言えない顔して顔にシワがよっていて、面白かったな。

そんな事を思いながら甘い卵焼きの入ったお弁当を包み、ピクニックシートを準備し、いざお花見へ!
と意気込んだは良いものの、肝心のナズナが見当たらない。

どこにいるのだろう、と近くの部屋に入って探せば簡単に見つかった。
どうやらアルバムを見ていたらしい。

「あ、見つかっちゃった?
…えへへ、今撮ったしらさぎの写真、アルバムに入れてたんだ」

また勝手に撮られて居たらしい。
ナズナの写真に対する情熱に思わず苦笑いを零すも、アルバムを覗き込めばコメントが書かれていた。

「寝起きのしらさぎ。
おはよう!どんな夢を見てたのかな?
寝起きのBGMは…、私のシャッター音で!」

「料理中。
しらさぎが作ってるのは私の大好きな甘い卵焼き!
もういい匂いがしてきた…
つまみ食いしたのバレてないよね?」

…つまみ食いした件については後で怒っておこう、と思いつつもアルバムを閉じる。
ナズナもカメラの準備が出来たのか、小さめのカバンに入れてこちらに向けて微笑んできた。

なんだかんだ言いつつも、私はナズナが撮った写真が好きだ。
ナズナのセンス、魅せ方…、どれも筆舌に尽くし難い魅力があるけれど、1番は「ナズナが撮ったから」と言う理由が収まるだろう。
だから、私は今日のお花見の写真も心から楽しみにしていた。

「しらさぎはさ、好きな人とか、いるの?」
他愛のない話をしながら歩いてると、ナズナから唐突に聞かれた。
ドキッと思わず胸を高鳴らせるも、その理由は分からない。
好きな人…かあ…。
確かにナズナは好きだけど、でもこれは家族に対して…みたいな括りだから、ナズナが知りたい「好き」では無いよなぁ。
そう思いつつもふるふると首を横に振る。
するとナズナは、「そっか」と一言だけ言った。
その表情は…、いつもと少し、違っていたけれど。
すぐにこちらを見てニコッと笑ってきたので、きっと日光が眩しかったんだな、と思うことにした。

「あー!ようやく着いた!
疲れたー!頑張った私偉い!ねぇねぇしらさぎ!お弁当食べていい!?良いよね!?」

お花見場につくなりぐうう、とお腹を鳴らして子犬のような目でこちらを見てくるナズナ。
それもそうか。午前中いっぱい歩き倒したし、もうお昼の時間だしね。
こく、と頷いて早速ピクニックシートを敷き始める。
周りの人達の賑やかな声が少し煩くて、ナズナの声が聞こえづらい。
でも、それをどうでもいいと思えるほど桜がとても綺麗で、思わずため息を吐く。

「しらさぎー?聞いてる?
花見もいいんだけど…私は花より団子をしたいんだよね…」

ナズナの声でハッとする。気付けば桜に見惚れていたらしい。
慌ててお弁当を広げては2人分のお箸を用意する。
いただきます、と2人で声をかけ、丹精込めて作ったお弁当を食べ始める。
ナズナはやっぱり甘い卵焼きから食べる。
焦らなくても誰も取らないのに…とくすくす笑う私の足元に桜の花びらがはらはらと落ちてくる。

暖かなそよ風と共にふわふわと舞う桜の花びら、満開の花を見ては今日の晩御飯は何にしようかな、とうっすら考えていた。

「しらさぎ!こっち来て!おっきい木があるよ!
ほらほら、ここで写真撮ろう!記念写真!
最後はとっておきのカメラで撮ろう!」

ナズナが写真を撮ることを提案するなんて珍しいな、と思うも、ナズナの言う通りに着いていけばそれも納得するほどの見事な木が立っていた。
他の木ももちろん美しいけれど、この木は一段と変わってとても綺麗に見えた。

「それじゃあ写真撮るよー!」

パシャリ。
シャッター音と共におおきな木の前ではにかむ私達。
きっといい写真が撮れただろうな。
早速私たちのピクニックシートに戻っては撮り立てほやほやの写真達をアルバムに入れていく。

私は写真を整理して、その間にナズナはコメントを書いていく。
なんだかんだ言ってもこの作業はやっぱり楽しい。

「お弁当!甘い卵焼きがとっても美味しかった!
あーっというまに全部食べちゃった!ご馳走様!」

「しらさぎと桜。
しらさぎは美人だから髪に桜がついても映えるね~!
写真撮ってるのに気付いたら照れちゃって!
かーわいー!」

「しらさぎと、桜の木と、私!
大きな桜の木の前で記念写真!
あー!とっても楽しかった!
また来ようね、しらさぎ!」

お花見も終わり、2人で楽しかったね、と笑い合いながら帰る帰路。
ふと辺りを見渡すとあっという間に夕方だ。
楽しい時間って何でこんなに短いんだろう。

「楽しい時間ってなんでこんなに短いんだろう。」

ふと、ナズナが私の心を読んだかのように言ってきた。
あまりの偶然にびっくりするも、思わず2人で笑ってしまう。

ひとしきり笑った後、ナズナは涙を拭いながら私の手を取ってきた。

「しらさぎ、私ね、」

ドンッ

ガリガリガリガリガリガリッ

ギギ…ギギギギ…

私が覚えている最後の記憶は、これでおしまい。
何が起こったのか、全くわからなかった。
突然襲ってきた衝撃と、強い浮遊感。
そして…地面を転がる感触と、真っ赤になっていく視界。

目を覚ませば、そこは病院でした。
私はそこで、先生にこう言われました。
「ナズナさん、落ち着いて聞いてください。しらさぎさんは、記憶障害を患ってしまいました。

しらさぎさんは、記憶が1日しか持ちません。
次の日になると、記憶がリセットされてしまうのです。
辛いとは思いますが………」

あとの言葉はもう耳には入らなかった。
先生の言葉なんかより、私の体の痛みより、目の前の人が、私より多くの管に繋がれて、明らかに重症だった。
それが、ショックで。
目の前の人も、ショックを受けた顔をして。
先生がいなくなった後、私達は2人でわんわん泣いた。

「えっと…、はじめまして。ナズナです。
あなたの事が大好きで、恋人になりたい友達です。
これからよろしくね!」

ナズナさんは、辛いはずなのに私に笑いかけてくれた。

ナズナさんは私の記憶がいつかちゃんと戻るようにって日記を看護師さんに頼んで買ってきてもらって、私にプレゼントしてくれた。

記憶が無くなるのが怖くて、夜に泣き叫ぶ私をナズナさんは「たとえ記憶がなくなっても、
生きててよかったって言えるようにそばに居るよ。」と言って私が泣き止むまで起きててくれた。

ナズナさんは人の日常を写真で切り取るのが好きらしい。
声をかけると日常から離れてしまうから、あえて声をかけずに写真を撮るんだって。
ナズナさんが手元だけ動かせるようにまで回復した頃、アルバムを見せてもらった。
そこには、私の知らない私が沢山いた。

「寝起きのしらさぎ。
おはよう!どんな夢を見てたのかな?
寝起きのBGMは…、私のシャッター音で!
どんな夢を見てもそばにいるよ、しらさぎ。」

「料理中。
しらさぎが作ってるのは私の大好きな甘い卵焼き!
もういい匂いがしてきた…
つまみ食いしたのバレてないよね?
回復したら、一緒にまた甘い卵焼き作ろうね!」

「お弁当!甘い卵焼きがとっても美味しかった!
あーっというまに全部食べちゃった!ご馳走様!
本当に美味しかった!しらさぎと一緒にいたから美味しかったのかもしれないね!」

「しらさぎと桜。
しらさぎは美人だから髪に桜がついても映えるね~!
写真撮ってるのに気付いたら照れちゃって!
かーわいー!
また、見れたらいいなあ」

「しらさぎと、桜と…」

最後の写真はクシャクシャになっててよく見えなかった。
でも、どれもが幸せそうな私が写ってて、まるで別人みたいだな…とうっすら思った。

どの写真も自然に取られてて、見ていてぎこちなさを感じない。
なにか写真のコンクールに出せばいいのに、と声をかけたが、
ナズナさんには「…私は評価される為に写真を撮ってるわけじゃないよ」と困ったように笑いながら言われて断られてしまった。
なんだか勿体ない気もするけれど、本人がそれでいいなら良いのかな…?

「しらさぎはさ、好きな人とか、いるの?」
ある日、ナズナさんから唐突に聞かれた。
ナズナさんの言葉にドキッと思わず胸を高鳴らせるも、その理由は分からない。
好きな人…かあ…。
私は今日初めてナズナさんに会ったから、好きとか、そういう感情はよく分からない。
ふるふると首を横に振ると
「…そっか」

ナズナさんは悲しそうに笑った。

ある日。ナズナさんが息を引き取った。

私の前で、幸せそうに笑いながら…
「あのね、しらさぎ。わたし、しらさぎの事が好き。大好き。」
そう言って、泣きながら笑った。

きっと、アルバムの中にいる私もナズナさんのことを好きだったんだと思う。
毎日記憶がなくても、知らず知らずのうちにナズナさんの病室に足を運んでたのは、きっと…好きだったから。

…忘れたくない。
ナズナ、ナズナ。
大丈夫、まだ覚えてる。
ナズナ、私の好きな人で、大事な人。忘れちゃいけない人。
もう二度と会えない、もう二度と一緒にいてくれない。
ナズナ、ナズナ。何度も紙に書いて、アルバムにも名前を書いて、頭を文字で埋め尽くす。
ナズナ、ナズナ、ナズナ、ナズナ…

ナズナはしょっぱい卵焼きが好きで…?
甘い卵焼きを…食べさせたら…嫌な顔をしてた…

大丈夫、まだ覚えてる

気がついたら寝ていたようで、朝が来た。
起きても私の涙は止まらない。
ボロボロと涙を流しながらふと、手元の紙を見る。

「ナズナって…、
…誰…?」

↓↓↓以下あとがき↓↓↓

お疲れ様でした。どうも、花の月です。


ナズナは既に余命宣告をうけており、
ナズナのアルバムにあったクシャクシャになった紙には「自分がいなくなっても幸せでいて欲しい」という願いが書かれていました。

しらさぎはこの深い悲しみも一日でリセットされ、毎日来る日も来る日も無意識にナズナの部屋に向かうことでしょう…悲しいね…

今回は救いのない話を書いてみましたが、もしかしたら最初のしらさぎとナズナはもう向こうで出会えてるのかもしれない…と思うと救いがあるかもしれませんね。

しらさぎやナズナには元ネタがあります。もしかしたら薄々気づかれているかもしれませんが、
最後に元ネタをお見せして今回はお別れとなります。

しらさぎ(サギソウ。花言葉「夢でもあなたを思う」)
ナズナ(花言葉「貴方に私の全てを捧げます」)

お粗末様でした。

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花の月

小さいころから絵を描くのが好きでした。 淡い色の絵が好きなのですが、自分自身は全体的にキラキラした絵が得意です 喉から手が出るほど創作が好きで、創作話を聞くのも書くのも楽しいです。 1枚1枚魂込めて描きますので、少しでも楽しんでいただけると幸いです。

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