不思議図書館・索「5:最後のお使い」

グリモワール。フランス語で魔術の書物を意味し、特にヨーロッパで流布した魔導書を指す。グリモワールに「分類される」本はあるが、グリモワールという題名の本は、むつぎは知らない。

あの夢?を見て目覚めた時から、むつぎは不思議図書館の隅から隅…特に禁書を中心にグリモワールと関連する書籍を探した。だが、どれもむつぎの求めている「魔導書グリモワール」では無い。

「・・・・・。」

むつぎは悩んだ末に、あることをし始めた。

更にその翌日、みるの元にイミアがやって来る。

「珍しいね?イミアが私と2人だけで会いたいって言って来るなんて。」

「うん、あたしも困ったけど、どうしてもってお願いされて…」

「お願い?」

みるが首をかしげると、イミアは腰のバッグから手紙を取り出した。

差出人は…むつぎ。

「みると2人だけで読んで、どうしてもそこに書いてあることをしてほしい…って。むつぎさん、真剣な顔をしていたし、あたしの能力的にも想いがあるって伝わってきたから…あたし、断りたくなくて…。」

「ふむ。…それは…ね。」

イミアの選択をみるは否定しなかった。イミア個人の気持ちは抜きにしても、イミアの「運び屋」の能力での目利きは間違いない。相当な想いがこの手紙には込められている。

「開けて読むよ?」

「うん。」

みるはイミアから手紙を受け取ると、封筒から中身を取り出し、イミアに見せながら手紙を読んだ。

『みるちゃん、イミアちゃんへ

俺は覚悟を決めてペンを取りました。

どうか2人に、俺からの最後のお使いをしてほしい。

ユリィ様やサラミ…他の誰にも知られずに「魔導書グリモワール」を見つけて、俺に届けてほしい。これが最後のお使い…いや「お願い」だ。

終わった後、俺はみるちゃんの事は一切詮索しない。関わらないし、頼み事もしない。

ただの司書として、自分で全部するよ。もちろん、イミアちゃんやユリィ様とは仕事のやり取りはするけど、本当にそれだけだ。この手紙を誓約書にしてくれて構わない。

どうか、お願いします。 むつぎ』

むつぎからの手紙。その内容に、みるは戸惑いを隠せない。

なぜなら…

「私…知ってる…魔導書のある場所…。」

「ええ!?みる、知ってるの!?」

「イミアは覚えていないの!?私達2人で師匠のところで修業したじゃない!」

「それは覚えてるけど…」

「師匠の部屋の本棚にあったよ!魔導書グリモワール!何回も交代で掃除したじゃん!」

「確かにしたけど、本棚にそんな本あったっけ…。それに、先生やサラミに気付かれずに魔導書を持ち出して届けるなんて…出来る?」

「わからない。でも、イミアとなら出来る…と思う。」

「あたしと?何で?」

「イミアの運び屋の能力と私の魔法なら、いける気がする。イミアはどう思う?イヤなら断ってくれて全然いいよ。」

「…やる。むつぎさんの手紙から伝わった想い、無駄にしたくない。」

「ほら、そのイミアの思い。だから私はイミアなら運べるって思うの。」

「そうかなぁ…でも、ありがとう、みる。」

「こちらこそ、ありがとう。…むつぎの…「願い」なら、仕方ないね。」

2人の「お使い」は、その日の夜に図書館の前で決行された。

「私が全力でイミアをサポートするから、イミアは「運ぶ、届ける」に集中して。」

「う…うん、わかった。でも、もし先生に会ったら…」

「私が何とかするから、イミアは止まらないで。」

いつになく真剣な顔のみるに、イミアは頷く。

すると、キン!という耳鳴りのような音と共に、みるの足元に薄桃色の魔法陣が光り始めた。更にみるの手から同じ色の光の球が現れ、宙に浮かんでイミアの傍を浮遊し出す。

「サーチ!」

みるが唱えると、頭の中に地図とユリィとサラミ、そしてイミアの位置が浮かんでくる。

「…大丈夫、今は師匠もサラミも、あの家の近くにはいない。イミア!」

「わかった!」

みるの声を受けたイミアは走り出した。その傍をみるの光の球2つも浮遊しながらついていく。

場所はわかる。

だから到着に時間はかからなかった。

「着いたよ、みる。」

『わかった、ちょっと待って。』

図書館前のみるは魔法陣を発動したまま、光の球を通じてイミアと会話し、更に魔法をかける。

『デセイヴ!』

幻惑系の魔法。これでしばらくイミアは周囲を「欺ける」ようになった。結界や探知魔法などにも引っかからないし、魔導書に防護がかかっていても手に出来る。

『行って、イミア!』

「うん!」

イミアは扉を開けて、慎重に、でも急いで目的のユリィの部屋を目指した。鍵すらも「欺いて」いるので、イミアの前に障害はほぼ無い。誰も来ないかは、みるがサーチの魔法で見ているから、何かがあればすぐにみるが知らせてくれる。

(でも、これだけの魔法を長く使っていたら…みるが…!)

魔法は、本人の技術と魔力量で成せる技。魔力が無くなってしまえば、生命の危機すら有り得るのだ。

だからイミアは、潜在的にあって使える「能力」を得ることにした。…あまり魔力が無い、というのも理由の一つだが。

そうこう考えているうちに、ユリィの部屋にたどり着いたイミア。中に入ると、本棚に確かに魔導書グリモワールがあった。

(確かにあった!…それなのに、なんであたしは覚えていなかったんだろう…?)

イミアは魔導書をバッグに入れると、すぐさま部屋を出て、家から脱出する。

後は、ひたすら図書館を…むつぎを目指して走る。

絶対に届ける、その思いだけを抱いて。

「みる!」

図書館の前…魔法陣を発動しているみるの姿が、イミアの目に映る。

だが、みるはハッとして右手を振り上げた。するとイミアについていた光の球がイミアから離れ、イミアの後方に飛んで行き…弾け飛ぶ。

イミアのすぐ後ろに、ユリィが浮かんでいた。

みるの魔法の効果が徐々に弱まって、ユリィに感知されてしまう程になっていたのだろう。

それでも、みるはイミアの前に出た。

「イミア、入って!」

「でも!」

「言ったでしょ、私が何とかするから、イミアは止まらないで、って!」

会話をしている間に、ユリィは扇を開いて攻撃してくる。

「…氷術・雪花針!」

「弾ける流星・シューティングスター!」

飛んできた無数の氷の針を同じ数の光の球を飛ばして相殺した、みる。

その間に、イミアは図書館の中へと飛び込んで入っていった。

「…まさか、貴女がアレを助けるなんて。記憶が無いって、素晴らしいわ。」

「って事は、私の記憶が「ある時から師匠に起こされるまで」の間、ぶっつり途絶えているのは…」

「そう、アレの…むつぎのせいよ。まあ、やったのはアレじゃなく、クロハネだけど。」

「…どうして?」

「それはこちらの台詞よ、みる。どうしてアレを助けるの?アレは貴女とクロハネを引き「裂いた」、今も貴女の障害になっている存在なのに。」

みるは、ユリィの顔を見て、はっきり言った。

「…「お願い」って、言われたから。」

それを聞いたユリィは何かを諦めた様子で、哀しい顔になる。

「なぜ、貴女は…記憶を失っても「願いを叶える」の。なぜ、やっと「双子から1人の少女」に生まれ変わったのに、復讐しないの…。」

「それ、何度も聞いてきたよね、師匠……ううん。「ユメリィ」。」

「だって…貴女は…生まれ変わってもどれだけ苦労してきたのよ!貴女は人間!人間が神に、人の身体のまま…「女神」になる事がどんなに辛く厳しいか…」

「うん、辛かった。何で私なんだろうって思った。でも…私に希望をくれたのも魔法で、女神の力だった。だから……私は「■■■」を救うって決めた時から、女神になる事を選んだ。女神になれるように「強い願い」を叶えてきた。ユメリィの時みたいに。」

「そうよ!どうしようも無い時、貴女がやってきて私は救われた!…だからずっと貴女を支えようとしてきた!」

「…ごめんなさい、ユメリィ。きっと大変だったよね?」

「それは…無いわ。だって私には、貴女が叶えてくれた「願い」があったから。」

「じゃあ、もうちょっとだけ…私のワガママに付き合ってくれる?」

…その時、図書館の扉が開き、まるで中に吸い込むような強い風が起こった。

「ユメリィ、後は任せたよ。」

「ダメ!…ミ…みるっ!!」

女性は手を伸ばしたが、みるはその風に身を任せ、図書館の中に吸い込まれていく。扉は他は要らないと言わんばかりに閉じてしまった。

「みる…っ…私は…クロハネに貴女を任せられていたのに…!」

地面に降りて図書館を見上げる女性。

見上げる図書館は暗い雲に覆われていた。

暗い雲の僅かな隙間から、黒い羽根がひらりと舞い落ちて、女性の手の平に乗る。

「…!!」

女性は顔を上げて図書館全体を見た。

「まだ…みる達の為に、出来ることがあるのね?クロハネ。」

暗い雲からは、やがて雷鳴が響き始めた。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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