大悪魔の叫びで室内に嵐が吹き荒れ、無数の本が舞う中、ユリィが魔術を発動する。
「付術・強化、速化!…サラミ!」
「待ってましたっ!」
ユリィの背後に隠れていたサラミが、とてつもない速さと鋭いツメでイミアを捕らえていた本の紐を切り刻み、そのままイミアを抱えて跳んだ。
【し、しまった!人質が…!お兄さ……】
イミアを逃して焦るゼルルだが、大悪魔の目にも耳にも届いていない。彼は魔力を放出して、狂い暴れている。
【ちょっと!何とかしなさいな、貴方達!】
「うっさい、このボロ本!」
【だってこのままじゃ、お兄さまが…モガモガ】
サラミはイミアをユリィのところに連れて下ろすと、ついでに取ったゼルルのいる魔導書グリモワールに、自分のマフラーを巻いて黙らせた。
「あの、みるが…こんな状況放っておくわけないだろ。」
サラミの言った通り、みるは無言で黒猫のバッグをサラミに預けると、嵐に全く動じず歩いていく。
そしてレフィールの前まで来ると、にっこり笑って右手を出す。
「レフィ、悪いけど…もうちょい、返してくれる?」
「……壊すなよ?」
「さあね〜?」
レフィールは、みるに銀色の鎌のチャームを渡して数歩下がった。一瞬だけ、レフィールは呆れた顔をする。
みるは一度深呼吸をしてから、鎌のチャームを掲げた。すると小さな飾りだった鎌は鋭く長い大鎌になり、みるの手に収まる。
「むつぎ!ベルフェ!…どっちでもいいや。どっちも貴方だし。」
「…その鎌で破滅させるのか?俺を。」
「したいならすれば?させてなんか絶対あげないけど。ただ、そんなに魔力を出して暴れたら、図書館もみんなも、貴方もタダじゃすまないの。だから…」
ビシッと、みるは鎌の先を大悪魔に向けて言う。
「止めさせてもらうよ!」
キン!という音と共に、みるの足元に薄桃色の魔法陣が光り始める。
「ピュア・シューティングスター!」
「またさっきの光の球か!何度やっても…」
大悪魔はまた黒い雷の剣で、みるの光の球を消そうとした。だが、今度は光の球が「意思」を持つように剣をスルリと避ける。そして数十の球は「弾」となって大悪魔の翼や身体に命中した。
「ぐあぁっ…焼ける…!?まさか…光系の魔法!」
大悪魔とて悪魔、光や聖なる力には弱い。先程の球よりも何倍も危険だ。
それが何十…いやヘタをしたら百近く向かって来る。それも「とてつもなく精密な操作」で。
「流石に「魔力弾」を真っ直ぐに飛ばすくらいなら数は関係無かったけど「精密さ」を求めると、どうしても補助か、別に使う魔力が必要でさー。数も減るし。アレ(さっきまでの、みる)でも師匠のところで修業してマシになったんだよ?」
【…あの球、魔力?え?は?追尾…ホーミング魔力弾?プラス光魔法?…何ですの、そのトンデモ魔力量と使い方!?普通は干からびますわよ!?やる前に蒸発しますわ!!】
「女神だからな。」「女神だもの。」
ちょっとだけマフラーが緩んで声が出るようになったゼルルの引き具合に、レフィールとユリィは明後日の方向を向いて言う。
「そんなにヤバいのか?」
【水分や血液を減らしながら、更に減らして弾にしているようなものですわ!!】
「えぇ…何それコワイ。」
【だからおかしいと言っているのではありませんの!そんなの、女神だとしても聞いたことありませんわ!】
「…みるは、生の女神と死の女神の生まれ変わり。世界すら滅ぼせるし、生命に活力を与えられるなら、魔力量だってそのくらい必要よね。」
【それを人間の身体で維持するなんて、異常ですわよ!!】
「だからたまに気絶したり、熱を出していてな。看病している間にベルフェリオが来ると大変だった。」
【お兄さまー!!?熱心過ぎてサイテーですわー!!?】
本になっている自称妹の叫びも虚しく、大悪魔は必死に複数のホーミング魔力弾を避けたり雷の剣で相殺したりする。
…からの。
「ライジング・ブレイク!」
みるの鎌の一振り。一振りなのに、切った後が3つあるのは何故なんだ。理解できない。
当然ながら魔力弾を撃ちながらの鎌攻撃。
「…さっきまでのみるが、可愛く思えてきた…。」
これには大悪魔も、心の中で半泣きになりたいくらい。
遠距離から光系のホーミング魔力弾、近距離から一振りで3つ切る鎌攻撃、止まらない魔力弾。
(これは一旦どこかに逃げた方がいいか…)
大悪魔は安全な場所へ移動する術を発動しようとする。
それが、一番の失敗だった。
後編に続く。