…キィンという耳鳴りのような音と共に、みるの魔法の枷が大悪魔の手足と身体を拘束し、その場に磔のような状態で動けなくされたのだ。
「移動系の術か魔法を使うと発動するように、罠を仕掛けておいて良かった〜。」
ニコニコしながら魔力弾と鎌攻撃を止め、大悪魔に近寄ってくる…みる、いや、女神。
「ねえ、むつぎ。師匠へのお使いの時に「何でもする」って、言ったよね?」
「え…な、なにを…」
「ん〜、いや、大したことないんだけど。」
みるは大悪魔から数歩下がり、再び魔法陣を光らせて、銀色の鎌を掲げた。
「今の私の「全力」、受けて。」
「え?」「「あ”っ…」」
そのたった一言で、ユリィとレフィールの顔面は真っ青になり、出来る限り皆との距離を縮めて、全力で強固な防御術と防御魔法と結界を張る。
2人と1冊の少女達は訳がわからず、大悪魔も戸惑っていた。
…鎌が薄桃色の光を纏い、周囲の魔力が鎌に集まってくる。それは大悪魔や少女が戦いで使った魔力の粒のようなもの。
「沢山魔力を使う魔法を使うとね、使った後の小っちゃい魔力の粒が残るの。しばらくすると消えるけど…私は「しばらく消えないようにして、それを集めて纏める」ことが出来るんだ。」
残った魔力を集めて、最後の魔法の威力を上げる。魔力を使えば使う程、それは強力な一撃と化す。
「光よ、永久に輝く、星となれ!!」
更に詠唱をする事で魔法は正確に、精密になる。
「ちなみに…レフィはちゃんと「耐えた」からね?」
女神の力…星の力で作り上げた、少女だけの魔法。
少女なりの、今までの騒ぎの、全力のお仕置き。
「フォーカシング・ラジエーション!!」
少女が鎌を振り下ろすと、巨大な光の波動が大悪魔に直撃し、更に図書館の壁を撃ち抜いてしまった。
見れば即わかる、レーザーやビームなんて生優しい…最早、砲撃。宇宙戦艦とかロボットとかが撃つアレの、少々小さい威力。
「…もしかして、先生達…」
「もちろん」「知ってたわ…。」
少女が拘束魔法を仕掛けたと知り、少女が「全力」を出すと言った時から、2人は少女が「こうする」と確信を持っていた。
だから被害が及ばないように、2人は防御をしていたのだ。流石に図書館の破壊は防げないだろうと諦めたが。
「あ!…それから、サクッと。」
シャキッという音が鳴り、みるは鎌で「何か」を「切り裂いた」。
「はー!久しぶりに全力出したー!…で、レフィー!」
みるは満足気に鎌を消し、レフィールにぎゅっと抱きつく。
「会いたかった…レフィ。」
「苦労かけたな。ミィ。」
「今は「みる」なんだけど。じゃあレフィだけ「ミィ」って呼んでいいよ。」
「………ああ。ところで、今何を「切り裂いた」んだ?」
「うーん…。」
みるはレフィールに耳元でヒソヒソと何かを言った。
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…酷い夢を見た気がする。「俺」がみるを…ルゥを傷つける夢。…みる?…ルゥ?
「呼んだ?」
目を開けると、大きな白いリボンを付けた黒髪の少女が、手を差し出していた。
「大丈夫?」
「俺…は……」
「貴方は「むつぎ・ベルフェリオ・バアル」。大悪魔で図書館の司書!で、
私は「ミィ・ルティナリス・セブンス」、
略して「みる」だよ!」
少女は、星のように輝く笑顔で言う。
その少女の手を…大悪魔で図書館の司書の男は、申し訳なさそうに、だが少し嬉しそうに、握った。
『私とレフィとユメリィ以外の者の、ベルフェリオが女神の少女に迫って引き裂いた、って記憶を切り裂いて消滅させたの。』
・
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これで、一連の事件はとりあえず解決した。
その後、むつぎはベルフェリオの記憶と力を持ちつつも司書を継続する事にし、グリモワールに入るゼルルを助手にしている。
後は相変わらずだが…サラミはよくイミアの方へ行くようになった。理由は当然、みるとレフィールの仲の良さに胸焼けがするから。
ユリィはしばらく神霊のまま、みるとむつぎを監視しつつ、修理者の仕事を請け負っている。
そして、みるは…
「今度は、強い願いを持つものの願いを叶えるって女神の修業で、本を「観る」よ!」
という理由で、相変わらず図書館の常連を続けている。9割オマケでレフィールが虫除けに付いて来てはいるが。
ちょっと変わったところもあるが、不思議図書館は今日も通常通りに開いている。
…数日後、久々にみるの家に集まったイミアとサラミと、みる。
皆でお菓子を囲んでいると、ふとサラミがみるに聞いた。
「みる、何で悪魔のむつぎや、悪霊だったユリィさんを助けたんだ?元々悪い奴だろう?」
「サラミ…「悪」ってつくからって絶対に悪い奴だと思ってるの?」
「違うのか?」
「違うよ、彼らはそういう「種族」なだけ。もちろん悪い奴もいるし、悪さをしていたかも知れない。でも、ちゃんと反省していたり、悪さをしない奴もいるの。…人間の方が、よっぽど悪かったりする事もあるよ。」
みるは自分の携帯を取り出して、ある写真をイミアとサラミに見せる。そこには、みるを間に挟んで笑う男女が写っていた。
「誰?」
「私の、姉さまと兄さま。双子で孤児だったのを両親が養子として引き取って、跡継ぎにしようとしていたの。私が他の世界に行くのを…唯一認めて送り出してくれた。…今もちょっとだけ連絡とかしてるけど、両親と親族の監視が厳しいの。」
「…みるの、お父さんとお母さんは?」
「私の話を一切信じてくれなかったし、仕事ばっかりでほとんど一緒にいなかった。」
イミアとサラミは、何も言えない。
「恨んだりはしていないよ。そういう世界のそういう人間なんだって納得してる。…世界は無限にある。だから、私は「想い」を「観る」の。見た目ではわからない何かが、あるかも知れないから。」
かつて、先祖が双子の女神達の生涯を「観て」、語り継いでくれたように。もし語れなくとも…
本として、想いを残しているかもしれない。
終わる。or 関連本を検索。