「桜花さん、すいません。僕はしばらくの間、桜花さんにはお会いする事ができなくなりました。」
「板垣さん、それはどうしてと聞いても良いでしょうか?」
「いえ、今は何も聞かないでください。」
「分かりました。では聞かないでおきます。出版はこのまま進めても良いですか?」
「はい。お願いします。」
板垣の行動の理由が分かったのは次の週、桜花が元同僚と会うことになった時でした。
桜花が元の職場に足を運んだ時、病院で板垣を見つけたのです。
桜花は元同僚に聞きました。
「いまの人は何か病気?」
「いいえ、桜花には元同僚だから話すけど、個人情報だからいまの人が病気ではなくて、婚約者が病気らしい。先週、救急で運ばれてきたの。」
「そうなの。ありがとう。」
「婚約者・・・。」
別な意味で、桜花は困惑していました。
なぜなら、少なからず板垣に恋心を抱いていたからです。
板垣に婚約者がいたことにショックを受けていました。
「当然と言えば当然か、あんないい人が一人な訳がないか・・・。」
自分に言い聞かせながら、外の雨を眺めていた。
「雨は当分、止みそうにないなぁ。」
桜花の人生の雨はこれからでした。
5月28日、出版の日が決まり、桜花は板垣に伝えると共に先日の出来ごとのことを聞くことにしました。
「自分は元看護師で、先日、病院で板垣さんを見かけました。その時に婚約者の存在とその病気のことを知りました。こんなことを言うべきではないのですが、私は貴方に好意を持っています。ですから、今回限りで、共同制作は終わりにしたいと思います。」
「桜花さん・・・信じて貰えないかと思いますが僕も桜花さんが好きです。婚約者のことは学生時代からの流れで、そろそろ身を固めろという周りのプレッシャーに負けて婚約してしまっただけで、申し訳ないがそこには愛情のひとかけらも無いんです。僕にチャンスをくれないでしょうか?」
「そんなことが・・・。そうですか、私は板垣さんを信じます。ですから、何時まででも板垣さんをお待ちしたいと思います。だからと言ってプレッシャーに思わないでください。私は私の人生を生きます。行き先で、また、お会いできることを願います。」
「ありがとう。僕は何年かかっても桜花さんの元にたどり着けるように頑張るよ。」
「はい。」
こうして二人の恋は始まる前に終わってしまったように思えました。
何故か、再会は約束されていて叶うと二人は感じ、お互いの成長を願いながら、一時のお別れを選びました。
雨は花を散らした後、青葉を芽吹き秋は紅葉をし、冬に力をためて再びの開花に繋がるように、二人の世界は続いて行くのだと思いました。
雨も降らないと桜が綺麗に咲くことができないように、人生にも雨が降らないと綺麗に花咲くことができないのでしょう。