solitario: chapter1.The Fall of the Princess 「1.tutorial」

ドイツ郊外某所

スーツ姿の女性が一台のアウディ S8(ドイツの自動車メーカーのハイエンドモデルのスポーツバージョン)に乗り、ある場所を目指してアウトバーンを走行していた。

彼女の仕事は「運び屋」であり、名前は通称「M」と様々な依頼者から呼ばれている。
だが、運び屋はメインであり、それ以外の汚れ仕事も報酬次第では承る。
日本人並の時間、仕事の正確さと名前を明かさない事により、裏稼業から依頼を頼まれることが多い。

目的地の屋敷前にたどり着き、腕時計で時刻を確認すると時刻は14時。予定通りの到着だ。
彼女はトランクに入れていたアタッシュケースを取り出し、玄関のドアをノックする。

「あら、やっぱり早かったわね」

重たそうなドアが開き、赤いドレスに赤い口紅を付けた貴婦人がMを出迎えた。

「依頼のものだ」

「ここで渡さないでくれる?…ふふっ冗談よ。けど、今度は私から依頼したいから中に入って」

「…はぁ」

Mは貴婦人の「ロゼレム」の言葉に仕方なく従い、屋敷の中へと入る。
彼女の後を少し離れた距離でついていき、彼女の仕事部屋に入るとロゼレムは二つのバカラグラスに13年もののワイルドターキー(とうもろこしと大麦で作られるウイスキー)を注ぐ。

「私は飲まないぞ」

「ふふっ残念だけど、すでに入れちゃったから諦めなさい。あなた毎回ここに来てはすぐ帰っちゃうからつまらないのよ。私一人だしさみしいわぁ」

「それは自業自得だろ」

「ふーん…あなたは平気で言うわね。けど、これも依頼よ。どうする?正確な仕事をしてくれる「メイ」…」

「その名前で呼ぶな。嫌いなんだ。…それより、依頼は?」

Mはデスクに置かれているバカラグラスを奪い取るように取り、口をつける。
ロゼレムは受け取ったアタッシュケースをドスンと乱雑にデスクの上に置き、中身を確認すると薄気味悪い笑みを浮かべ、ワイルドターキーを飲む。

「良いわね…。じゃあそこにある封筒を運んでちょうだい。報酬と目的地も一緒よ。時間はいつでもいいわ。楽でしょ?時間指定無しなら観光しながら運べるものね。ドゥオーモとか私は好きよ?」

「観光する気はない。私はこれで失礼する」

Mはロゼレムの話を嫌々聞いた後、ワイルドターキーをグイっと一気に飲み、部屋を出ようとした。

「あっ!ついでにアペロールも買ってきてね。私あれ気にな…」

ロゼレムがMに酒も依頼しようとするが、Mはそれを遮るようにドアを閉めた。

「…もぅ…つまんないわね…」

ロゼレムはデスクに座り、ため息をつくと近くに置いてあったシガローネ(黒と銀で統一された高級タバコ。一箱およそ1040円)を手に取り、一服する。
MはS8に乗り込み、ため息をつく。
ロゼレムの話にうんざりしているのもあるが初期の頃からの客なため我慢できる。
だが、彼女の会話の内容で目的地の場所が察しついた。
念のため封筒内の目的地の書かれた紙を見る。
そこには「Italy」と細かな住所が書かれていた。

Mが今いるロゼレムの屋敷はドイツだがデンマーク寄りの場所にある。
そこからイタリアまでかなり距離があるため、めんどくささを感じる。

ロゼレムの「時間はいつでもいいわ。楽でしょ?時間指定無しなら観光しながら運べるものね」という言葉は「イタリア人は色々ルーズだから遅れても気にしない」という彼女がイタリア宛に依頼をする時とMに対して「きっちりしすぎだ」と思った時によく言う二者に対する皮肉だ。

Mははぁ…とため息をつき、車のエンジンをかけ、観光する気なしで目的地へと出発した。

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柏木桜

初めまして、柏木桜です。趣味で小説を書いていましたが、イラストを描いて自分が生み出した作品をみんなに知ってもらいたいと思い、中学生以来久しぶりに描き始めました。 渋めなもの、改造車が好きなのでそういったものが多いかもしれませんが、そのうちキャラクターなども描いてみたいなと思っています。 どうぞよろしくお願いします。

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